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第5話 王都、アリシヤード龍院

説明回になってしまいましたが、この辺でどうしても必要かなと思い書きました。

どこかおかしな点などございましたら指摘くださるとうれしいです。


 王都、アリシヤード。 


 それはアリシヤード王国の象徴ともいえる街。

 現在この世界は3つの王国から成り立っていた。

 サンガル王国、ハーバー王国、そしてアリシヤード王国である。


 マヤトが住んでいた街はその3国のうちのアリシヤードに位置していて、それなりに賑わった街ではあったが、やはり国の象徴でもある王都とでは比べるまでもない。

 そして王都に住まう者のほとんどがその身に龍を宿す者、あるいは宿していた者である。

 マヤトは今、その王都アリシヤードに来ていた。


 それは約1年半前のあの日、あの少女と出会っときから決めていたこと。

 あの少女と出会っていなければ、こんな人がごった返しているような街にマヤトが好き好んで来ることはなかっただろう。

 ではなぜ来たのか。それはあの少女がこの街にある、アリシヤード龍院にいる可能性が高いからであった。


 龍院とは、その身に龍を宿した者たち、すなわち神龍の使い手たちが、よりその力を使いこなすためにと設けられた、いわば学び舎である。

 龍を宿した少年少女たちは、最初の5年間を自らの力で精進し、そして15歳の誕生日と同時に龍院へ入ることを許可され、強制ではないがまず皆がその後、龍がその身から消えるまでの5年間をそこで過ごすことになる。


 そう、龍は宿してから10年後、その身から消えてしまうのだ。まるで次なる宿主を求めるようにプッツリと。

 ただ、龍がその身から消えたあとも、力の欠片程度はその身に残る。また、ある条件を満たした使い手には一振りの剣が傍らに残される。

 神龍の使い手であった証とでもいうように。

 そして龍院はそれぞれの国に1つしかない。

 よってあの少女がアリシヤードの国民であれば、ここにいる可能性は十分に考えられるのである。


 昨夜の夕食時、マヤトは王都へ行くことを自らの口でミレットとリアラに話した。

 あの少女と出会ってから、素っ気なくはあったが会話をするようになったマヤト。

 ただ、マヤトから話しかけることはなかった。しかしその日はマヤトから口に出したのである。

 2人ともそのことには当然驚き、喜ぼうとしたのだが、マヤトの話の内容を聞き、あからさまに喜ぶことはできなかった。

 

なぜなら、王都へ行くということは家を離れて暮らすということ。もちろん家族で移住しても問題はないが、マヤトが王都へ行くのは翌日の15歳の誕生日である。


 つまり、そのぎりぎりで話をしたということは自分1人で王都へ行くつもりだということを示している。 

 そして15歳の誕生日に王都へ行くということは、マヤトの身になにかしらの龍が宿っているということになる。

 ミレットは本心で言えば反対だっただろう。素っ気なくはあったものの、ようやく会話をしてくれるようになったマヤト。「これからなのに……」と思ったことだろう。

 

 ただ、心では反対していたとしても、それを口に出すことはできなかった。

 何故なら自分もまた龍をその身に宿したことがあったからだ。

 ミレットの右腕には神龍の使い手であった証である刻印、龍印が刻まれている。

 そしてミレットは見たことはないが、マヤトの胸の中心には神龍の使い手である龍印が刻まれていた。

 そんなミレットは、神龍の使い手が何を成さなければいけないのかを知っている。

 それ故に心配ではあったが、マヤトの意思を無碍むげにすることはできなかった。

 

 神龍の使い手たちが成さなければならないこと、それは真の神龍の使い手となること。

 龍院とはそのために設けられたのだ。

 ではなぜ真の神龍の使い手となる必要があるのか、それは今より千年以上も昔の話。


 現在の3国は、それぞれの抱える神龍の使い手たちを育てるため、友好的にお互い刺激し合いながら成り立っている。

 しかし千年以上昔は、自らの国を大きくしようと激しい争いを繰り返していたのである。

 そんな時、10歳の少年少女の身に龍が宿るようになった。

 当初の国王たちは、その力を知り大いに喜び、その力で自国に勝利をもたらそうと、争いはさらに激しくなった。

 

 そして今よりちょうど千年前のある日、3国が神龍の使い手たちを最大限投与して臨んだ争いで予期せぬ事態に襲われた。

 邪龍の襲撃である。それも膨大な数の邪龍だったという。

 3国は混乱した。それがどういったものか知らなかったからだ。

 三国は一時休戦し、手を取り合うことでなんとか邪龍を撃退した。

 

 ただ被害は甚大だった。

 その後、永い眠りについた少年少女たちのいくらかが不意に目覚めていることを知る。

 そしてその理由もすぐに判明した。

 それは目覚めた少年少女たちの姿をした邪龍を打ち滅ぼしたことによるものだった。

 3国は頭を抱えた。なぜなら邪龍を打ち滅ぼしたことにより目覚めた者がいるということは、いまだ目覚めていない者、あるいは10年の時を経て灰と化してしまった者の数だけ邪龍が存在している可能性があったからだ。


 当初、国は眠りについた者たちを放置していた。

 龍が宿る、という逸脱した力を得るのだからその程度のリスクはあってもおかしくはないと。

 そして今回のことで、その程度のリスクでは済まないことを思い知らされた。

 更にそんな折、タイミングを見計らったようにどこからともなく出てきた古文書。

 その一説にはさらなる絶望を予感させる事柄が記されていた。


【真の、十なる神龍の使い手揃う時、邪悪龍はその姿を現すだろう。そして邪悪龍を打ち滅ぼさぬ限り、世は破滅の一途を辿り、然る後に終わりを迎えるだろう】と……。


 これを見つけた国王の1人は「何の冗談だ」と、見て見ぬふりをするつもりだった。

 いや、冗談であってほしかったのだろう。

 だがそれを見過ごすことは当然できなかった。なぜならその一端を思わせる、邪な龍たちの襲撃を受けてしまったのだから。

 故に3国の王は話し合った。

 そして満場一致で、3国手を取り合ってこの先邪悪龍を打ち滅ぼすべく、真の神龍の使い手たちを育てて行こうと、長きに渡る争いは幕を閉じたのである。


 マヤトはそれを昨夜ミレットに聞かされた。

 もちろんマヤトはそんなことのために王都へ行くのではない。

 それでもミレットが自分を心配してくれていることは、表情から読み取れた。

 だからしぶしぶ了承してくれたミレットとリアラに、現状自分に出来る最大限の感謝を込めて、一言だけ呟いた。


「母さん、リアラ姉、ありがとう」と……。


 それはマヤトが初めて、2人を家族として呼んだ言葉だった。


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