家が隣なだけ… 麻琴Side
小さい顔にバランスよく配置された、切れ長の目、通った鼻筋、薄い唇。
高身長でモデルのようなスタイル。
そんな優れた容姿をもつ藍葉柊斗は、私の住んでいるアパートの隣にある一軒家に住んでいる。
そんな男の子と家が隣と知られると…
―「ねえ、麻琴ちゃんって柊斗くんと家が隣なんでしょ?仲いいの?」
「家は隣だけど、仲いいってほどじゃないよ」
―「麻琴ちゃん、私、柊斗くんと一緒に帰りたいんだけど頼んでくれない?」
「そう言われても…(普段話さないのに、そんなお願いできるわけないじゃん)」
―「麻琴ちゃん、柊斗くんにこれ渡してほしいんだけど…」
「うーん…(これ、受け取ってもらえなかったら、私のせい?)」
小学校の時、仲良くなったなと思った子たちからお願いされることが多かった。
「友だちだし…」と思ったけど、断り続けていると…
「麻琴ちゃんって、柊斗くんのこと好きなの? だから私のお願い聞いてくれないの?」
「もしかして、柊斗くんのこと独り占めしたいと思ってるの?」
勝手に勘違いされて、理不尽に怒られたり、泣かれた…
何それ……
ただ、家が隣ってだけだよ? 仲いいって一言も言ってないよね? 私、悪くないよね?
(………そっか、仲良くなったと思ったのは私だけで、私と仲良くしてたのは柊斗に近づくためか…)
(それなら納得! 正直、一緒にいても柊斗の話ばかで楽しくなかったし、
これから無理して一緒にいる必要がなくなったってことだよね!)
「はぁー よかった!」
それから私は、柊斗の話をする子とは仲良くなりすぎないように気を付けた。
それより、一緒に絵を描いたり、好きなアニメの話で盛り上がったり、遊んだりして楽しいと思える子と友だちになった。
―「ねえ、麻琴ちゃんって柊斗くんと家が隣って聞いたけど、幼なじみってこと?」
「隣っていっても、アパートと柊斗の家がですよ。それに、思っているような幼なじみでもないですし…」
―「麻琴ちゃん、柊斗くんってどんな子がタイプとか知ってる?」
「ごめんね。好きなタイプというか、柊斗の好きなものも知らないんだよね~」
―「麻琴先輩、私、柊斗さんのこと好きなんですけど協力してくれませんか?」
「ごめんね。協力って言っても、私にできることないと思うよ。」
中学では、違う小学校からの子や先輩後輩からも羨ましがられたり、お願いされたり、色々聞かれたりした。
でも、小学生の時とは違い、はっきり「知らない、出来ない」と伝えた。
家が隣ってだけで、変に期待される…
でも、期待に応えられるような返事は出来ないので、最終的に『役に立たない』というような顔と声が返ってくる。
勝手に期待されただけなので気にする必要もないが、それでもそんな顔と声を向けられて、何も感じない訳じゃない。
(せめて、「そうだったの~ こっちこそ、勝手に色々言っちゃってごめんね~」と笑って言って欲しい… まあ、苦笑いしか返せないけど)
いつまで続くんだろ…
確かに家は隣だし、学校も幼稚園からずっと一緒。
だけど…
そもそも"幼なじみ"って何?
家が隣だったらそうなの? ずっと同じ学校に通ってたらそうなの?
家が隣近所だから、もしくは親同士の仲がよくて、幼いときからずっと一緒。
ずっと一緒にいるから何でも言い合える。相手のことがよく分かる。
他の人は知らない、二人だけの思い出や、誰にも入れない空気感がある…
そうして物語で描かれているせいか、それが世間一般(私もその一人)の”幼なじみ”のイメージだろう。
だから私は、柊斗のことを”幼なじみ”とは言えず(思えず)、聞かれたときも「家が隣なだけだから」と言っていた。
―それに学校でのことは、私よりもみんなの方がよく知ってるよ…
だって……
高校の入学式
自分が何組なのか、友だちと一緒か、クラスには誰がいるかなど、貼り出されたクラス表を見て賑わっている。
「麻琴~クラス離れちゃったね」
「ホントだ。ショック…」
一緒にクラス表を見ていたのは、小学校の時からの親友”ゆづ”こと、菊名結月。
ふわふわしたミディアムボブには、私のあげた月のヘアピンが着いている。
結月は一年生の時同じクラスになって、ずっと仲がいい。
柊斗のことで言われたときも、その子たちに怒ってくれた。
「それにしても、また柊斗くんとクラス違うね。高校でも記録更新か~
ここまで来ると逆に運命感じない?」
そう言ってクラス表を指さす結月の指先を見る。
「あはは~ ホントそうかも。」
私と柊斗は同じクラスになったことがない。その事に気がついたのは小学5年生の時。
結月に「そういえば麻琴って柊斗くんと同じクラスになったことあるの?」と聞かれた。
「…そういえば、同じクラスなったことない」
それからクラス替えのたびに、結月とさっきのような会話をしている。
(まあ、あっちは同じクラスになったことがないなんて知らないだろうけど…)
「ホント不思議~ まあ、チャンスはあと2回あるから!」
「チャンスって(笑) それより、武道場に集合だったよね」
新しい校舎、新しい制服、新しい同級生…
どんな高校生活になるか、期待と不安で少し緊張した。
―
「麻琴~ 結月ちゃん!」
前の方から聞き慣れた声がした。
前を見ると、私の二つ上の兄、颯汰と、兄と仲がいい湊さんが手を振っていた。
結月と手を振りながら二人の元へ向かう。
「入学おめでとう 二人とも制服似合ってるね~」
ニコッと笑顔を向けて言ってくれたのは、柊斗のお兄さんの湊さん。
少しウェーブがかかった黒髪、垂れた目の下にはホクロ、通った鼻筋に薄い唇。
クールな印象の柊斗とは反対に、柔らかい印象の整った顔立ち。
(美形兄弟だ…)
「「ありがとうございます」」
(お世辞でも、似合ってると言われると嬉しい)
「どうしてここにいるんですか?」
結月が聞くと、兄はドヤ顔で答える。
「俺たち案内係なんだ~」
(そういえば昨日、そんなこと言ってたな)
「それで、二人は何組だった?」
ドヤ顔からワクワク顔に変わった兄が、私達に聞いてくる。
「3組だったよ。結月は4組で離れちゃった」
「それは残念だったな。
でも、喜べ兄ちゃんたちも3組だから体育祭で同じチームだ!」
今年は体育祭の年で、一、二、三年生の同じ組でチームを組んで得点を争うらしい。
「ねぇ麻琴ちゃん、柊斗が何組だったか知ってる?」
「結月と同じ4組ですよ」
私の返事に、湊さんは少し残念そうに、「そっか~ ありがと」とため息交じりに言っていた。
(湊さんも、柊斗と同じチームがよかったのかな)
「お前の弟、ホント運ないな」
「俺もそう思う……」
小声で二人が何か話していると、結月が人混みを指さした。
「あれ、柊斗くんと朝陽くんじゃない?」




