プロローグ
少女は予言した。
――数年後にこの世界は滅ぶ。
偶然にもその場に居合わせた俺は……いや、予言者曰く、必然らしい。
必然……?
もしかして君は俺に何かをさせようというのか?
魔法の使えない、落ちこぼれの俺に。
少女の言葉は続く。
――世界を救いたいなら、より多くの魔法使いたちが手を取り合うよう計らいなさい。
そんなことは無理だ。
予言を信じるかどうかは別として、俺は率直にそう思った。
魔法使いの多くは、自分のためだけに魔法を使い、自分のやりたいことをやる。
中には、良い魔法使いもいるだろうが、そんな人はほんの一握りだ。
それはそうだろう。
魔法は自らの激情によって生まれる存在であり、そして己が望む最高の力であるのだから。
魔法使いは皆、自分だけしか使えないオリジナルの魔法を使う。
魔法こそが己の本質であると宣言するかのように。
少女は俺に語りかけてくる。
――この世界の人々は皆、体内に魔力を持ち、一人残らず幼き頃に魔法使いとなる。
――だからこそ、幼き日に激情を抱かず、魔法使いにならなかったあなたが唯一の鍵。
――この世界の救世主となるであろう唯一の。
意味が分からない。
この世界で唯一、魔法という圧倒的な力を持たない俺が、一体どうやって救世主になるというんだ?
生まれてから十五年間、逃げて逃げて、どうにか生きてきた、こんな哀れで惨めな俺が。
少女は手を差し伸べる。
――さあ、私の手を取りなさい。
――あなたを最強の魔法使いにする場所に連れて行ってあげる。
俺を魔法使いに……
それも、最強の。
――だから、約束して。この世界の救世主になるって。
少女の手に触れた瞬間、俺は奇妙な浮遊感を味わい、その場所へ――最強の魔法使いとなるための、地獄へと移動させられた。