マジですか。
きゃっきゃとはしゃぎながら、きしきし音をさせている息子を眺める
…ずっしりと、重い
あまり頻繁に抱っこしてあげられないので、嬉しがってもらえると、あたしも凄く嬉しい
…嬉しい……んだけど
息子の重みは、命の重み
そう思ってみても、やはり重いものは重い
「…ねぇ、鎧脱がせちゃだめ?」
「だめです」
「だめでございます」
「だめだめでございます」
「…うん」
がっくりと項垂れつつも、息子を抱きなおす
特注の鎧をつけた息子は、重い…
あたし自身が着ている鎧と合わせると、もっと重い…
一年前、あたしは気がついたら見たことも無い景色に囲まれていた
しかもそこは異世界で、あたしはそこのオヒメサマらしかった
あれよあれよという間に王都へ連れて行かれ、
ドレス…という名の鎧を着せられ、あっという間に鎧男とゴールイン
結婚から十ヶ月後には息子が生まれていた
妊娠中は特注のお相撲さんが着て丁度良さそうなぶかぶかの鎧姿で過し
…危うく、鎧姿のままで出産に立ち向かうところだったけど
鎧に慣れていないあたしは、出産の疲労と合わせて、命を落としかねないということで
鎧姿での出産は避けられたのは幸いだったようなそうでないような…
でも、息子が産湯につかっているところを感慨深く眺めているところに見慣れた衣装係が現れて、息子の寸法を測りだし
半日後には立派な鎧姿になった息子の姿にはちょっと涙が出たけど
きっと将来は筋肉ムキムキだけど、色は美白の息子になるんだろうなー……とか
「妃殿下、授乳のお時間でございます」
「あ…うん」
庶民出のあたしは、乳母に息子を任せるなんて絶対イヤだとダダをこね
なんとか息子の育児権利を勝ち取った
侍女たちには、なんと慈愛に満ちた御方でしょう、一生ついていきます!などと言われたが、今はちょっと…ほんのちょっとだけ後悔している
ほんとにほんのちょっとだけど
あたしは、自分の鎧の胸のあたりをパカリと開けた
…そう、開・け・た。
鎧は…鎧は、特注の授乳仕様になっていた
胸の部分がぱかっと開くんだよ、コレ、両開きの所謂観音開きってヤツ?
何でここまでして鎧を着てなきゃなんないのか、正直全く分からない
息子の兜の顎の部分を下げてやり、授乳をするあたしの姿は、本人の自覚としては哀愁が漂ってるはずなんだけど
侍女目線でいうと、哀愁というよりは、我が子を慈しむ母がその成長に感慨深く感動しているように見えるらしい…
「ほう、流石陛下の御子だね、いい飲みっぷりだよ」
「ロミエット!」
感慨深そうに掛けられた声に、あたしも一心不乱におっぱいを飲んでいたはずの息子も反応する
現れたのは、騎士というよりは戦士といった感じの むきむきマッスルの屈強な女副隊長のロミエット
片手に小さな女の子を抱いた彼女は、鎧が重すぎて動くに動けないあたしをお一人様サイズの荷車に乗せて運んでくれることがある
彼女と初めて会ったのも、夫との見合いの席へ移動するときだった
「おぅひちゃま、こんぃちゃわ」
「はい、こんにちは」
彼女の娘は舌っ足らずながらも、年齢に合わないしっかりとした挨拶をいつもしてくれる
「相変わらず、しっかりした子ねロミエット」
「あぁ、あたしら夫婦は勉強も礼儀もからっきしだが
この子は誰に似たのか出来が良くてね」
出来がいい、のあたりで娘さんが、ぴくりと反応した
まずい、みたいな顔……あれ?
「まぁその分、運動の方はからっきしみたいでねぇ
あたしは得意不得意があるんだからいいじゃないかと思うんだけど
ダンナは襲われたり浚われたりしたらどうするんだ、って大騒ぎさ
まぁ斯く言うあたしもせめて台風の中でも走り回って遊べるくらいになってほしいんだけどねぇ」
うん、まぁ、あなたたち夫婦の基準から考えたら
病弱で運動神経ゼロのヒヨワな子ってことになっちゃうんだけど
普通だからね? それが出来ないのは至って普通のことだから…!
「あーっだーぅっ!」
「ああ、はいはい
一緒に遊ばせてあけでもいい?」
「ああ、もちろんさ
さ、殿下のお相手をしてさしあげな」
「あぃ」
息子がじれてあぅあぅわめくので、兜の下げた部分を戻してやりロミエットに預ければ
彼女は隣の遊戯室に子供たちを連れて行ってくれた
息子は彼女の娘が大好きらしかった
「あの子、ほんとに彼女が好きねぇ…」
「ははは、親ばかと言われようが、
あの子のダンナになりたけりゃあたしとジュリオを倒すくらい…
いや、いつ何時空から竜が襲ってくるかもしれないしね
群れを成して襲ってこようとも一撃で仕留めるくらいでないと認めやしないよ」
「…あ、あはははは」
「ははははは」
竜は賢い生き物らしいから、こっちが何もしなければ襲ってこないと思うし
群れで生息する生き物でもなかったような…
ってゆうかそれ…不可能じゃ…?
そう思いつつも、鎧男に変質者ばりの愛を注がれて疲労困憊の嫁を遠目に眺める…
そんな白昼夢を見てしまい
…ごめん、ほんっとゴメン!
心の底からそう思った
ある平和な午後のひと時
難しい漢字を使うよりは、と『マジで?』では甲冑としてたんですが、鎧の方が伝わるんだろうか、と鎧に直しました
鎧武者とかいう言葉があるので、日本風の鎧をイメージさせるかも、とも思ってのことだったのですが、広い意味で包み込んでくれる方がいいのかなーという、ね。<ね、って
合わせて『マジで?』の方も鎧に統一しました
お騒がせしましたorz
そして明かされる、マッスル侍女の正体
そう、『Dear muscles.』のお母さんです
上げ忘れてたのを発見したので上げときます、うぅぅ、雪融け難しい…!