終章
頬にやわらかな風を感じ少女は、思い出したように木製ベンチの前にしゃがんだ。細い腕を伸ばすと、柔らかなものに指が触れた。
どうやら木製ベンチ下の真ん中あたりに、柔らかなものが固定されている。頭を低くして覗くとガムテープで布地のものが貼り付けられていた。
少女は、ゆっくりガムテープを剥がして布地のものを取り出した。
それは新しいレース付きのbaby blueのハンカチだった ──仙台駅前で死んでいたスズメを包んで埋葬したあのハンカチと同種類の── しかもハンカチには何かが包んであった。
少女は木製ベンチに腰掛け直し、ゆっくりと深呼吸をし、そっとハンカチを広げた。胸の鼓動が一気に高まるのを感じながら……
それはTiffanyのsilverのサークルピアスときれいに畳まれた1枚の紙片だった。
少女は、細い指でsilverのサークルピアスをかざした。
夕映えた欅並木の新緑を背景に、サークルピアスが赫く反射し、その光が十字に派生した。
──とてもキレイなピアス!
そして少女は、紙片の10行ほどの文字を口誦した。
ミウへ。
スズメのためにありがとう。
ピアスはオレからのお礼です。
大人になって悲しいことがあったら付けてみてください。
おまじないをかけました。
ミウは絵を描き小説を書いていると言っていましたね。
いつの日か白とゴールドの小犬の物語を描いてみてください。
《新しい物語》を……
オレとシーは楽しみに待っています。
ユッキーとシーより。
ミウは、ふたたびケヤキたちを見上げた。
赫く色づいた豊潤な葉叢がいっせいに風に揺れた。
ケヤキたちの《碧い声》が聴こえた気がした。
ミウは、手提げバックの中からiPhoneを取り出し画面のアイコンをタップした。大好きなミュージシャンYの「Lemon」が流れて来た。
なんとなく小雨が降り出したビルの屋上で。
耳にはsilverのサークルピアス。
パープルブラウンのマッシュヘア。
黒いスウェットの躍る姿と。
かけ寄る白とゴールドの毛色の小犬の姿が浮かんで来た。
ユッキーとシー!
風に抗いながら。
いつの日か《新しい物語》を……
この物語は、美しい羽の、
新しい親友ミウへ贈る。




