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第2話 そして龍は舞い降りた

 マヤトが夢の中で目覚めたのは闇に満たされた何もない、暗い世界だった。

 それはマヤトが初めて見る、あの悲劇の夜ではない夢だった。

 そのことに少しばかり安堵していたのか、マヤトはその存在に気付かなかった。


『フ、まさかこのおれがたかが人間の小僧に呼び出されることになるとはな……。だが面白い小僧だ。このおれにも劣らない暗き存在。そんな人間がいるとは。小僧、名を名乗るがいい』

 

 不意に聞こえてきた神々しいまでに暗き音声。その声が発せられたであろう場所を、いつもの眼で静かに見つめたマヤト。

 その場にいたのはこの暗き闇の世界よりも遥かに濃く、暗く、そして黒い、巨大な1体の龍。


 そんな逸脱した存在の言葉に当然のように沈黙で答えたマヤト。


『答える気はないか……。フ、まぁいい。おれを呼び出せた人間は小僧、お前が初めてだ。褒美にお前の闇をおれが喰らってやる。おれをその身に宿してな……。ただお前の精神が耐えられなければ二度と目覚めることはないだろう。受け入れるかどうかはお前次第だ』

 

 そうマヤトに投げ掛けた黒龍、いやそんな言葉よりも暗黒龍と言った方が相応しいのかもしれない。

 そんな暗黒龍の言葉に初めて口を開いた。無表情のまま、静かに。


「好きにしろ。どうせお前ごときにおれの闇はどうにも出来やしない」


 マヤトは淡々とそう答えた。

 それもそのはず。己の闇をどうにかできるものなど、最愛の恋人である美夜にしかできない。そう確信している。

 それにそもそもこの世界にマヤトの闇は欠片もないのだ。

 たとえ人類より逸脱した、真夜人にとってありえない存在である暗黒龍をもってしても、この世界でしかありえない存在なのだから、ここにない闇をどうにかできるはずもない。


『フハハハ! 生意気な小僧だ。本当に面白い! ならばおれの好きにさせてもらおう。死んでくれるなよ、小僧!』


 高らかな笑い声を上げそう言った後、暗黒龍はその大きな暗く黒い翼で激しく羽ばたき、一直線にマヤト目掛けて飛行する。

 マヤトはそれを恐れることなく、無表情のまま迎え撃った。

 

 暗黒龍のその突き出た鼻先がマヤトの胸の中心を貫かんとした瞬間、その巨体は勢いそのままにマヤトの身体の中へと消えて行った……。


「ッ――!」

 

 マヤトは焼けるように熱くなった胸を抑えながら一瞬だけ苦痛の表情を浮かばせる。

 だがマヤトはほんの少しよろめいた後、いつものマヤトのそれに戻る。まるで何事もなかったかのように。

 しかしマヤトのその表情はいつも通りではあったが、この場に、この様を見ていた者がいたならばこう感じたことだろう。


「だから言っただろう。お前にはどうにもできないと」と……。

 


 こうしてマヤトの身には唯一無二の暗黒龍が宿ったのだった。




 


 マヤトが再び目覚めたのは眠りについてから三日後の自分のベッドの上だった。

 そして目覚めた視線の先には自分の無事を喜んでか、泣き崩れながらベッドにうずくまるリアラと、その傍らに瞳に今にも零れそうな涙を浮かべながら、優しく暖かい表情で「おはよう」と声をかけるミレットがいた。

 

 だれもが通る道とはいえ、正確な誕生日を知らなかった2人にはさぞかし心配だったのだろう。

 朝になっても目覚める気配のないマヤトに気付き、突如として判明したマヤトの本当の誕生日。

 マヤトを見つけ育てると決めた時期からおそらくそろそろなのだろうと感じていたミレット。

 正確な日付が分かっていれば前日にでももう少し話をしてあげられたかもしれない。

 しかし10年間、いまだに一度も心を開いてくれないマヤトに、どっちを選んでほしい、とお願いしたところで実際にどっちを取るかなど2人にはわからない。

 もちろんミレットもリアラも後者を進めていたのだが、マヤトがその通りにしてくれるかどうかは、心を開いていないマヤトからは分からなかった。

 それでもこうして無事に目覚めてくれたのだから、この時だけは無事を喜んで涙してもいいだろう。


 これほどまでに自分を心配してくれていたことにマヤトが心を痛めたかどうかは定かではないが、マヤトはいつもの無表情で、泣き崩れているリアラの頭をそっと撫でたのであった。

 マヤトは今回のことで自分がどうなってもいいと思っていた。龍が宿ろうが、10年の眠りののち、灰と化そうがどちらでもいい、と……。

 どうせ生きていても誰かのためになれるわけでもないのだからこんな薄気味の悪い自分がいなくなったところで清々(せいせい)するのではないか、と……。


 しかしそんなことすら考えているような自分の無事に対して、涙を浮かべて安堵してくれる2人を目の当たりにして、その考えを改めたのかもしれない。

 その結果が、リアラの頭を撫でる、だったのだろう。


 そしてその様を見たミレットは今度こそ、感極まったかのように口元を覆い、その瞳に溜まった涙を溢れさせ、マヤトの小さな体を抱きしめたのだった。


 相変わらず心を閉ざしたままのようだったが、ミレットからすればこんな些細な行動ですら喜んでしまうほどのことだったのだ。


 今までのマヤトは自分から進んで何かをしたことはなかった。

 ただお願いされたことをまるで機械のようにこなすだけだった。

 そんなマヤトが今回自らの意志でリアラを慰めるように頭を撫でたのだ。故にミレットがそれを嬉しく思うのは仕方なかった。実際にマヤトがどう思っているかは関係のないこと。ミレットにとって大事だったのはマヤトが思ったことではなく、行動したことだった。


 

 そして確かにマヤトも心配をかけたことに対して何かしら思うことがあったのやもしれない。

 もともとマヤトが真夜人だった頃のこの頃は、とても明るく活発で、他人のために何かできる優しい少年だった。

 ただ、もちろんこの行動の大きな理由は、マヤトの中に確固たるものとして存在しているのであった。

 それは言うまでもなく、最愛の恋人、美夜との誓いだった……。

 



暗黒龍のシーン、あっさりと宿してしまいましたがよかったでしょうか……。

まあその、力あるもの多くを語らずということで!w

またかなり短かったですが1話1話大体このくらいで行きたいと思います。


感想お待ちしてます!

次回は白龍姫が出てきます。

まぁ察しの良い方はその少女がどういう存在かすでに分かっていると思いますがぜひ見捨てないでください!


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