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第4話 歩み始めた時間

 少女が白龍の背に乗って飛び立つ頃、マヤトはすでに自室のベッドに横たわっていた。

 幸い、2人は街の市場へ買い出しに出かけているのか、家には誰もいなかったため、マヤトが初めて見せる、動揺した表情を見られることはなかった。


『フ、あの娘、お前の記憶にある娘に似ていたのではないか?』

(うるせぇ……)


『いいのか? 二度と会えぬかもしれんぞ?』

(うるせぇっ! あの女は美夜じゃねぇ! 美夜なはずが……)


 マヤトは両の手をベッドへと強く打ち付け、奥歯を噛み締めるように言葉を詰まらせた。

 ただ、本当は1つの可能性に気付いていた。ただそれを認めたくないだけだった。

それ故の苛立ちだったのかもしれない。

 だがクロはそんなマヤトに容赦なく、その可能性を突きつける。


『フ、たしかにあの娘はお前の知る娘ではない。だが生まれ変わりではあるかもしれんぞ? お前がこうして生きているのだからな』

(……だからなんだ? たとえ生まれ変わりだろうが美夜じゃないことに変わりはない。どんなに似ていようが、どんだけ同じセリフを吐かれようが、美夜でないならおれには意味なんてないんだ……)


 マヤトはそう静かに吐き捨てる。

 クロの言葉はもっともだ。だからマヤトのこれは本心ではない。

 もちろんそれが他の誰であろうと、マヤトの閉ざされた心を開くことはないだろう。

 しかしあの少女だけは例外だった。


 それはマヤトが一番わかっているのかもしれない。なぜならあの少女と出会った瞬間から、マヤトの時間はゆっくりと、だが確実に歩み始めたのだから。

 けど、それを認めることができなかった。認めてしまえば、マヤトの心は開かれるだろう。それは同時に、自分に再び大切な人ができるかもしれないということだ。

美夜のように……。


『フン、情けない奴め。あまりおれをがっかりさせてくれるな、マヤト。そんなに怖いか? 再び大切に想う者ができてしまうのが……。そんなに怖いかっ! あの闇を繰り返してしまうかもしれないことがっ! そんな闇程度、おれが全て喰らってやる。忘れるな、今のお前にはこのおれが宿っていることを。だからそんなおれに喰らえぬ闇などさっさと灰色にでも変えてしまえ、目障りだ。フ、あの娘はお前の闇に唯一舞い込んだ光なのだろう?』


 そう言ったクロの言葉はマヤトの全身を駆け巡った。それはマヤト自身も思っていたことだったからだ。

 クロは暗き闇の存在だ。だがそれは闇ではあっても、邪龍のように悪を意味するわけではない。

 それはクロの力を知っているマヤトが一番自覚していた。


 クロは闇を喰らう。それ以上の暗き闇で黒く塗りつぶすように。

 そして喰らった闇はそのまま自身の力となる。

 まるで闇に残る思いを、代わりに打ち払うかのように。

 そのことを知っているマヤトには、クロの言葉がどういう意味で発せられたのか分かってしまった。故にそれに応えようと思ったのかもしれない。


(……ふん、偉そうに……。だけどクロの言う通りかもしれないな。おれはただ恐れているだけかもしれない。本心ではこんな自分を変えたいと思っているはずなのに……。わかったよ、やっぱりあそこに行くしかないか。そこに行けばあの女もいるだろう)


『フ、それでいい。おれもこうも雑魚ばかりでは退屈だったからな。これで少しは面白くなるだろう。フハハハハハ』


 マヤトはクロの言葉を聞き、うまく乗せられた、と思ったが後悔はしなかった。

 たとえあの少女が自分の心を開くことができなくとも、それはそれでいいと思っている。

 別にマヤトは恋人になりたいわけではないのだ。

 ただ、美夜の生まれ変わりであるかもしれないあの少女と出会ってしまった以上、いつ襲ってくるかもわからない邪龍が存在するこの世界で、あの少女を無視できるほど、もはやマヤトの感情は無ではなかっただけのこと。


 故にマヤトは決めたのだ。1年半後、15歳の誕生日に、あの少女がいるであろう、王都アリシヤード龍院りゅういんへ行くことを……。


凄く短くなってしまいました。

すみません。

ただ次回から時間が約1年半後になるので切るならここしかないかなと。

今回の部分はなんかすごい難しかったので、皆さんにちゃんと伝わるかどうか不安です。


では感想お待ちしていますね。

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