内見
【壮絶な復讐が今始まる!】
姉の復讐のため、恭弥は狡猾な罠を仕掛けていく——。
「どうです? ここは周囲に高い建物もないですから、見晴らしも最高ですよ」
不動産屋の営業マンは満面の笑みを浮かべて言った。
何も置かれていない室内を見渡しながら、マコがうれしそうに声を上げる。
「いい部屋だね〜」
恭弥も笑みを浮かべて同意する。四階建てマンションの最上階で、単身者向けのワンルームだったが、築浅の物件のため、室内は新築のようにきれいだ。
二人で室内を見て回る間、営業マンは部屋の隅で作り笑いを浮かべていた。ヒゲ剃りの跡が目立つ三十代後半ほどの男だ。
窓から外の景色を眺めてから、恭弥はマコに声をかけた。
「マコ、ここに決めたら?」
「うん、そうだね」
マコは営業マンに視線を向けた。
「ここに決めます」
「かしこまりました。では、店舗に戻って契約の手続きを」
営業マンが運転する車で不動産屋に戻る。地域密着型という感じの、こじんまりとした店舗だ。
恭弥がマコと並んでカウンター席に腰を下ろすと、事務員らしき中年女性が湯気の立つお茶を二人の前に置いた。
お茶をすすりながら二人で待っていると、営業マンが書類を手に現れた。
二人の前に座った営業マンの表情が、ふいに硬くなった。
「……契約の前に、一つお伝えしておくべきことがありまして」
「え、なんですか?」
マコが少し身を乗り出してたずねた。
営業マンは少しためらいがちに口を開いた。
「実は、以前あの部屋に住んでいた方のもとに、こんなものが……」
そう言うと、営業マンは一枚の紙をカウンターの上に置いた。
それは新聞の切り抜きで作られた手紙で、恭弥には見慣れたものだった。
「そ」「の」「部」「屋」「は」「呪」「わ」「れ」「て」「い」「る」「。」「後」「悔」「し」「た」「く」「な」「け」「れ」「ば」「今」「す」「ぐ」「出」「て」「い」「け」「。」「こ」「の」「警」「告」「を」「無」「視」「す」「れ」「ば」「、」「お」「前」「だ」「け」「で」「な」「く」「身」「近」「な」「人」「間」「に」「も」「不」「幸」「が」「訪」「れ」「る」「だ」「ろ」「う」「。」
「きゃっ! やだ、怖い!」
マコが大げさに驚くふりをして見せる。
その迫真の演技に感心しながら、恭弥は営業マンに聞く。
「あの部屋で、何かあったんですか?」
営業マンは慌てて首を横に振った。
「いえいえ、そんなことはありません。まだ築浅ですし、あの部屋に限らず、他のどの部屋でも何も起こってませんよ」
「じゃあ、何でこんなものが?」
「おそらく、単なるいたずらじゃないかと……」
マコが不安げな様子を装って口を開く。
「恭弥君、やめたほうがいいかな?」
「うーん、いい部屋だったからなぁ……」
恭弥は悩むふりをしてから、営業マンに念を押すように聞いた。
「本当に、何もないんですよね?」
「ええ、それは断言できます」
営業マンは自信たっぷりに答えた。
「なら、だいじょうぶじゃね?」
「そうかなぁ……」
マコは不安げな演技を続ける。
恭弥は営業マンに顔を向けた。
「ちなみに、手紙のこともあるんで、家賃とか、もう少し安くなったりしません?」
営業マンは困った顔をして頭をかいた。
「これでも、かなり下げてるんですよね……。あの、少々お待ちいただけますか? 今からオーナーに確認してみますんで」
営業マンは軽く頭を下げると、オーナーと連絡を取るためにカウンターの奥へ消えた。
恭弥はマコとともに、お茶をすすりながら静かに待った。
五分ほどして営業マンが戻ってきた。
「お待たせしました。オーナーと話したところ、一万円ほどならお値引きできるとのことです。いかがですか?」
恭弥は、なおも不安げなふりをしているマコに言った。
「だいぶ格安だよ。あそこに決めちゃえば?」
「そうだね。恭弥君がそう言うなら、あそこにする」
マコの言葉に、営業マンは満足げな笑みを浮かべた。
不動産屋を出るなり、恭弥はマコに言った。
「まさか、一万円も安くなるなんてね!」
「だね。長く住まないにしろ、安いに越したことはないもんな」
もともと安かった家賃がさらに値下がり、恭弥はかなり気分がよかった。
マコ名義で借りた部屋は単身者向けのため、ルームシェアは原則禁じられていた。だが、そこは静かに生活すれば問題はないだろうと踏んでいた。とりあえず、〝ターゲット〟の隣に部屋を確保できたことで、計画は大きく前進した。
「マコ、これからもよろしくね」
「うん! こちらこそよろしく!」
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