第1章
The sacred geometry of chance
──Stingの「Shape of My Heart」の一節(映画「LEON」の主題歌)──
すべてを透かした聡明なブルーの空……
混雑する仙台駅西口の2階中央正面玄関を出た。
大きなダークブルーのキャリーケースから、白とゴールドの毛色の愛犬シーズーのシーを解放する。
ブルっと身体を震わせ、さかんにしっぽを振りながら、すぐにシーはリードを引っ張る。まさに喜びに満ち溢れて……
すぐ傍をネイビーのパンツスーツのOL風の若い女性が、シーを優しく見守るように微笑み通り過ぎる。
──シー、少し休んで行こう!
オレはTiffanyのsilverのサークルピアス。
パープルブラウンのマッシュヘア。
urban researchの黒い上下のスウェット。
そしてDiptyqueのオルフェオンの香り……
仙台駅西口正面のペデストリアンデッキの新緑が眩しい植樹帯前の木製ベンチに、腰掛けようと思った。するとグレーのブレザーの制服を着た細身の少女が、ベンチの前で屈んでいた。
──何をしているのだろう?
ブラウンのミディアムヘアの少女は、何かを包んで拾い上げるところだった。
──水色のハンカチ?
ぐぃとシーがリードを強く引っ張り少女の手前に踊り出た。
少女はハッと顔を上げた。すべてを透かした聡明なひとみに長い睫毛に凛とした玲瓏な表情……
──レース付きのbaby blueのハンカチ。
何かを包んでいた。
シーは、さらに顔を近づける。
──シー、ダメ!
さらにリードを引っ張る。
ブラウンのミディアムヘアの少女の表情が変わり、やさしく憂い帯びた微笑みをシーに目を向けた。
──ごめんね!
──いいえ、かわいいですね!
少女は、包んだものを落とさないようにゆっくり慎重に立ち上がる。
シーが、そのレース付きのbaby blueのハンカチを見上げた。
──スズメが死んでいたの、かわいそうだと思って!
ブラウンのミディアムヘアの少女は、やや俯いてレース付きのbaby blueのハンカチを見つめた。
──そうなんだ。それなら、後ろの植え込みに埋めてあげよう!
オレのiPhoneからは ──light blueのショルダーバックの中の── 外国映画の主題歌が流れつづけていた。
オレたちは、一段高い薄いベージュのコンクリート枠に囲まれた植樹帯の、新緑が芽生えた小ぶりな樹の下に、手で小さな墓穴を掘った。
指の爪に、土が詰まってもかまわずに……
そして、レース付きのbaby blueのハンカチに包んだまま、そっと穴の中へ置いた。
やさしく土をかぶせると、次第にレース付きのbaby blueのハンカチが埋もれて行く。
オレたちは無言だった。
しゃべりたくなかったのかもしれない。
小さな尊い命のために……
すっかり土をかぶせきれいに均した。
ようやくブラウンのミディアムヘアの少女が、澄んだ声で尋ねた。
──これはなんという曲ですか?
──この曲は、「LEON」の主題歌だよ!
──Lemon?
──いや、Lemonじゃなく「LEON」!
孤独な殺し屋の男と、家族を殺された少女の
かなしい映画だよ。
──はい、かなしい曲だと思いました!
ブラウンのミディアムヘアの少女は、埋めたあたりのそこだけいくぶん明るい土を、そっと細い指で撫でた。
──スズメは病気だったのかな?
それともエサがなくて? かわいそう……
──そんなことないよ、スズメは懸命に生きたはず。
動物たちは、どんな苛酷な環境の中でも、死の瞬間まで生きることをやめないんだ。悲壮になることもなく、どんなわずかな幸福もためらわず味わいつくそうとするんだ!
オレたちが、それを不幸で悲惨と感じても膨大な数の動物たちが次々に生きて、死んで行く。
否応なしの事実の蓄積が、そんな感傷を圧倒するんだ……
ブラウンのミディアムヘアの少女はニコリと微笑んだ。けっして聡明さを失わない凛とした微笑みを……
シーが明るい土に顔を近づける。少女はそっとその頭を撫でた。
シーは、最大限めいいっぱいしっぽを振った。
──キミの名前は?
──ミウです。昨夜、親戚の結婚式のため広島から仙台に来ました。これからホテルに戻って準備します!
──そう、オレはユッキー。そしてこの犬はシーズーのシーだよ!
──とてもつぶらなひとみ。顔が丸くて毛がとてもキレイ!
──そうだね。白とゴールドの毛色なんだ。
──ユッキーさん、シーちゃん!
スズメを手伝ってくれて、ありがとうございます。
やはり、少女は驟雨で溜まった葉の水滴のような微笑みだった。
そして上空は、すべてを透かした聡明なブルーの空がひろがっていた。




