偽霊能者
【壮絶な復讐が今始まる!】
姉の復讐のため、恭弥は狡猾な罠を仕掛けていく——。
互いに顔を寄せ、恭弥はマコと二人でスマホに見入っていた。画面には、隣室の様子が映し出されている。
隣の部屋では、佐藤が見事なまでの偽霊能者ぶりを発揮していた。彼が通話状態の自分のスマホをスピーカーにしてくれているおかげで、恭弥たちは隣室の音声まで聞くことができた。
佐藤が堂々とした態度で本田奈央にたずねる。
「まず、深夜の二時に電話が鳴るんだよね?」
「はい」
「次に、壁の時計が音を立てる」
「はい」
「で、あのカーテンが大きく揺れる」
「はい」
「それから、壁がドンドンと音を立てる」
「そうなんです。こっち側の壁だけが鳴るんです」
本田奈央はそう言って白い壁を指差す。
「なるほど。ラップ音だね。典型的なポルターガイスト現象だ。あと、女の人の声が聞こえるって話だったよね?」
佐藤の振る舞いは驚くほど自然で、恭弥はその演技力に舌を巻いた。隣に座るマコが、笑いをこらえた声でささやく。
「佐藤さん、意外とやるじゃん」
「だね」
あ、それと、と本田奈央が不安げな表情で口を開いた。
「電話で言い忘れてたんですけど……」
佐藤が目だけで先をうながす。
「朝起きると、ベッドの下が濡れてるんです」
「え!?」
佐藤の顔が一瞬でこわばった。
恭弥も思わずマコに視線を向けた。彼女も驚きを隠せない様子だ。
「ねえ、濡れてるって……。恭弥君がやったの?」
「いや、それは絶対にない」
「じゃあ、なんで……」
マコの動揺がひしひしと伝わってきた。恭弥の胸も不安で締めつけられる。
ふと、死んだ姉の姿が脳裏をよぎった。人づてに聞いた話では、姉の遺体は激しい雨に打たれてずぶ濡れだったという。
「まさか……」
そんなことはないと思いたかったが、これまでにも姉の存在を感じる出来事がたびたびあった。姉の日記を見つけたときもそうだ。あの日、鍵がかかっていたはずの机の引き出しが突然開いたのだ。
恭弥は動揺を抑えながらスマホ画面を見つめる。隣室では本田奈央がコーヒーを用意しているところだ。
丸い座卓の前に偽霊能者を演じる佐藤が座り、本田奈央の友人はベッドの縁に腰掛けていた。
本田奈央が三人分のコーヒーを淹れて運んでくると、彼女は佐藤の対面に座り、先日訪れた霊能者から聞かされた話を語り始めた。
やがて、話を聞き終えた佐藤は、もっともらしい表情を浮かべて口を開いた。
「なるほど、だいたいのことはわかった。結論から言うと、おれもその霊能者と同じ意見だ」
「はあ……」
本田奈央の顔に落胆の色が浮かぶ。
「まず、この部屋に霊的なものの存在は感じない」
「じゃあ、なんで変なことが起こってるんですか?」
本田奈央が語気を強めて問い詰める。
「それはおれにもわからない。でも、仮説なら立てられる」
「仮説……ですか?」
「そう。消去法でいくと、この仮説が正しいと思う」
「詳しく聞かせてください」
「わかった。その霊能者の言葉通り、君に強い恨みを持つ霊が遠くにいるのは間違いない。具体的に言うと、その霊は君と同世代の女性だろう」
「すごい……。そんな具体的なことまでわかるんだ」
本田奈央の友人が驚きの声を上げた。
恭弥は隣室でのやりとりを見て自然と笑みがこぼれた。
「なんだよ佐藤さん、アドリブは苦手だって言ってたくせに」
「あれアドリブなの?」
「そうだよ」
「すごーい、佐藤さん!」
佐藤演じる偽霊能者が本田奈央にたずねる。
「ちなみに、誰か心当たりはない?」
「いえ……」
本田奈央の表情がとたんに硬くなる。それを見て、恭弥はほくそ笑みながらマコに顔を向ける。
「マコ、あの顔見なよ。絶対に姉ちゃんの顔が頭に浮かんでるって」
だね、とマコも小さく笑う。
やがて、恭弥が用意した台本通りに、佐藤が部屋に〝結界〟を張ることになった。
佐藤が真剣な表情で結界を張る様子を見て、恭弥はマコといっしょに声を殺しながら笑い合う。
「恭弥君、佐藤さんってほんと面白いね」
「だろ? ちゃんと役に入り込んでる。あの人に頼んで正解だった」
結界の儀式が終わると、本田奈央が佐藤への礼を兼ねてピザを注文することになった。
引き続き、恭弥は彼らがピザを食べる様子も観察した。とくに有益な情報は得られなかったが、他人のプライベートを覗き見ていることに妙な優越感を覚えた。
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