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王子様だと知らずに、恋をしました *一夜を共にした相手が既婚者だと知った公爵令嬢の話*  作者: HARUHANA


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2.愛の紡ぎ方

 あの日を境に、私の頭はアレクでいっぱいになった。


『また、ここで会えますか?』


 そんな台詞、初めて言われた。

 この国……ベルグランド王国は、夫婦の契りをとても大切にしている。それは、貴族も平民も関係なく、生涯を共にする相手を思い、愛し、添い遂げる。

 貴族に至っては、格式を重んじて政略的な結婚もまだ風習として残っているけど、最近は恋愛結婚が多いとお母様が言ってた。


 私も、学園を卒業すれば、本格的に社交界で交流を増やし、時期が来ればきっと結婚する。願わくば……両親のように恋愛結婚に憧れたりも、しなくはない。そんな中で出会ったアレク、という存在。彼の身分も年齢も分からない。街で出会った私を、公爵令嬢なんて……きっと、思いもしない。


 今日、こうして公園にいる私は、一体何を期待してるの?

 ただ、たまたま街で知り合っただけの人と、どうなりたいの?


「来るなんて確信、何もないわよね……」

「何か言った?」

「――えぇ!?」


 ハンカチを握りしめて、下を向いていた私の前に……期待を裏切らないアレクが、しゃがみこんだ。

 心臓が……すごく早くて、音がうるさくて、なんでこんなに熱いの?


「また……会えましたね」

 

 何度も脳内で繰り返した、柔らかい笑みが目の前に映る。


「また……会えましたね」


 同じ言葉しか、出てこない。

 私って、こんなに不器用だったのかと思うくらい、意識してると気付かされる。

 ベンチに座って少しの間、他愛もない話しをした。あそこのお菓子が美味しいとか、向こうのカフェに新商品が出たとか。


 ――サァ……と、風が吹いて髪が舞った。

 それを掬って耳に掛ける指が、私の頬を掠める。無性に近い距離に、思わず息を止めた。


「……っ、あの」


 薄暗い空から、溢れ始めた雨が当たり始めたのに、近くにいるはずのソフィの姿がどこにも見えない。

 彼が徐に立ち上がって、そっと手を顔のそばに挙げた。


「少し雨宿りしよう。こっち」

「は、はい」


 自分の上着を脱いで、雨に当たらないようにと傘にしてくれる。時折触れる彼の腕に、ドキドキしてしまう。

 小走りで、建物の屋根に入り込んだ私たちは、空を見上げながら濡れた服を見合った。


「ここで……少し、休もうか」


 開けられたエントランスに、煌びやかなシャンデリア。

 螺旋階段を上がって、入る客間。


「ここは……?」

「僕が、たまに仕事に疲れた時に休息する部屋なんです。防犯は完璧だから心配しないで。今、タオルを持ってくるから」


 こんな密室に異性と二人きりは、流石にまずい。

 まずいって頭ではわかってるのに、足が思うように動かない。


「お待たせ。どうぞ、これ使って」

「あ……りがとう、ございます」


 頭に乗せられたタオルから覗くアレクは、濡れたワイシャツのボタンを開けて鎖骨が丸見え。

 見ちゃいけない、そんな罪悪感と意味不明な感情で手が止まってた私もいけないんだけど――


「ほら、早く拭かないと風邪を引きますよ」


 私の気も知らないアレクが、布越しに触れる。


「こ……こんなに近いのは、よくないわ」

「離れた方がいいなら、言ってください」


 そう言われて離れられたら、どれほど楽なの?


「……言わなかったら?」

 

 少しだけ視線を逸らして、思わず本音が漏れた。

 軽蔑したかもしれない。はしたない女だと思われたかもしれない。それでも……帰れない。

 頭からタオルが掛かったまま、大きくてがっちりした手が私の頬を挟んだ。


「エリー」


 静かな声で呼ばれ、顔がみるみる近付いて――初めての、キスをした。


 息の仕方なんて、知らない。

 触れられるたびに、身体の奥が甘く震える。

 コバルトブルーの瞳に名前を呼ばれる度、視界が滲むような感覚に襲われる。


「大丈夫」


 何度も、何度も安心を与えるような言葉。

 それに応えるように息が乱れて……苦しいはずなのに、歓喜でいっぱいになる。震える指先で、アレクに触れて……その熱さが自分だけじゃないんだと、妙に安心した。意思に反して流れる涙を、そっと拭ってくれるアレクが「幸せだ」と、確かにそう言った。


 頭が真っ白になる不思議な感覚に包まれて、世界が溶けていく。心地良い温もりに……ただ身を委ねるだけ。



 ――――――



 耳に響く鐘の音で、シンデレラの魔法が溶けたように目が覚めた。


「エリー、身体大丈夫?」

「……はい」


 先に着替えていたアレクが、ベッドの端に座って私を見下ろしている。

 近付いた顔にギュッと目を瞑ると、何度も感じた柔らかな唇が額に触れた。


「僕は……そろそろ行かなければ」

 

 甘い顔から、急に大人の男性に見えるアレクが、コートを羽織って窓の外を見た。

 ……どこか遠い場所を見るように。


「今度は、少し間が開くかもしれません……だけど、またエリーに会いたい」

「私も……会いたい、です」


 微かに袖口に見えた刺繍を隠すように、静かにドアが閉まった。

 満たされて……心が嬉しかったはずなのに、いなくなってしまった彼の残像が、どうしてこんなに――切ないんだろう。

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