闇からの刺客
目が覚めるとそこは暗闇の中だった。僕はキョロキョロしながら周囲の状況を観察してみる。
だんだんと目が暗闇に慣れて周りが見えてくる。
「ここは……学校?」
僕は何故学校に居るんだろう? 昨日は普段通り家のベッドで眠ったはず……そんな思考を中断させるように僕の隣から女の子の声が聞こえた。
「……うぅん」
そちらを向くとそこには誰かが机に突っ伏している。
「桜木さん?」
僕が声をかけるとその少女、クラスメイトの桜木深雪が眠たそうな顔を上げてこちらを向く。
「……隼人君? なんで隼人君が隣に?」
この僕の隣で目を覚ましたばかりの女の子は桜木深雪。僕のクラスメイトで、人懐こい大きな目が特徴の女の子だ。
肌は透き通るように白く、肩で切り揃えられた黒髪が良く似合っている。
華奢な体型も相まって小動物のような可愛さがあり、校内でも一部の男子に人気がある。
あの大きな目で覗きこむように見つめられてその気になってしまった男子達は両手では数えきれないだろう。
本人にその気が全くないのだから罪作りなことだ。
そんな彼女の大きな目も、今は眠そうに半分閉じていてこれはこれで可愛いなとか考えていると、彼女もキョロキョロと周りを見渡して
「教室……だよね、ここ……」
彼女も何故自分が学校に居るのかよく分からないようだった。
「教室だね。でも何でここで寝てたんだろう」
僕はそう呟いて、昨日のことを思い出していた。
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「隼人! 早く起きてご飯食べなさい!」
聞き慣れた母親の声で目が覚めた僕はノロノロとベッドから降りて携帯を手に取って時間を見る。
何故かカメラ用のライトが点きっぱなしになっていた。
「アラーム消す時に寝ぼけて点けちゃったのかな。……やばっ、遅れる!」
慌ててリビングに向かい朝食をサっと済ませて洗面所へ行き、鏡を覗きこんで身だしなみをチェックする。
黒髪黒目にもう少しだけ高ければと思う鼻、全体的には自分でも整っていると思う。
映しだされたいつも通りの自分に満足して、寝癖がついていないのを確認すると学校に出かけた。
いつもの通学路を歩いて学校へ着くと自分の机の中に一枚の紙が入っているのに気が付いた。
その紙には綺麗な字でこう書かれていた。
『放課後に、旧校舎裏に一人で来てください。お話したいことがあります。 桜木深雪』
なんだろう、告白とか? まさかこんなベタな誘い方で告白とか無いよね……
とか考えながらもちょっと期待しつつ表情がニヤニヤしているのが自分でも分かる。
教室内を見渡して手紙の主を探して見ると、彼女はいつも通り穏やかな表情で自分の席に座っていた。
いつもより長く感じるつまらない授業を消化して待ちに待った放課後、いそいそと帰リ支度をして、もう一度彼女の姿を探してみたが、既に彼女の姿は無くクラスメイト達が教室からバラバラと出て行くところだった。
よし行くか! はやる気持ちを抑えつつ教室を飛び出して、旧校舎裏へと歩いた。
今は使われていない旧校舎までは普通に歩けば十分ほどだが、知らず知らずに早足になっていたらしく、十分もかからずに到着してしまった。
そこにはいつも通りの人懐こい大きな目の少女が俯き加減で落ち着きなく立っていた。
「桜木さん、待った?」
そう声をかけると彼女は、はっとした表情でこちらを向いて
「ううん、急に呼び出してごめんね」と笑顔で迎えてくれた。
少しの沈黙の後、何か話した方がいいんだろうかとか考えていると、
「あの……急にこんなこと言って驚くかもしれないけど……私、白石君のことが好きです! よかったらお付き合いしてもらえませんか?」
目の前の彼女は真っ赤な顔で目にうっすらと涙を浮かべて、今にも泣きそうな顔をしながらもこちらをしっかりと見据えたままそう言った。
いや、待て落ち着け。ちょっとは期待してたけど、ほんとに告白とは。ヤバイ、心臓がバクバクして表情がニヤけそうになっている。早く何か言わないと……
「あの……私じゃダメですか?」
彼女の目にはもうこぼれ落ちそうなくらい涙が溜まっていたが、辛うじて堪えているようだった。
「ううん、ダメじゃないよ。えっと、こちらこそよろしくお願いします」
そう言って僕は彼女に軽く頭を下げた。
その後、二人並んで家に向かって歩いて帰ったのだが、正直舞い上がり過ぎていて何を話したのかよく覚えていない。
家に帰り着くと普段通り夕食を摂り風呂に入ってからベッドに入ったところまでは記憶にあるんだが……
―――――――――――――――――――――――――――――――
「あの、桜木さん。昨日のことなんだけど……」
「苗字じゃなくて名前で呼んでって昨日言ったでしょ?」
彼女は恥ずかしそうに俯きながら、消えそうな声でそう言った。
「え、あ、そうだったね。ごめん。えっと……深雪さん? 何で学校に居るのか分からないんだけど、何か知ってる?」
僕は照れながらも彼女に状況を聞いてみる。
「ううん。さっき隼人君に呼ばれて目覚めたらここだったよ。昨日はちゃんとベッドで寝たはずだけど……」
彼女は不思議そうに小首を傾げながらこっちを見てそう言った。
「僕もそうだよ。気付いたらここで目が覚めて隣で深雪さんが寝てたんだ」
そう言って改めて周りを見てみても、いつもと変わらない教室があるだけだった。
「とりあえず、電気点けようか」そう言って入り口の壁に備え付けてあるスイッチへと向かった。
「……あれ? 点かない」
何度もパチパチとスイッチを入れたり切ったりしてみても電気は点かなかった。
「点かないの?」深雪さんも不安そうにこちらを向いている。
「うん、停電なのかな? 何か明かりは……」
そう言いながらポケットをごそごそする。今気付いたが、なぜかご丁寧に制服を着ていた。僕は左のズボンのポケットにいつも通り携帯電話が入っているのを発見した。
「携帯があったよ。……あれ?学校って電波入るはずなのに」
画面の表示は『圏外』となっている。
「電話はかけれないけど、これで明かりは大丈夫だね」
そう言って僕は携帯で辺りを照らした。急に明かりが点いて深雪さんは眩しそうに目を細めている。彼女はこちらにタタッと駆け寄ってきて僕の左手を掴んで来た。
「ねぇ隼人君、とにかく家に帰ろうよ。何だか夜の学校って怖いし」
「そうだね。じゃあ行こうか」
そう言って扉に手を掛けるが開かない。
「あれ?」
ちょっと強く引いてみるが全く動かない。
「どうしたの?」
彼女も不安そうにこちらを見ている。
「いや、扉が開かなくて。この扉ってカギ付いてなかったよね?」
そう言って扉の上部に付いた小窓に何気なく目をやる。
「うわぁぁっ!!」
驚いて僕は後ろに尻餅を付いた。
「だ、誰か居るっ!」
小窓は擦りガラスになっていて、向こう側がはっきりとは見えないが人影くらいは見える。その人影はこちらを向いて覗きこんでいるようだった。一瞬だったのでよく分からなかったが、確実に誰かが居た。
「え? 誰も居ないよ?」
そう言われて小窓を見ると、人影は消えていた。
彼女が扉に手を掛けてそっと扉を開いていく。ゆっくりと開かれた扉の隙間から顔だけを出して左右をキョロキョロしている。
「うん。誰も居ないよ」
そう言ってこちらを振り向いて微笑んだ。その時! 彼女の背後の扉の隙間、その向こうの闇の中から手がヌッと現れたかと思うと彼女の頭を掴み、その隙間の向こうの闇へと一気に引きずり込んだ。
「きゃあああああああああああ!!!!」
「う、うわああああああああああああ!!!!」
僕は腰が抜けたように尻餅を付いたまま立ち上がれずその場で声を上げていた。
彼女は扉の向こう側へ頭だけ引っ張り込まれているが、肩が扉に引っかかって足をバタバタとしたままもがいている。僕は立つことが出来ないまま、彼女の足に抱きつくようにしてしがみつき彼女をこちらに引っ張った。
一分くらいだろうか。彼女の足にしがみついて必死に引っ張っていたが、急に足から力が抜けたかと思うとあっさりとこちら側へと彼女の体が返ってきた。
「だ、大丈夫?」
まだ彼女の足にしがみついたままだった僕はそう訊ねながら顔を上げた。
「……え?」
顔を上げた僕の目に映った彼女は、本来そこにあるはずのもの……首から上が無くなっていた。
手はしっかりと握りしめられ、首からは大量の血が流れ出て、むっとする血の臭いが漂ってくる。
「う、嘘……深雪さん……僕が引っ張ったから? う、うあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
僕の喉から自分でも聞いたことが無い叫び声が聞こえて、目の前が真っ暗になっていき、僕の意識は遠のいていった。
「隼人! 早く起きてご飯食べなさい!」
聞き慣れた母親の声で目が覚めた僕はノロノロとベッドから降りて携帯を手に取って時間を見る。
何故かカメラ用のライトが点きっぱなしになっていた。
「アラーム消す時に寝ぼけて点けちゃったのかな」
そういえば何か夢を見たような気がする。大事な何かが壊れるようなそんな夢だった気がするけど……。
「……やばっ、遅れる!」
慌ててリビングに向かい朝食をサっと済ませて洗面所へ行き、鏡を覗きこんで身だしなみをチェックする。
寝癖がついていないのを確認すると学校に出かけた。
いつもの通学路を歩いて学校へ着くと自分の机の中に一枚の紙が入っているのに気が付いた。
初投稿で、文章も構成も拙い部分が多いかと思いますが、
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。