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王子様だと知らずに、恋をしました *一夜を共にした相手が既婚者だと知った公爵令嬢の話*  作者: HARUHANA


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18/18

18.終止符

 エリアナ嬢の恋が生んだ歪みが、少しずつ形を変えて……結末を迎えようとしている。


「これは……どういう要件でしょうか。こんな大勢で押しかけて、無礼だろう」

「クローネル伯爵、お騒がせして申し訳ありませんが、ご子息のダンテ殿にお話がありまして。一緒に立ち会いを願いたい」

「息子が何をしたって言うんだ……」


 使用人に呼びに行かせるよりも先に、ダンテが現れた。

 本人も何か悟ったんだろう。余裕のない表情で我々の前に向かってくる。


「ノエル殿じゃありませんか……何か、ご用で?」

「随分と余裕そうですが、貴方には脅迫罪の容疑が掛けられている」


 その言葉で、伯爵が一気に顔色を変えた。


「ダンテ……脅迫罪とは……どういう意味だ」

「俺は、何もしてない! ただ、婚約を申し込んだけですよ。エリアナ嬢の名誉を守るために」

「お前……何を言ったんだ……」


 状況が読めない伯爵は、目を泳がせた。


「そうですか。では確認ですが、貴方はあのパーティの日、庭園で偶然目撃しただけですよね?」

「えぇ、偶然です」

「ではなぜ、ヴィルローズ公爵邸で『庭園での出来事が広まるよりは、婚約の方が穏便でしょう』なんて言葉が出たのでしょうか」

「それは……」

「エリアナ嬢は、殿下との関係を否定しました。それでも貴方の言葉には、脅迫とも取れる言葉があります」

「……違う」

「貴方は最初から後をつけて隠れていた。そして事実を勝手に解釈して脅したんです」

「違う! しょ、証拠はあるのか!?」


 僕は、後ろに控える文官から丸められた書簡を受け取り、そのまま広げた。


「これは、調査依頼書です。マグノリア妃殿下より、王家並びにヴィルローズ公爵家に対する脅迫の調査を命じられました」


 足元が覚束ない伯爵は、ついに使用人と思われる男性に支えられ息子を哀れな目で見始めた。元より素行の悪い息子に、手こずってきたんだろうが、ここまで来ると親の介入は許されない。


「王太子だって同罪だろう!」

「……だから妃殿下が動いたのです。まぁ、今の発言も含めて、全て記録してますから。もう言い逃れは出来ませんよ」


 ガクンッと膝から崩れたダンテが、悔しそうに「クソ……」と小声で呟いた。

 控えた文官の一人が、その場で作成した“脅迫罪に伴う出頭命令書“を手渡し、一つ仕事が終わったのだった。



 ***



 ドレッサーに置かれた、不完全な形のブレスレットに手を掛けた。

 裾が汚れたロイヤルブルーのドレスは、ソフィにお願いしてクローゼットの奥の奥に片付けてもらったけれど、このブレスレットは片付ける気になれなくて。こんな私に贈ってくれたのに、そのままの形で持って帰ることも出来なかった事が、とても申し訳ない。


「お嬢様、クローネル伯爵令息も片付いたようですよ」

「そう……きっと、ノエル様ね」

「ノエル様は、とても良い方ですね」

「そう、ね……」

「私は、断然ノエル様派です」

「何、ノエル様派って。ノエル様は、ただ王太子殿下の不都合を正すために送られた方よ。私に好意があっての行動ではないわ」 

「……それ、本気ですか?」

「道を踏み外して、既婚者と関係を持った“どうしようもない女“なんて、誰も相手にしないでしょ」


 ……これから恋をする時、私は自分の過ちを隠しまま相手と向き合っていかなきゃいけない。添い遂げる相手に捧げる貞潔も……もう、ない。全てを知っているノエル様なら尚更、私を穢らわしいと思うかもしれない。


 相手一つで、背負うものが、こうも違うなんて。

 あの時の私は、何一つ分かってなかったのね。


「全ての始まりは王太子殿下なのに……」

「ソフィ……私も同罪よ」


 もう、恋なんてしない。

 弟がいるから家督を継ぐのは弟だけど、王都にいたら……きっと私は、ずっと過去に囚われたままな気がする。


「ソフィ、お父様が帰ってきたら教えて」

「な……何を仰るつもりですか?」


 うん、ソフィがそんな顔するの、正解よ。


「私、領地に戻るわ」

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