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大事なあなた  作者: トウリン
眠り姫の起こし方
30/83

エピローグ

 その日の深夜。


 新藤邸にて。


「どうだ、たちばな。俺の作戦はうまくいっただろう? 名付けて『雨を降らせて地を固める』作戦だ」


 意気揚揚と自慢する一智かずともを前に、橘は心の中で特大の溜息をついた。


 今回は、この老人のお陰でえらい目に遭った者が多すぎる。


「一智様――ほどほどにしておいてあげましょうよ。どうせお互いに想い合っていたのですから、いずれはこの結末になる筈でしたよ?」


 何も無理矢理ことを進めなくても、と言いたい橘だが、一智はすっぱり却下する。


「何を言ってる。いずれ? そんなに待ってたら、ひ孫の顔が見られねぇじゃねぇか」

「ひ孫……見られない人のほうが多いんですよ?」

「俺は、見たいんだ」


 まるで駄々っ子のようである。

 この駄々っ子の手綱を取ることができていたという伝説の奥方に、是非会いたかったと、橘は思う。


「気の毒だったのは、園城寺えんじょうじ様ですよ。一智様に踊らされ、プライドをへし折られ、犯罪行為すれすれの事をしてしまい……。下手したら人生終わってますからね」

「ああ? 自業自得だろ、ありゃ。あの女の所為で一生を潰した男は多いぞ? まあ、後でそれなりのモンは渡しとくがな。基本的には、金さえあれば満足できる女だよ、あれは」


 あれだけ利用しておいて、全く悪いと思っていない様子の一智に、橘は少しゾクリとする。恐らく、こういうところは一輝もいずれ似てくるのだろうと思われるのだ。


 目的を達成するためには手段を選ばない、冷酷非情な指導者――それが、巨大な企業には必要なのかもしれない。

 だが、一輝かずきには、知って欲しいこと、忘れて欲しくないものもたくさんある。その殆どは、弥生やよいと出会うことで手に入れてもらうことができた。


 橘は、そうやって一輝が得たものを繋ぎとめるためのよすがが、必要だと思っている。

 きっと、弥生がそれになってくれるのだろう。


 彼女が一輝の傍にいる限り、彼は大企業を形作るものは生身の人間であることを、忘れることはないに違いない。彼女の存在は、否応なしに人の温もりを、想いを思い出させるだろうから。


「それで、あいつらの結婚式はいつだって?」


 橘の物思いを、一智の声が無粋に断ち切る。


「一輝様はまだ十五歳ですから、まだ三年は先の話です」

「はぁ? そんなに待てん。先に子どもだけでも作るように言っておけ」

「弥生様もまだ学生です。当分は無理ですよ」

「いっそ、辞めさせちまうとか……」

「……一智様」


 流石に聞き流すことのできない台詞に、橘は一智をジトリと睨む。


「あまり過ぎたことをなさるようでしたら、この橘、全身全霊をもって阻止させていただきますから」


 橘の釘刺しに、一智は苦笑いでごまかす。


 橘は、今までずっと、一輝を護ってきた。これからは、一輝と彼を取り巻くものも護っていかなければならない。きっと、それはどんどん拡がっていくのだろう。


 やりがいと喜びに溢れた職務に、彼は自身の一生を捧げるつもりだった。


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