九四式改水夜戦偵(E7K2-sn)かく戦えり?
FDRによる作戦のごり押しと誤算
真珠湾後に米海軍が企図した哨戒能力の低い各島嶼への攻撃は、米海軍が真珠湾で被った被害を撹乱するため、大統領サイドからのごり押しの強いものだったというのが一般の見方である。
真珠湾の責任を取らされてのキンメル大将更迭後、着任したばかりのニミッツ大将ではこれに反対を唱えられる状況に無く。これに従事した空母は3隻中1隻撃沈1隻損傷という結果と共に、厳しい空母運用を米海軍に強いらせたうえに。戦勝を望むFDRは、さらに賭博的な戦略的価値の薄い日本本土空襲に空母を従事させ、そのまま失敗し(ハルゼー提督が負傷しなければというIFは良く語られる)珊瑚海でのヨークタウン一隻での運用による喪失、ポートモレスビーの失陥と、敗勢の閉塞感をさらに逼迫する事態となった。
そこに、起死回生のつもりで大戦力を投入したミッドウェーでの敗戦の報が、FDRへと届けられる。空母2撃沈 (ホーネット・ワスプ)同2大破、戦艦4隻撃沈(Nカロライナ・ワシントン・メリーランド・ペンシルヴァニア)2隻大破、巡洋艦6隻撃沈、2隻大破、駆逐艦は5撃沈に損害多数。虎の子の空母が全て使い物にならなくなったばかりか、虎の子の新型戦艦であるノースカロライナ級を2隻とも喪失という現実は、空母赤城撃沈、飛龍大破、及び戦艦金剛撃沈、比叡中破という損害を与えつつも。けして許容できる範囲ではなく。さらにミッドウェー確保後すぐさま奇襲的に行なわれた第3次K作戦によって備蓄石油基地に損害を受けては、そのダメージは計り知れないものがあった。(そののち、北西ハワイ諸島の各環礁を利用して水上機部隊と潜水艦を連携させての偵察や潜水艦狩り、備蓄タンカーの撃沈を先細りつつ実施している)
そんな中でポートモレスビー陥落、ガタルカナル島の飛行場完成、分遣隊派遣という状況にあっては、オーストラリアも黙ってはいられない。矢のような救援催促が英米政府に突き刺さりだしており、豪首相はこのままでは連合国からの脱落もやむをえないとすら発言している。実際、ANZAC師団として豪陸軍は主力を北アフリカへと派遣しており、兵站上上陸すぐに全土占領はほぼありえないと思えても、ある程度の規模の兵力を本土に上陸させられたならば撃退は不可能という恐怖を考えればしかたの無いことであろう
結果、政治主導でオーストラリア救援のための作戦が練られることになる。英国は問われた。オーストラリアとマルタ島、どちらが英国の礎石であるかを
チャーチルはこう述べたという
『オーストラリアが脅かされるならば、インドが危うくなる。現在我々はインドからの物資を南アフリカ経由で本土へと輸送している。インドの危機は英国の危機である。マルタの失陥は地中海の失陥へと繋がるであろう。しかし蛇口は常に閉じられている。そのことを忘れてはならない』
これに対し、第一海軍卿であるトーヴィー提督はこう答えている
『厳然たる事実を我々は理解せねばならない。3月のセイロンで我々に何が出来たか。ハワイを空襲されて半身不随の米海軍を意に介せず、かの海軍には間違いなく4隻以上の大型空母、8隻以上の戦艦を短期的に、またそのうち数隻を長期的に投入することが可能であり、巡洋艦以下も10隻以上を投入かつ長期的な活動をインド洋にて実施させることが可能であり、その能力に不足はない。それに抗する能力を我が海軍は現在持ち合わせていない。むしろ戦力の投入は敵大兵力の呼び水となるべし』
ここに、外国、蒋介石とFDRからも待ったがかかる。蒋介石とFDRはこういう
『日本軍のインド洋進出によりベンガル湾の通商破壊、ならびに沿岸都市の空襲が恒常化した場合、援蒋ルートはほぼ完全にインド国内の鉄道輸送ならびに空輸に頼らざるをえなくなり、物資の供給減も見込まれる。こうなっては、日本陸軍がオーストラリア攻略のために引き抜く兵力の拘束に不具合をきたさざるをえない。インドはオーストラリアだけでなく、中華の命運もまた決するものなり』
『それだけでなく、オーストラリア地域の失陥は、南部太平洋における反攻の拠点の完全喪失を意味する。絶対に失うことの出来かねる戦略地域であり、連合国としてその重要性はいかなる損害をもってしても守られるべきである。また、広大な土地に対して陸上兵力の不足をかんがみ、残存の海軍部隊、ならびにわが陸軍部隊の供出も決定しうるべきものである』
大統領の発言にニミッツは顔面を蒼白にしてこうのべたという
『真珠湾のあと、私は太平洋艦隊の長官職になったが、いったいこれでは誰が長官であるというのか、そして、ハワイの防衛はいったいどうするのか。大統領は答えてはくれない。ただ、大統領府はそれにあった作戦案を提出しろと言ってくる。大統領にお伝えしたはずなのだ、艦艇は沈み、戻ってきた艦においても艦や人は傷ついている。出来る作戦案ではなく、ただ実施するだけの作戦案に踊らされているだけではないか!』
これは、そんな歴史の流れの中で生まれた一つの物語である
1942年11月、ティモール沖
《大本営発表、大本営発表、帝国陸海軍は南インド洋にて、米英軍との戦闘に入れり、本日未明の海戦において、我が海軍はリヴェンジ級戦艦1、イラストリアス級空母1を撃沈、着々と戦果を拡張t》
雑音交じりの軍艦マーチの背景と一緒に、景気のいいアナウンスが流れてくる
『おい、また勝ったぞ!』
『こりゃ敵さんいなくなっちまうんじゃねぇの!?』
そんな浮かれた言葉と、ばんざーい!ばんざーい!という叫びで頭が痛くなる。こっちは静かにヤシ酒が飲みたいんだ。うぃー・・・、こちとら、常に軍艦喪失第一号ということでいつも何度となく陰口叩かれんだ
『おいおい、瑞穂組はやっぱり辛気くせぇな!くせぇくせぇ!』
酔っ払いのペアが肩を抱きにくる。あー、カチンと来た、
『うるさい、ほっといてくれ。赤城や金剛が沈んだって聞いたときは泣いてたくせに。いちいち勝った負けたぐらいでピーピーいうなや!ガキかてめぇは!』
こうなったら売り言葉に買い言葉だ
『なんだとぉ!?てめぇやんのか!?』
『図星なんだろうが!』
『はっ!母艦がボカチン喰らったのはお前みたいなのがいるからだろうよ!』
『なんだと!!!』
『てめぇ!!!』
『『表出やがれ!!!』』
『で、喧嘩して憲兵に通報された、と』
お互いに青あざを顔に残した状態で司令部棟に出頭する。机には中隊長が腕組みをして座っていた。
『挙句酩酊して、何していたか記憶にない?・・・・この大馬鹿者が!!!』
怒声にすくみ上がる。この中隊長、めったに怒らないことで有名なのに。冷や汗が吹き出る。こりゃあ独房行きでもすまんかもしれん。直立不動で処分の言葉を待つしかない。なにせ、お互い記憶がないのだ
『・・・・こいつを見ろ』
パサリ、と秘という赤い判子のついた書類が机の上に引き出される。インクの匂いがするあたり、出来て新しいものだろう
『お前達が酔って寝ていた間に襲われた輸送船の記録だ』
『・・・・・・・』
言葉もない。沈みこそしていないが、書面上にある多数の銃撃を受けて孔だらけにされていることと、死者11名、重傷者23名という字面がことのほか心に重くのしかかる
『非番に飲むなとはいわん!だが、わきまえて行動しろ!』
『『はっ!』』
良かったぜ、お叱りだけですみそうd
『そして、懲罰としてこれの戦策を一週間以内にもってこい!いいな!それまで貴様らの飛行を禁止する!』
・・・訂正、最悪だ。この熱い基地で、一週間も空飛べないで地べたで這いずるなんて、熱気で死ねと。空に上がりさえすれば多少は涼めるのに!
『そ、そんな!』
『私からは以上だ。有効な意見を、期待している』
出て行けという無言の圧力に負けて、中隊長の部屋から出て行く
『『てめぇのせいだぞ!!』』
お互いが指を指す・・・・不毛な時間を1時間ほど過ごした後、切り出した
『で、どうすんだよ』
『んなこといったってなぁ・・・』
一介の搭乗員二人で出来ることなんてたかがしれている、先ほどの被害は、最近ティモール島近くで起きている偽装ジャンクボートによる輸送船への襲撃と海賊行為だ。豪首相の名前からカーティン・ボートと呼ばれるそれは、こちらの現地民がよく使うジャンクやサンパンの帆船なんやらにエンジンを積み込んで潜伏し、近隣を通る輸送船を銃撃したりする原始的きわまりないものだが、その単純さゆえに見分けがつきにくく、被害はそこまでではないとはいえ対応に苦慮しているものだ。なまじ、偶然漁に出ていただけの現地住民を巻き込みやすく、治安の悪化を恐れてなかなか手出ししにくいのが小憎らしい
『俺らが哨戒飛行してても助けられるのは昼だけだかんな』
『昼なら後部座席の旋回銃でなんとか出来なくもなくないんだが・・・』
複座の機体についてるそれだが、狙うには機体を傾けさせて打ち下ろす必要がある。そもそも旋回銃は敵に追われて後につかれたときなどにぶっ放すもので、そこまで使い勝手がよろしいものでもない。命中率もそんなによろしくない代物である。かつ、夜間となればうまく当たるかどうかは神様次第である
『しかしやつら、夜に出てくるのがほとんどだからな』
先祖がえりしたかのように海賊のようなやり方で襲撃してくる。一応、ダーウィンへは継続的に空襲を続けているし、ポートモレスビー陥落後のニューギニア豪残存地上部隊の掃討も、一応は進められているが、効果のほどは疑問符がつく。効果的に狩る手段が必要とされていた。
『しちめんどくせぇ・・・』
士官には時たまこういう宿題が出されるのであるが、俺達は下っ端一号なのに
『ぼやくな、でないと熱さで野垂れ死んじまうわ、それで警備の方にでも回されてみろ?歩哨だぞ?やってられん』
何が悲しゅうて抜け出したい方の人間が、それをやらされにゃならんのか
こうしてしぶしぶ二日かけて搾り出した問題点と必要点がこれである。
1、足の長さ(着水の点から夜間から夜明けまでは飛べるようになりたい)
2、低速力 (船団の護衛に早い機体を持ってきても、旋回の回数が増えて負担)
3、機動性 (発見次第向かう必要がある)
4、火力 (相手はジャンク船まがいであるため、7.7mm機銃より焼夷効果の期待できる口径機銃が望
ましい)
5、攻撃手段の変更 (従来の旋回機銃はもとより、ずっと降下して射撃し続けなければ行けない機首機銃よりも、弾幕を展開しての行動阻止が主眼)
6、吊光弾の多数搭載 (警告の意もあり)
7、無線機能の強化 (送受信の能力を考えれば二座より三座が望ましいか)
この七点に頭を絞ることになった。ちなみに機材はすぐに決定した。この場にあった九四式水偵である。180km前後の飛行速度で12時間飛べるこの機体はこの任務にうってつけと思われた。というより、改造を試せるような機体が他になかったというのが正しいのかもしれない。既に零式三座水偵が主力艦には行きわたりきって、ようやく基地のそれにも回ってこようかという時分である。使いつぶしが利いたのはおいしかった。そして、複葉機というのは機動性からいっても好ましいと思えた。
そして意外に意外なことに火力であるが、これがすぐに宛てがついた。九九式20mm機銃である。といっても種を明かせば何のことはない。零戦の初期に搭載されていた1号銃を手に入れたのだ。現在零戦の火力不足の改善に1号銃搭載機から2号銃搭載機へと改善を実施しており、翻って降ろされた機銃がごろごろしていたのだ。1号銃の問題点とされた低初速の垂れも、地上に向けてぶっ放すのであれば問題が無かった。
ペイロードについては、3番(30kg爆弾)を4発のマウントがあったため、問題ないかと考えられた。一回の襲撃にどれだけで対応するかは正直なところ想定できないものだったのだから仕方がない。
無線の送受信に関しては、偵察機ということもあり、この点に関しても比較的よろしかろうとお茶を濁した。全体的な工業力の問題であるから、個人の戦策としてはいかんともしがたいところである。とはいえ、三座機故の作業効率から見れば全然マシではあるのだが・・・
一番もめたのは攻撃方法である。本来の九四式水偵は機首の固定機銃は7.7mm機銃が一つだけ、20mmを乗っけるにはちとつらい。かといって旋回機銃での効率は先の通り、そして・・・
『機首からぶっ放しても海面目標に対して向かう限りは一箇所に銃弾は集弾するばかりだろうな』
一般的な映像作品として機銃掃射でありがちな銃弾が列を作って迫ってくるというのは航空機が地上に向かって攻撃してくるという状況にあってはほぼありえない話なのだ。普通に手でやってみればわかる。攻撃は正面の敵に向かって降下しながら行なわれる。そのまま真正面に弾は進むわけで(弾速による垂れはあるだろうが)狙った場所が爆発するように吹っ飛ぶというのが実際のところ正しい。機首を上げながらという手も無いわけではないが、それは敵を見ないで離脱しながらという状況であり、下手糞といわれても仕方なのない行動であるしかし、それが必要とされていた。
『敵さんとしちゃ、あたるも八卦、当たらぬも八卦よりかは、ずっと狙われてる、迫ってくるとなるような銃弾の水柱が迫ってくるようなのが圧力になるんだがなぁ』
『敵前面にそれを形成してこれ以上進むな、とかもだな』
見た目わかりやすい警告になる
『でも、載せ方がなぁ・・・』
『だよなぁ・・・』
そして、20mm機銃である。翼下につむとなると諸外国の機銃と較べても格段に軽いとはいえ、バランスを崩すのは間違いなかった。
『しかしこれ、違法改造の類じゃないのか?』
『あー・・・そういえば』
みだりに陛下から賜った兵器をいじくり回してはならない、というのは建前で、そういう現地改造や個人改良を許してしまった場合、補給や技術者でないとわからない問題が発生しかねない。特に航空機は絶妙なバランスで成り立っている。のだが・・・
『て、うおい!ポートモレスビーのやつら、二式陸偵になにやらせてんだ!?』
『重爆対策らしいけど、大丈夫なのかよ、あれ』
当時ポートモレスビーに進出していた台南空であるが、ダーウィンを空襲してある程度押さえ込みが初期から出来ていたティモール方面と較べて、タウンズビルの制空権奪取には奇襲と行かず、逆に劣勢ということで夜間に小規模ながら飛来するB-17の神経爆撃に頭を痛めていた。それに対して当時の司令である小園大佐は、斜銃を装備させることを考え出すのである。そしてそれは・・・
『上向きもそうだが、下向きにもつけてないか、あれ』
『んあ?ああ、地上掃射用だってよ・・・・地上、掃射?』
『『それだ!』』
一介の搭乗員がやるならまだしも、航空隊司令がやるなら俺らがやっても構わないだろうと、斜めにどう銃を取り付けて照準をどうするのか、と、偶然来ていた二式陸偵の搭乗員に根掘り葉掘り聞き出し・・・・台南空にあっても、ダンピール海峡をはじめとするニューギニア沿岸にジャンク改造の海賊船、あるいは最悪の場合魚雷艇が出没するという現状には頭を抱えており、小園大佐はこの話を聞いて、その手があったか!と、ツラギに進出していた横空に機材の貸し出しを要請している。
そんなことは露知らず、部隊長に提出するべく細部を手直しして提出する頃には、大騒動になっていたのである
『お前らという奴は・・・!』
『『(やべぇ・・・・)』』
台南空が機材を貸してくれというのを横空が本土の軍令部の方に上げたため(ツラギの横空は分隊で、司令部はまだ本土だった)、現地改造の件まで耳に入ってしまったのだ。上向き銃については重爆のそれに対して必要であるから、と、そこまでお咎めが無かったのであるが、船団護衛となるとまた違ってくる。ニューギニア北岸やツラギ方面での被害が出ているのは、第四艦隊がたるんでおるからであると、ほぼ井上中将に対するやっかみも含めて問題が大きくなったのである。
『・・・・・・改造は許可する』
『『は?』』
わなわなと震えながら中隊長はそうはっきり言った
『しかし、改造は違法では・・・・』
『そ、そうですよ中隊長、別にまだしてないわけですし』
俺ら関係ないってすりゃあいいじゃ・・・・
『必ず戦果をあげろ、でなければ・・・!(ギロリ)』
アッハイ
『『りょ、了解しましたー!!!』』
『戦果確認に、しばらく搭乗割りは私も同乗する!』
『『(ゲェー!!??)』』
そういえばこの人の出は人通信員でしたね、最悪である
『どうしてこうなった』
『俺が聞きたい』
中隊長の部屋から出た二人が脱力するのも無理は無かった
そして一機の九四式水偵が改造されることになった。翼下のマウントを爆弾から吊光弾に変え、偵察員の座席にはめ込むように斜め下向き銃を設置、2丁あった7.7mm旋回銃を1丁取り外し。20mm機銃ならびに弾薬の搭載量を増やした。はめ込んだ機銃により、速度は少し遅くなったが、許容範囲にあった。しかし、単フロートタイプの機体であればやすやすとは改造できる話ではなかったろう
『ほほう』
皆が改造行為に不安に思う中、妙に高揚してる中隊長はこういった
『これを、九四式改夜間水上偵察戦闘機(E7K2-sn)と命名する!』
『『『『(無駄に長げぇ・・・・・・!)』』』』
『あの、中隊長、どちらかというと攻撃機、いえ、爆撃機に近いような』
『攻撃手段は基本的に銃撃のみだ。爆撃機でも攻撃機でもない』
『航空機はとてもじゃないですが相手できませんよ?戦闘機はちょっと』
『ふむ、であるならドイツに見習い』
『九四式改水上偵察夜間駆逐戦闘機としよう』
『おい、増えたよ。増えた。駆逐って・・・』
『水雷艇を駆逐するからな。実に名を示している』
『夜間を駆逐するとかワケがわかりませんよ!』
『っと、そうだな。九四式改水上夜間偵察駆逐戦闘機だな』
『そもそも駆逐戦闘機ってアリなんですか!?』
『お前は駆逐戦車を駆逐車とはいわんだろう?駆逐艦は水雷艇駆逐艦だ』
『もうぶっちゃけ九四式改でいいんじゃないの?(なげやり)』
『改で済むのであれば機種改編とは言えん・・・!』
不毛な小一時間の問い詰めを経て、最終的に
九四式改水上(夜間駆逐戦闘)偵察機。通称、九四式改水夜戦偵
に落ち着いた・・・・これはひどいとはこのことである
1942年12月、クマ船団・球磨
ぬっふっふっふ、球磨だクマー。という冗談は置いておくとして、ダーウィンへの空襲を行なっているティモール島、クパンの航空隊への補給は二系統あった。一つは油を輸送するミリ島からのミク船団、そして爆弾類を本土からマニラ経由で輸送してくるこのクマ船団の二種類である。
『見張り警戒を厳と為せ。二度の屈辱は受けられんぞ』
先月をもって球磨の艦長へと着任した横山大佐はそう檄をいれる。球磨は不発であったとはいえ魚雷艇による雷撃をフィリピンの南方で受けており、前任の艦長のようなことがあってはならないというわけだ。
『東征丸、遅れます!』
『むぅ・・・』
しかし、この船団護衛というのは艦隊を指揮するより難しいかもしれないな、と内心思う。速度がばらばらであるし、無線封止のため陣形維持のための連絡もつけにくい。まあ、この戦争自体が想定外・・・二国以上を相手にする代物ではなかったし、決戦の後は講和という目論見であったために、長期の占領維持なんて今でも考えていなかったしできもしないのだから仕方ないとはいえ、船団護衛をしないわけにもいかない。困ったものである。
『根を絶つしかない。そのためには豪州の屈服が必要となる、か』
全土占領ははっきり無理とはいえ、中立を宣言させることができないかと今更ながらに外務省と手を組んで交渉中という噂だけは横山の耳にまでは入り込んできていた。そのための航空攻撃はクパンとモレスビーから出撃しており、艦隊のほうは救援を断つべくインド洋に、と・・・・やれやれ、あちらを立てればこちらが立たずだな
『艦長、日没です!』
幸いにも我々が戦争のイニシアティブを奪取し、この地域をほぼ制圧化にあるため昼間は船団の行動による遅延以外の問題はない。だが、問題はこの先だ。この先は航空支援も期待できない・・・西の空に沈んでいく夕日を見ながら頷く。本番はここからだ
『伝令!電信室に入電、クパンの航空隊より、夜間護衛を1機送るとのこと!』
『ありがたい!』
夜間飛行は飛ぶだけでも危険を伴う。それをおしてでも派遣してくれるとは!これはついているかもしれん
USS・サーモン
『こりゃどう考えたって俺達の仕事じゃねぇな、ライミーの仕事だ』
そうやって噛みタバコをペッと海に吐き出す艦長。ティモール島を迂回して侵入を果たしたこの艦は、敷設潜水艦という経歴を生かして、カーティンボートへの補給・・・レジスタンス活動というものは、支援と補給があってはじめてなりたつ。それがない持久戦は結局のところ破滅へ向かうしかない・・・を行なっていた。艦の周囲には帆船を含めて、果てはサンパンのような小船さえ混ざり、武器弾薬を積み下ろしていた
『・・・どう考えても海賊で、おれたちゃ悪役だ』
自分の伸びきったひげを、先ほど鏡で見た顔を思い出しつつ毒づく。ノリは嫌いじゃあないが
『ボヤかんといてください、このソーティさえ終わればこの艦もオーヴァーホールに回してやれます』
副長がコーヒーを入れて持ってくる。6月にデカそうな艦(工作艦朝日)を食ったりと実績もある。そろそろハワイ、いや西海岸のドックで整備してやるべきだった。潜水というほかの船には無い行動を取るためにガタが来やすいと言うのもあるが、ずっと航海中だと艦に付着するふじつぼなどで航海速力が落ちたりしてしまい、いざって時にスピードが出なくなったりしてしまう。それに、オーストラリアの受け入れ態勢は英国式だ、不具合が時たま見られた。よっぽど英国海軍の潜水艦の方が仕事しやすかろうというのは、こちらに派遣されてきた米国サブマリナーの偽らざる感想だった。
『ともかく、急がせろ。裏をかいているし夜間とはいえここは敵のど真ん中だ』
発見された場合、昼間はやたらめったら足の長いJAPのゲタバキの航続距離から出るまで潜行しつつ行くしかない。これがどれだけつらいかはやったものにしかわからない。しかもここは赤道直下の海、水温も暖かく、とてもじゃないぐらい暑くなる。最悪だ
『しばらくお待ち下さい。やはり暗闇での作業には難があります』
作業はどうしてもの場合にだけ、光が漏れないように覆いをつけた懐中電灯を使うといった最低限の明かりの中で実施している
『あーあ、やってらんねぇ』
おかげでせっかく綺麗な空気の中でタバコも吸えん
ブロロロロロォ・・・
『艦長!』
『うろたえんな、機銃員は銃座つけ!』
遠くから聞こえてくる航空機のエンジン音
『この暗闇の中、そうそう見つかるもんかい』
雲量もそこそこあるし、月だって満月じゃあない。今切り上げて慌てて作業することのほうが発見に繋がっちまう
『いけ・・・いけ・・・いいから行っちまえ・・・・』
『サンパン逃げます!』
あ、バカ!動くなよ!他のやつらも作業をおっぱじめやがった!
『敵機、直進コース、こっちへ来ます!』
見張りが叫ぶ、くそ!よりによってこっちにくるのかよ!
『・・・・・』
『艦長?』
アイディアがひらめいた
『機銃座!サンパンを撃て!こっちは敵機に手を振れ!潜行準備!』
こっちを襲われてる側と見せかけさせて潜行までの時間を稼ぐ!
『か、艦長!?』
『速力上げ!振り放すぞ!』
『い、いいんですかい!?撃ちますぜ!?』
逡巡を見せていた機銃座だが、有無を言わせない艦長の物言いに銃把を引く
ドドドドドドド!!!
これに面食らったのはサンパンのレジスタンス側である
『う、撃ってきたぞ!?』
『俺達を見殺しにするつもりだ!』
『撃て!撃ち返せ!殺されてたまるか!!』
サーモンの機銃座に向けてライフルやらなにやら雑多な武器が撃ち込まれる。こうなるとどっちも本気だ
『『野郎、ぶっ殺してやる!!!』』
九四式改水夜戦偵
実は、この時点で水戦側は潜水艦やサンパンに気付いてすらいなかった
『!?海面で発光、右舷前方』
『な、なに!?』
『・・・・・・ほんとかよ』
中隊長が言ったすぐに戦果を上げろというのは、心の片隅で、その前に接敵出来ればだろというのがあったが、初出撃で敵と出くわすとは・・・!
『吊光弾用意!』
『おわ、艦橋からこっちに手を振っています!味方です!』
『少しまて、もののついでだ、さっき打電したクマ船団の方にも警告を出す!』
うまくいけば後処理も出来るかもしれない、と中隊長は鍵盤をたたく。そして、引っかかった
『吊光弾、投下!上空を通過するぞ!ぶっ放せ!!!』
『撃ちます!いいですね!』
ダッダッダッダッダ!!!
偵察員が備え付けられた20mmをぶっ放す。斜め下に向けられた銃口は迫るように水柱をサンパンに向けて林立させる。一艘のサンパンがひっくり返った!
『・・・・・・・』
サーモンにとっての不運は、今回この機の出撃に中隊長という、その地域の戦況や戦力配備を多少かじれる人間が乗っていたことである
『へっへぇ!どんなもんだ!!』
『行けるかもしれんな、こいつぁ』
『潜水艦識別!どこのどいつだ!こんなところをほっついとる馬鹿は!』
浮かれる二人に叫ぶ。こんなところ、特に潜水艦はハワイ方面かインド洋方面にひっぱりだこで、よほどのことが無ければ居るはずがない、そう、居るはずが無いのだ
『うえ・・・・・?』
『吊光弾、次弾だ!』
『りょ、了解!投下!投下!』
そして二人は青くなった
USS・サーモン
うまくいったうまくいった、土人のサンパンどもは吹き飛び、こっちはもう少しで潜行できる。機銃座についた。ケニーは残念だったが
『よし!潜るぞ!フリーマントルに帰るんだ!』
『潜行!潜行!』
パパッ
再び吊光弾の光がともる。機体をバンクさせながら艦の正面に近づくそれに合わせて手を大きく振る。そのまま帰れ間抜けめ!
『あと、もう少し・・・もう』
ダッダッダッダッダ!!!
艦首方向から襲ってきた20mm銃弾はサーモンの船体を叩き、ブリッジを大破させて艦長の上半身を吹き飛ばし、抜けていった。
『か、艦長戦死!』
『副長!船体に穴!このまま潜水しては浮上できなくなります!』
これが炸薬の入った20mm弾の恐ろしさであろう。ただ貫通する12.7mmまでの小口径機銃であれば、その破孔は対応可能なものだったかもしれない
『指揮を引き継ぐ!潜行やめ!最大戦速変わらず!このままダーウィンへ抜ける!』
幸運に頼るなら昼間でもスコールに隠れられる。この調子だとフリーマントルまでは持つまい!
『副長・・・!』
『なんだ!?』
最悪の報せは最悪のタイミングでもたらされた
『蓄電池に損傷!ガス発生!応急困難!!!』
九四式改水夜戦偵
『弾が切れました!』
問題は水戦のほうでも発生していた。一号銃のもつ欠点である銃弾の少なさだ。60発しかないのだから、撃ちっぱなしをすればそれこそすぐに弾は切れる。それに、彼らは水偵の出であって、そこまで射撃に慣れているわけではない
『くそっ!』
7.7mmで掃射してやるが、さっきの銃撃とは比べ物にならない。弾かれたような閃光も散見できる
『・・・・ここまでだな、奴もこれ以降の任務継続は出来まい。』
『中隊長!』
ここまで来て見逃すのか!と歯噛みする
『武器が無い。ここまでだ』
こザザ・・くザザ射撃ザ ザ修正・・・・
無線機が雑音混じりに鳴り始める。なんだ?
『こちらクパン航空隊所属機、無線不明瞭につき再度交信を願う!』
中隊長が無線機をいじる。今度ははっきり聞こえる。いや、聞こえるのはそれだけじゃない
ヒュルルルル・・・・・ザパーン!!!
《こちら、船団護衛旗艦球磨、目標に射撃開始、修正を要請する》
『球磨!!!来てくれたのか!』
IJN 球磨
『間に合ったか』
『先方と連絡が取れました。弾着観測可能です』
よし、と頷く。これで命中弾を出しやすくなる
『しかし、潜行しませんな』
航海長が敵潜水艦の様子に首を傾げる
『銃撃がよほど効いたか、あるいは。ふむ・・・見張り、敵艦の様子を詳細に報告しろ。それから航海長、とにかく接近する。魚雷発射管の射線に入らぬように注意せよ』
ドドド!!!
相対位置から撃てる3門の主砲を放ちながら接近を試みる
『艦長、敵艦は艦橋部大破!各所に破孔が見られます!』
見張りの報告に横山は目を見張る
『しめた!主砲、砲撃やめ!やめぇい!』
『艦長!?』
攻撃中止ととった航海長が驚く
『敵を可能であれば鹵獲する!敵の自爆に備えよ!場合によっては接舷攻撃を行なう!志願するもので陸戦隊を組織せよ!』
『おお・・・・・!』
この時代の海戦ではほぼ無いと思っていた接舷攻撃という単語に、呻きとも賞賛ともつかない言葉が皆から漏れる。戦時の敵性艦艇の奪取はこちらにとりかなりのメリットが見込まれる。横山は駐米武官附きとしてそれを考えられるだけの位置にいた。他の艦長であればそのまま撃沈してしまっていたであろう
『上の連中にもその旨、上空から監視してもらえ!』
『ハッ!』
しかし、彼らは肩透かしを食らうことになる
『敵艦から乗員、出ます!』
『機銃座!・・・・いや、射撃待て!』
出てきた乗員は出てくるなり倒れこみ、ゲーゲー吐き出す。あるいは海にずり落ちるなどし、明らかに常態ではなかった
『ガスか・・・・!』
蓄電池は混合液からなり、人体に有害なガスを発生させる。機銃による貫通弾はそれを誘発させたのだろう。只でさえ狭い潜水艦内、これはたまらなかったろう。倒れ付しながら士官らしき人物が白旗をふる
『防毒面用意!救助急げ!戦闘でならまだしも、降伏してから死なせてはならん!それと、曳航準備だ!』
ブロロロロロロォ・・・・
そんな上空を、九四式改水夜戦偵がオーバーハングする
『しかし今回は、とにもかくにもあいつの戦果だな』
横山は夜空を見上げる。夜間にも航空機の援護があるならこれほど頼もしいことは無い。これはかけあってでも顕彰してやらにゃな
『無事、生存者収容いたしました!暗号表などは半分ほど焼けておりましたが・・・』
『あっぱれだな、あの状態で半分を焼くか。丁重にねぎらうよう、兵にも厳命せよ』
こうして、サーモンを引き連れて船団を無事にクパンまで護送した球磨は、球磨が鮭を釣り上げた!と、当時の新聞に大々的に報道され、合衆国海軍は暗号表などの改訂に相当の予算と反撃準備に時間を食われることとなる。一説によれば、重慶を訪問中のウォレス副大統領機撃墜事件の引き金となったといわれるが真相は不明である。
こうして大活躍をした斜銃と九四式改水夜戦偵であるが、片方は正式にそういう改造が可能であるとお達しがあり、小園大佐を含めてしぶしぶながら容認されたのであるが・・・
『廃棄!?そんなぁ!』
『・・・・そういうな、おかげさまで零式が優先的に回ってきたんだ。感状と金一封も出たろうが』
発案の二人にはなんとか首の皮一枚繋がって転任する井上中将からの感状がわたされ、部隊には優先的に零式三座水偵が回ってきたのと、形式として20mmの搭載が良しとされており、九四式改水夜戦偵は歴史の闇に葬られることとなったのだ
『そうだぞ、それに改善すべき点はまだまだある』
そしてこの中隊長を中心に先の戦訓を元に練られた対潜水艦襲撃術は、米側呼称で二機一組のハンター&キラー戦術として、夜間すら安全でなくなったと連合国海軍の潜水艦作戦を恐怖に陥れるのであるが、それはまた別の機会
さて、蛇足ではあるが、クパンまでサーモンを連れて来た球磨であるが、本土曳航は多摩が行なったため、写真映りはほとんど多摩によるものとなって、球磨は獲物をさらわれた形になり、両艦の仲が微妙に悪くなり、猫熊騒動なるしょーもない喧嘩に派生することになるが、本当に蛇足である
最終的に騒動を起こした両艦の将兵を木曽の乗員が熨して乙ったらしい
木曽だキソー!