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夢見の丘  作者: きぎぬ
9/11

[灼かなる光明の世界]編

[幸せの記憶・7]


「ただいま」

それは二年ぶりの声だった。


グレンが帰ってきて、村はお祭り騒ぎになって。

僕たち四人組も、懐かしい再開を喜んだ。


「グレン、背、伸びたね」

ティナのその声が、やけに印象的で。



グレンの土産話は面白いものばかりだった。


お金がないから、道に落ちてるお金を必死に拾い集めたとか。

兵士の入隊試験に何度も落とされたとか。

先輩のしごきがきつくてサボったら怒られたとか。

隣国との縁談が破綻して、険悪になってるらしいとか。


「一応、気をつけろよな」

「そんなこと言ったって、気をつけようがないでしょ」

違いない、と、みんなで笑い合った。






[評議世界・8 side.A]


夢見る旅人が、決して辿り着けぬ地…。


カルボモンドで出来た神経が、無限の演算要求を送り続ける。

女神を象った有機の像が、無限の演算結果を弾き出し続ける。

そこは異質な空間だった。


障気で満たされた幽鬼ども。

彼らに言わせれば、そこは”いと尊き場所”である。


ふと、闇が蠢いた。

「さあ、始めよう」

紡がれた言葉。


宣言は、一度。

呼応は、無限。

そして世界は、震え出す…。



「これは…見えない…

またも…見えない…」


狼狽はない。狼狽はない。

無限の世界を創造せし秩序は、まさに斯くの如く。



振動は続く、続く、いと長く。

第四の軸の死せる世界なれど。






[灼かなる光明の世界・1]


「…気がつきましたか?」

浅黒い肌の、女の子。


「おじさん、森の中で倒れてたんですよ。どうしたんですか?」

おじさん、か。

そう呼ばれても、無理もない年齢に差し掛かってしまったなぁ…。

精神年齢は、あの頃から変わってないつもりなんだけど。


「あ、すみません、まずは『大丈夫ですか?』でしたね」

苦笑いと共に、頬をかく少女。

枝で組まれた家の中、いるのは彼女と僕だけだった。


「いま、お医者様を呼んできます。じっとしてて下さいね」

そう言うが早いか、少女は扉をくぐり、姿を消した。


「じっとしてて、ね…」


ざっと状況を確認して、自分の服が替わってるのを見る。

思えば、自分で着替えなくなって久しいや。

たまにこうして、勝手に着せ替えられてるんだ。


少女が通った扉を開いて、外の様子が目に飛び込んだ。

…巨大な透明のドームの中に、村と、森と、湖が収まっている。

僕がいるのは、そのドームの中。

そしてドームの上から…太陽がつり下げられていた。


「…おっと」

いけないいけない。見とれてる場合じゃなかった。


木の上に建てられた家を、はしごを使わずに飛び降りる。

青い光をチラッと出して、何事もなく着地した。


「ごめんね」

何度つぶやいたか知れない、独り言。

そしてそのまま、村から離れていく。


誰もいなくなった家を見て、少女は何を思うだろうか。


…知る必要はない。






[灼かなる光明の世界・2]


ドームの端に辿り着くのが、すっかり陽が赤くなってからのことになるなんて、ちょっと思わなかった。


透明なドームの壁、その向こうには…荒涼とした大地が広がっている。

目指すは、そこだ。


右手に、青の刃を出す。

そっと振りかぶった。

それだけで…ドームの壁に、穴が開いた。


「…ごめんね」

刃を消しても、僕の体は青く輝いている。

それはつまり、荒れ地の空気が有害だから、青が防御してる、ってこと。

有害な空気は…ドームの中へ流れ込んでいくだろう。


「せめて…」


ドームの中の木々を切り倒して、穴にかぶせた。

少しはマシだろうか?



「…」



太陽のない、荒涼とした大地を、一人、歩く。

目指すは、どこでもない。

ただ、目に見える色が、青と茶色だけになって、その時点で立ち止まった。


ここが、僕にとっての、この世界の終着点。

大の字に寝転がって、あとは待つだけ。


三日目の昼まで、残り半分。






[灼かなる光明の世界・3]


何百もの世界を渡り歩いた。

それでも、時間にすれば、きっと“あの時”から十年と経っていない。

なのに、気がつけば僕は、『おじさん』なんて呼ばれる年頃になっていた。


「…いつになれば」

いつになれば…“神様”は僕を“諦める”だろうか。


あれから十年として…幸せの記憶は、その分だけ薄れていってる気がする。

時折、思い出しては、懐かしくて涙するけれど。

いつでも思い出せるものではなくなってしまった。


「…ねぇ、ルッツァ」

万に一つも、届かないのは分かってる。

「僕がやっていることは、果たして、正しいのかな」



満天の星空の下。大の字に寝転がって、空を見上げながら。

他愛ない雑談をするように、独り言をつぶやく。

それは、後悔であったり、逃避であったり、願望であったりした。


僕の独り言を聞く人は、どこにもいなかった。



穏やかな、夜だった。






[灼かなる光明の世界・4]


時計も太陽もないけれど、今は三日目の朝だった。

もう、体が覚えてる。


昨日の足跡は、風に吹かれた砂に埋もれて、殆ど見えない。

足跡の先には、あのドームの太陽だろうか、明るく光る何かが見える。

ぐるり、と首を回して反対を見れば、同様に、明るく光る何か。

数限りあるドームの中でしか生きられない、そういう世界なんだろう。


朝でも空は暗いけど、ドームが放つ光たちに照らされ、まだらに明るい。

大地は茶色、朽ち果てて。


…よくもまぁ。

「これだけのパターンを作るよ」

呆れとも、畏怖とも。


ドームの明かりは徐々に強くなり、空も徐々に白んでいく。

星は見えなくなっていく。


どこの世界だったか、そこの学者は言っていたっけ。

我々が拠って立つ大地もまた、星の一つなのだ、って。

少なくとも、その世界ではそうだったんだろう。

この世界ではどうなのか…、…どうでもいいか。


「あっ」

流れ星。



挿絵(By みてみん)



願い事は、いつだって同じだ。






[評議世界・8 side.B]


「評議を始めよう」

虚無に声が響いた。


有り得ない?

いいや、有り得ない。


ここは評議世界。

あらゆる下位概念は、評議の前に無力だ。


「対象世界は」

夢見る旅人が歩んだ軌跡。

「灼かなる光明の世界」



   …少の半円、…大…恩恵。

   滅…し…時代…、…り所……。

   …………。………。

   情報不足。評議不能。

   存在意義を問うこと能わず。



「保留」

そして、その通りになった。






[評議世界・8 side.C]


夢の名残を、虚無は洗い流す…。


夢見る旅人の与り知れぬ地にて、闇たちは蠢いた。

「評議を始めよう」

情無く、淡々と、鋭利な響きを宿す言の葉。

無限の世界を統括せし秩序は、まさに斯くの如く。


「旅人の様子は」

「盲目にて」

「継続は」

「不詳にて」

心は無い。心は無い。

秩序とはこれである。


「対象世界への影響は」

「因果律の乱れは無し」

「揺らぎ微少」

「対象世界の様子は」

「旅人の干渉微少」

「取得情報不足」

「評議不能にて」


評議は続く、続く、いと長く。

第四の軸の死せる世界なれど。



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