2 地獄の森
「ところで、ルナ。ここってどこだ?」
俺は遅まきながら、当然の質問をする。
周りは巨木、大木、大樹。
薄らと陽光が差し込んでいるが、結構森の奥深くにいる気がする……
「ああ、ここはね。『原生の森』だよ」
「そっか。『原生の森』か……って、なんだって!」
俺は我が耳を疑った。
『原生の森』とは、太古の昔からずっと変わらずに存在する、超巨大な森。
基本的に人間は近寄ろうとしないので、未知の動植物が数多く生息し、ザ自然みたいな場所だ。
かなり危険な動植物もいるらしいが……そんなことは正直問題ではない。
いや、魔法を使えない俺にとっては、大問題だけども……
この森に人間が近寄らないのにはもっと別の理由がある。
まず、森全体が強力な結界に覆われていて、一度立ち入ると、決して出れないような仕組みになっている。
つまり、一方通行。そりゃあ、近づかないよな。
そして一番の問題は、その仕組みを利用して、この森には大量の凶悪犯が閉じ込められていることだ。
巨大な監獄。
魔法使いにも当然格の違いは存在する。
弱者は守ってもらうために強者のもとに集い、強者はいつしか国を作った。
何百、何千と点在した国は、次第に併合され……現在は巨大な九つの国が存在する。
絶妙なバランスで均衡を保つ現在、王たちは民を守るため、戦争の火種となる存在を捕え、『原生の森』に閉じ込めた。
そう、俺たちが今いる、この場所に……
「って、ヤバいじゃん!」
俺は周囲に誰かいないか、キョロキョロと見回す。
……よし、今のところ、誰もいないな。
「『原生の森』――通称『地獄の森』にやって来たわけだけど、ユイトにはここにいる凶悪犯と戦ってもらいます」
「ル、ルナさん。じょ、冗談ですよね?」
「え? 冗談でわざわざこんな物騒な森に来ないよ」
ルナは何言ってるの、と首を傾げる。
「最強の魔法使いと謳われる『九王』たちが手を焼いて、わざわざ閉じ込めている化け物たちに、俺なんかが勝てるわけないだろ! 出会って、三秒で殺されるって!」
「大丈夫。ユイトはこれから半年で、その最強たちをも負かす、本当の最強になるんだから」
「いやいや、だからその前に死ぬって」
この子、頭大丈夫か?
いや、それとも、ルナには何か秘策が?
「なんか、私を当てにしてるみたいな顔してるけど……私、戦闘力皆無だからね」
「え?」
「まあ、見守っていてあげたり、頑張ったあとにご褒美くらいプレゼントしてあげるけどね」
……ご褒美。
それって、もしかして……
「いやいや、そんなんで勝てたら苦労しないって。何か具体的な方法を――」
「あ、来たよ」
不意にルナが俺の言葉を遮った。
「はっ、来たって、何が……」
ルナの視線をたどり、俺は後ろを振り返る。
そこには、一人の男がいた。
長身で髪の長い……まるで何ヶ月も髪を切っていないようなボサボサ頭。
ひげも伸び放題で、男の顔はよく見えない。
服装は、ぼろい雑巾みたいに汚いコートを纏っていて……
「私の情報によると、彼の名は『加虐者』。他人の痛がる姿や苦しむ姿を見て楽しむ、変態よ。その手に掛けてきた人間は数知れず、とくに少年をいたぶるのが好きだそうよ」
……ああ、どうりで。
長い前髪から覗く眼光が、俺の方ばかり見ている気がしたわけだ。
って、あれ?
俺、死んだんじゃね?