プロローグ
一輝のお祖父さん、一智の話です。ハッキリ言って、ダメ男です。
彼の成長(20代後半ですが)を見てあげてください。
書きながらの投稿なので、連載のペースはゆっくりかもです。
「俺は、本当は船乗りになりたかった」
私の主人が、そう言ったことがある。私が彼付きのメイドになってから、まだそれほど日が経っていない頃だった。
その時彼はベロベロに酔っていたし、そんな内容だったから、どの程度本気なのかは判らなかったけれど。
もしかしたら、身に余るほどのものを背負わされることが辛いのかな、とか、深読みしたりして。
次の日の朝、主人に「船乗りって、憧れませんか?」と訊いてみたら、「なんだそりゃ」と笑い飛ばされた。
やっぱり、ただ酔っていただけだったのかも。
でも、あの時の彼の眼差しは、以来、ずっと私の心の片隅に居座ってしまった。
彼に「何かしてあげたい」と思ったのは、後にも先にもあれっきり。
船乗りになりたいというのなら、この家から逃げ出す手助けをしてもいいとすら思った。
時々、主人の目の中に同じ色が見えることがないか捜してみるけれど。
隠しているだけなのか、それとも、あの時限りの気の迷いだったのか。
――まあ、港ごとに違う女がいるっていうことなら、もう船乗りのような人だけれどもね。