フラストレーション ②
【闇堕ち少女、怨霊と化す!】
憎悪の炎は死んでも消えない!
呪い系バッドエンドサイコホラー。
学生食堂を出ると、奈央はキャンパスのベンチに腰を下ろした。そして、苛立ち紛れに恋人の雅に電話をかけた。だが、何度コールしても応答はなかった。
「もう! 何で出てくれないのよ!」
恋人に無視され、奈央の心はさらにすさんでいく。彼はもう別れる気でいて、このまま自然消滅を狙っているのかもしれない。別れ話すら持ち出せない意気地のない男なのだ。あのときだって、いとも簡単に暴力に屈したのだから——。こんなことになるとわかっていたなら、あのときの醜態も動画に収めておくべきだった。
イライラと爪を噛んでいたところ、突然スマホが鳴った。
「え、雅君!?」
期待を胸にスマホを見るが、〝山本紗希子〟と地元の友人の名が表示されているのを見て絶望する。期待を裏切られたことで、無性に怒りが込み上げてくる。
「もしもし!」
つい、八つ当たり気味に電話に出てしまう。
「……奈央、どうしたの? 怖い声出して」
「ごめん。ちょっとやなことあって」
「そっか……。タイミング悪かったかな」
「ううん、だいじょうぶ。何かあった?」
「あれ? ニュース見てない?」
「え、ニュース?」
「うん。川崎君、覚えてる? 中学の同級生の」
その名前を聞き、奈央の胸に一気に不安が広がる。
「……彼が、どうかしたの?」
「亡くなったの」
「え!? 嘘でしょ!?」
まさかの報告に、奈央は驚きを隠せなかった。よりによって、あの川崎数馬だ。
奈央は動揺を抑えながら聞く。
「なんで死んだの?」
「溺死だって」
「溺死?」
「うん。死因は溺死らしいんだけど、発見された遺体には暴行の跡がたくさんあったって……」
「暴行の跡……」
奈央はぞっとした。今、いちばん聞きたくないような話だった。
「それとね、川崎君の足首に、手でつかまれたような跡が残ってたんだって。誰かが川崎君の足首をつかんで、海に沈めたのかもだって」
足首につかまれた跡——。
奈央は言葉を失った。自分の今の状況と重なり、恐怖が現実のものとして迫ってくる。
「確か、奈央って川崎君と仲良かったよね? ショック大きくない?」
「うん……」
死んだ事実よりも、そのタイミングだ。この時期に起きたことがとても不吉に思えた。
「実は、まだあるんだよね……」
「え……」
友人の言葉に、奈央はびくっと身をこわばらせた。
「片岡先輩、覚えてる? あたしたちの二個上の」
「え、片岡……」
その名もまた、今は聞きたくなかった名前の一つだった。
奈央は平静を装って聞き返す。
「……覚えてるよ。彼がどうしたの?」
「交通事故で半身不随になったらしいよ。しかも、自分から車に突っ込んだんだって」
「え!?」
一瞬で顔から血の気が引いていく。
よりによって、このタイミングで、川崎数馬に続いてあの男まで——。
「この話にも変なとこがあってね」
友人の言葉に、奈央は耳を塞ぎたくなった。
「轢いちゃった運転手が言うには、ブレーキを踏んだのに全然効かなかったんだって。ねえ、怖くない?」
事故を起こした高齢者の言い訳でよく聞くフレーズだが、もし本当にブレーキが効かなかったのであれば、機械の故障なのか、あるいは別の力が働いたのか。
「でもさ、あの人、自殺するようなタイプじゃなかったよね?」
「そうだね……」
「だから、呪いじゃないかって」
「呪い?」
「そう。原口華菜子の」
「え!?」
原口華菜子——奈央が今、最も聞きたくない名前だった。
「華菜子が自殺したのって、片岡先輩が追い込んだからだっていう噂が流れたじゃない? もしそれが本当なら、片岡先輩に関しては自業自得だったかもしれないね」
「そうだね……」
もし片岡が自業自得だというなら、自分はどうなるのだろう。奈央の心は重く沈んでいく。
「ところでさ、雅君とは順調なの?」
「う、うん。順調だよ……」
思わず飛び出た偽りの言葉に、奈央の顔が自然とこわばる。
そんな気持ちをよそに、友人は続ける。
「高校時代の恋人と結婚までいったら素敵だよね」
彼女は勝手に妄想を膨らませていく。事情を知らぬとはいえ、奈央は聞いていてイライラした。
その後、他愛のない世間話を少し交わして通話を終えたが、奈央はベンチから動けなかった。あのときの関係者二人に起きた悲劇は、無視できるものではなかった。
「これって、偶然のわけがない……」
奇怪な現象が起こっている時期に二人が被害に遭い、うち一人は死んでいる。次は自分なのではないか。
脳裏に、岩国の言葉がよみがえる。
「なんせ距離があるからね。おれの力じゃ、その霊を成仏させるのはむずかしい」
彼が言っていたように、これは距離が関係しているのだろうか。被害に遭った二人は北海道にいた。自分は東京にいる。遠くにいるおかげで、ただの心霊現象で済んでいるのだろうか。
「いや、距離なんて関係ない。きっと、わたしのことをいたぶってるんだ……」
やはり、岩国が言っていたように、早急に謝罪が必要なのかもしれない。
奈央はその場で実家に電話をかけた。
「——もしもし、お母さん? 今週、そっちに帰ろうかと思うんだ。ううん、別に何もないよ。ただ、何となく帰りたくなっただけ」
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