散歩はちょっとそこまで
数十分の描写を書くのに一か月かかる俺って……
(尚春と一緒にフィールド行こうかな、この前ひどいことしたし)
なぜこの前あのような事をしたのかは分からないが、尚春をいつもの暴走に付き合わせたくなかっただけなのかもしれない。
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六月二十五日 PM9:16 from:リョウ
明日フィールド行こうぜ。
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ぴこーん、メールの届いた電子音が鳴る。
(返信早いな)
そう思いメールを開く。
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六月二十五日 PM9:17 from:ナオ
待ってました!
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明日が楽しみだ。
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六月二十六日 AM12:57
「先週亮哉がメールしてくれたのに全然来ないね」
そういって玉子焼きに手を伸ばす、俺の玉子焼きに。
「ん~うまい!諒哉はお嫁さんにいけるよ?」
(いやどっちかっていうとお婿さんの方が良いです、はい)
「諒哉~」
と、俺の玉子焼きをつまみながらこちらを向き話しかけてくる尚春。
(何故二人とも俺の玉子焼きをとる)
「はぁ~、何? 尚春」
「今日八時に掲示板でな」
「おう」
ズサァッ、葉月が急にこちらに滑り込んできた。
「掲示板!?なにそれ!?」
「「……」」俺と尚春二人とも黙秘権を使う。
「ねぇ、ゲームぅ?ねぇゲームでしょ?」「教えてっ!!私もやりたい!!」
この通りだ。葉月もゲーム好きなのである。俺と尚春をも凌駕するほどの。
「うん、ゲー……あ、違う違う!!ゲームじゃない、絶対違う!!」
(どっちだよ)俺は二人の様子を呆れながらうかがうだけだ。
「え~、ゲームって言いかけたじゃん~」
「い、いやゲームではあるけどゲームで……」
尚春の声が昼休みの終了の鐘でさえぎられる。
そしてその音を聞いた瞬間今だ!!、とばかりに尚春はお弁当を片付けていた。
「じゃ、また明日!!」風のように去っていく尚春の姿は逆になんだかすがすがしかった。
(平和だなぁ)
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同日 PM7:49
(早めにきすぎた……)
集合時間まで十分もあり暇なのでジャンプしてジャンプアビリティを、横にステップしてステップアビリティを上げている。
面白いことにどちらも足を使うので脚力アビリティもちょっとずつ上がっていく。
(ついでに素振りもしよう)
パンチをしてみる、他の人から見れば掲示板の前でシャドウボクシングをしている変人に見えるであろう。掲示板の前なので邪魔になるとは思うのだが見物人の人垣によって余計に邪魔になってしまった。
見物人の中には『その服何処で手に入れたんですか?』『何してるんですか』などと話しかけてくる人もいた。
なので適当に応答していると人垣の中から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「なんなんだよっ、この人ごみは!!」
こっちが聞きたいくらいだ。
「あ、いたいた。リョウ! はやいなお前」
「ナオだって三分前にきてんじゃん」
この前見た時より当然装備は強くなっている。モンスターの素材で装備を作ったらしい。見た目からだと市街地から南に行って所にあるlizard villageにポップするlizard manの装備だろう。
(まぁあたりまえだよな)
ナオの装備をねっとりと見つめているとその視線に気づいたのか
「ん? いいだろ~この装備β版で有名な人に作ってもらったんだ~。今度教えてやるよ」
と自慢をしてきた。でも心の中では有名な人に雑魚モンスターの装備作ってもらってどうするんだと思っていたりする。
「リョウの装備もかっこいいな、でも軽装備だから防御低そうじゃない?」
「大丈夫だ、問題ない」「それよりナオはパーティいないのか?」
「いるよ、フルで」
パーティは全員で六人まで設定できる。つまりフルとは自分を含め六人いるという事になる。
「本当は連れてきたかったんだけどな、邪魔になるからってみんな来なかった。また紹介するから」
(別に紹介は良いんだけど)
「じゃあ出発しますか」
二人は人ごみの中をかき分けて進んでいく。
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しばらく歩いて市街地の東にある門に着いた。
門の大きさは人が数人通れる程度と小さいが非常に細かい細工が施してあるため妙な威圧感を放っている。 この細工は術式らしく破壊付加オブジェクトとなっている。
門の前で立ち止まっていると門番のNPCがいそいそと近づいてきた。
「夜になったらモンスターが活性化するので夕刻までに返ってくることをお勧めします」
「おう」「ああ」
言う事だけ言って門番は再び門の横に立つのをみて俺達も小さな門をくぐる。
broad grassy plain
(なんだこりゃ)
フィールド名のウィンドウを見た第一印象がこれだ。他のフィールドの名前はこっているのに市街地の周りに広がっている草原だけ簡単すぎる気がするのは俺だけなのだろうか。
「最初見たときえっ!? て思うよなこれ」苦笑いしながらウィンドウを指さす尚春。
「ダンジョンではないけどここも少しモンスターがわくからな」尚春は気をつけろよと一言付け加える。
「逆にわかなくてどうすんだよ」
他愛もない会話を続ける。
「そういえばアビリティ構成どうなってんの?」
「これだけど――」そういってアビリティを読み上げる、度に尚春の顔がプルプルと振るえてくる。
「あーはっはっはっ、ひーっひーっ――」
(笑いすぎだって……笑いすぎて引き笑いになってんぞ)
「クズばっかじゃねーか」
「しょーがないやい、俺の事情知ってんだろ」
まぁまぁ、となだめようとする尚春。ふと思い尚春に聞いてみる。
「ナオはどうなんだよ」
「え、俺は――」
といってすらすらと答える。
「剣術Lv.14抜刀Lv.7剣士の心得Lv.8切断Lv.4威嚇Lv.6ステップLv.8だけど」
(……まぁ無難だな)
それに比べて俺は、と思いながら歩いていくとあるものに目が付いた。
草むらが揺れる、現実世界ではまだ六月であるがジャッジでは草原が青々としており、時折吹く風が心地よかった。
二人はそんなことも気にしないようにただひたすらどこかにむかい歩いていく。
カサっ、草むらが少し揺れた、尚春は気づいていない様子だが諒哉は感づいたのかチラっと横目で見る。
「あぁそういえばさ、ナオ」
「なんだ?」
「後ろ」そういって草むらが動いていたところを指さし、そのまま歩いていく。尚春はなんだ? というう風に草むらへ近づいていく。
そこではかったかのように角の生えたウサギのような白いふわふわした毛をもったモンスターが尚春の目の前に飛び出してきた。尚春はそれに驚き、のけぞりながらこちらに向かい大声を発する。
「気づいてるなら早く言えー!!」びくっ、今度はウサギが驚き、ひるんでしまう。
その隙を突き尚春は戦闘に移行する。
「コール」「トカゲの小太刀」
柄の赤い小さな日本刀が虚空から現れる。それを掴みなれた様子で腰を低く身構えながら先頭に集中する。それをみて俺も、と思い手助けしようとすると一言釘を刺される。
「リョウは戦ったことないだろうから一回見とけ」
そういって戦闘に集中する。
先に仕掛けたのは角ウサギ(仮)だった。額の角いや、溝の付いたドリルのようなものを回転させながら尚春に向かって突進する。
(回転するのは生物学的におかしいだろ)ゲームだからありなのかもしれないが、そんなことを気にしながら戦闘を見守る諒哉であった。
「サイドステップ」
ステップアビリティのスキル《サイドステップ》を発動させる。その直線的なウサギの攻撃を横へよける。ガッ、その瞬間石に躓いた尚春は空を舞う。結果倒れてむほうびになりになり、そんなこともお構いなしにウサギは尚春に追撃を加える。
(こういうとこだけ妙にリアルだ……)
そんな尚春を苦笑しながら見つめる諒哉だった。
「ちょっとは助けろよ!!」諒哉はなぜか正座させられておりその前で尚春は仁王立ちでものすごい形相をしている。
「いや、見てろよって言ったから……」そう言うと激昂したのか耳の先まで真っ赤になる。
「手も足も出ないのにモンスターに襲われたらいくらβテスターでも怖いだろうが!!」
(そんなに怒らなくても……)へ~いへ~いと軽く返事をしていたら頭を出せと言われたので恐る恐る頭を尚春の方に差し出す。すると、尚春は大きく振りかぶって俺の頭を殴った。
「……あれ? 痛くない――」でも確かにHPバーは減っているのだ。ジャッジは現実世界で装着しているハードによって脳に干渉し、五感などすべて感じられるようになっているためこの世界でもリアルに感じられるようにできている。しかし尚春に殴られたのに痛みが無かった。つまり痛覚が無いのだ。
おかしいなと思いつつ、確認のためにも諒哉を殴り満足そうな顔をしている尚春に向かってビンタをかませる。
「痛って!?」予想してなかったのかいきなりの状況をのみ込めていない様子だ。
「…………」「…………」尚春は諒哉にひっぱたかれた頬をさすりながら、諒哉は手をあげたまま二人とも顔を見合わせる。
「何がしたいんだぁ!!」「そっちも何で殴ったぁぁぁ!!」
殴り合いのけんかになったのは言うまでもない
「ふーふーふー」「はぁはぁはぁ」二人とも肩を激しく上下させる、二人のHPバーはもう半分を越しており黄色になっていた。
ふと思い出したかのように尚春は腰につけているポーチから二枚のカードを取り出し具現化させる。
「コール」「HPポーション」緑色の液体の入った小柄なビンが二つ現れる。一つをこちらへ投げてきた。
「飲めよ」そう言ってもう一つのビンのコルク蓋をあける尚春。それにならい諒哉も受け取ったビンの蓋をあける。ツンとくるグレープフルーツのような酸っぱいにおいが広がる。
飲んでみると酸っぱい中にも甘みがあり結構おいしかった、緑色だが……
尚春もそれを飲み干すと頭上にあるHPバーが目に分かる速度で回復していき青色に戻っていく。しかし効果は薄いらしく四分の三程度までしか回復していない。
「はぁ、じゃあ行きますか」「あ~い」
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しばらく歩くと林に入った。その林も抜けると大きな湖についた。大きさ的には琵琶湖と同じくらいだろうか、あまりにも大きくて海にも見えてしまう。そこまで見えそうなほど澄んだきれいな水質だ。さすがにそこまでは見えないらしい。
「うわぁ、きれいだなぁ」おもわず声を漏らしてしまう。
「泳ぎアビリティ・釣りアビリティとかの趣味アビリティがあれば魚とれるぞ、モンスターでるけど――」
「へぇ」さも興味ないように返していると足元の貝に目がつく。
「淡水なのに貝があるぞ」貝を手に取り尚春に見せる。尚春はそれを見ながら
「どこかから海水が流れてきてて、汽水になってんのかもな。海水の魚もいるらしいし」
そして諒哉の手から貝をとる。
「コール」「クローゼット」そう呟くと尚春の手の中の貝がカード化する。
[ハマグリ]
料理に使用できる。 ランクE
「あ、そんなことできるんだ。何になった?」諒哉は尚春のもっているカードを覗く。
「ヘぇ、ハマグリねぇ……」
「この調子だとほとんどのものがカード化できるんだろうなぁ」「まぁしないけどね」
「なんにもないから草原にもどるか」
「ああ」
そういって二人は先ほどの草原へと歩き始める。
次回……いつになんだろ……