14.目撃者
ロイヤルブルーのドレスは……私のドレスじゃなかったのね。
入ってきた時の嘆声を上げた会場、一目見た瞬間に"あのドレスだ"って分かった時の……私の気持ちなんて、誰にも分からないでしょう。
いくら待っても、私の手元には何も届かなくて。ずっと……ずっと待ってたのに。全ては、彼女のため……だった。
今だって、そう。
アレクシス様の視線も表情も全部、彼女のものなんでしょう? ダンスを優雅に和かに踊る姿に、拳を握りしめて……まるでノエルに嫉妬してるみたい。
横顔からだって、どこを睨みつけてるのか分かるのよ。
「皆様、素敵なダンスをされるのね」
「あぁ……そうだね」
次の曲が流れ始めたのに、ノエルとエリアナさんは会場から二人で出て行ってしまった。もしかしたら……これなら視線で追う必要もなくなる。私を見てくれるかもれしな――
「少し、席を外す」
……チラリとも見ず、二人が出て行った扉へ真っ直ぐ歩いていくアレクシス様を、私がどんな顔で見つめているかなんて、知る由もないんでしょう?
私は……この物語の行く末を、見届けなければならない……わよね。
窓の向こうに広がる庭園にでも来てくれたら、見届けられるのに――
***
「疲れてない?」
「はい、大丈夫です。やっぱりダンス、お上手でしたね」
「エリアナ嬢に比べたら大したことありません。貴女の足を踏まないかとドキドキしました」
「久々に踊ると、やっぱりスッキリします」
「スッキリ?」
「運動すると、スカッとするんです。それに……踊りながら見えるブレスレットが、なんだか勇気をくれるようでした。このまま散ったとしても苦しまなくて良いんだよって言ってくれてるみたいで」
「贈った甲斐がありましたね。ただ――」
振り向いて確かめた訳じゃないけど、後ろから追ってくる靴の音には、とっくに気付いてる。
このまま廊下、というのは危険だ。
「ただ、どうされたのですか?」
「……いえ、なんでもありません。宜しければ、少し庭園の方を歩きませんか? もう少し、貴女と話していたいのですが」
「大丈夫です。挨拶したい友人には会えましたから」
そのままエスコートしながら庭園まで来た。
何もないなら、それで良い。互いに区切りを付けてくれるなら、国にとってそれが一番なのだから。
「エリー」
――だけど、僕の願いはあっさり砕け散った。
「アレ……クシス殿下、どうして……」
「酷いじゃないか。君の隣は、僕の場所なのにノエルなんて連れて。こっちに帰っておいで」
明らかな敵意を僕に見せて、エリアナ嬢に手を伸ばした。
せっかく諦めようと頑張る彼女に、ただ己の欲望と熱だけで手を差し伸べるなんて決してあってはならない。立場とかそんなものは、どうでも良くなった僕は、エリアナ嬢を庇うように自分の背後へ引き込んだ。
「ノエル……それは、エリーの意志と反した行為だ。その手をどかせ」
「出来ません」
「エリー、その腕に光るブレスレットは僕の贈り物じゃないよ。誰から貰ったの? まさか……ノエル、なんて言わないよね?」
異様な雰囲気の殿下に、怯えたように何も言えずブレスレットに手を当てている。
「教えてくれ、エリー。誰から貰った?」
「……ノ……エル様……です」
「そっか。じゃ、今すぐ外して?」
「どうして……」
「僕が一番エリーのことを想ってるんだよ。美しい君に似合いの最高のドレス、やっぱり僕が一番の理解者なんだから」
徐々に近くなってくる殿下から、どう彼女を逃そうか必死に考えているのに、どうにも逃げ道がない。
「だから、こっちにおいで」
「……アレクシス殿下、ごめんなさい。もう……この関係を続けられません……。今日で最後に――あ……」
勇気を出せたんだと、彼女に視線を移した一瞬の隙に、殿下の手が僕の横を通り過ぎた。
「いやっ……ん!」
――気付いた時には、僕の元から離れたエリアナ嬢と殿下の唇が……重なっていた。
「殿下!!」
僕の声なんて、聞こえていない。
離れようと必死になるエリアナ嬢を目一杯抱きしめ、唇を奪う姿は……まるで僕の知らない人のようだ。
ハッ――と、視線を感じた二階の窓には、こちらを無表情で見つめるマグノリア妃殿下の姿……。
僕らの後を追ってきたのか、茂みからこちらを覗くダンテの姿まである。これは……正直言って、最悪だ。
「離してっ――」
「エリー、僕の愛しいエリー。だから、こんな物は外してしまおうね」
エリアナ嬢の手首を掴み上げ、殿下の手が強引に動いた。
ブチッ――
彼女の心から散るはずだった儚い恋は――
まだ、終わらない。




