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9 三咲との戦い(前編)(⭐️挿絵あり)

 橘三咲と会うのは、これで2回目だった。前回は、学園祭の依頼を受けた時だった。


 ショートヘアで杏奈より少し背が高く、すらりとした色白の少女。女子バスケ部のエースで、特に女子にモテると杏奈から聞いたことがあったが、快活そうな雰囲気は男子からも女子からも人気があるだろうなと思った。


 「まぁ、要するに生米から作るのが一番のこつなんだよ。炊いたご飯だと、おじやになっちゃうからさ。こうやって、水を継ぎ足しながら、芯を少し残すようにして……」


 平日の放課後、杏奈に連れられて「三河」に来た三咲に、俺はトマトリゾットの作り方をレクチャーしていた。

 杏奈は三咲を俺のところに連れてくると、なにやらやることがあるから、とばたばたと2階に行ってしまった。


 何でも、幼なじみの男子が別の高校に居て、年末にその家族とコテージに泊まりに行くそうな。 そこで、その男子の好物を振る舞う予定らしく。


 昔、その幼なじみの地元のレストランに行って、両方の家族で食事をした際、2人が注文したセットに添えられていたトマトリゾットがとんでもなく美味しかった、と。

 今でも時々その話をするが、お店はずいぶん前に閉店してしまったらしい。


 味自体は、杏奈に聞き取ってもらったところ、腕の良い料理人さんが作る基本的なトマトリゾットって感じで、イメージを再現して杏奈に試食してもらったところ「瞬殺ですね……完璧です」とのことだった。 

 

 「ほんと、ありがとうございます」

 「いや、杏奈も御世話になってるし、そういや、文化祭の時は学校との調整でずいぶん世話になったから。ちょうどいいお返しかなと。誰かに作ってあげるの?」

 

 「はい、幼なじみの思い出の味を再現して、美味いって言わせて、ついでに告白させようと思ってんです」


 片手間に飲んでいたほうじ茶が気管に入ってむせた。

 

 聞き間違い、じゃないよな。

 

 「告白させるって言った?」


 「何か変なこと言いました?」


 「いや、ストレートだな、と思って」


 「別にこっちから言っても良いんですけど、向こうから言いたいかな、と思って」

 

 ……ええ?

 「何その確信」


 「あ、付き合いは長いですから」

 「だ、だからって……」


 「夏に会ったとき、今度の年末旅行で、伝えたいことがあるからって、もったいぶってて。

 さっさとしろって感じですけど、まぁ、向こうもサッカーやってて、秋の部活の大事な大会が終わってからって思ってたみたいですけど。

 そんなだから、ちょっと美味しいもの作って、雰囲気出してあげようかな、と思って」

 

 よ、余裕……! 

 相手に告白をさせる雰囲気を作るという、高等技術だと!?

 

 くそ……さすがは杏奈の親友、ただの女子高生じゃない……。


  あー、しかも。幼馴染にバスケ部とサッカー部で、何だこのキラキラした青春⋯⋯。俺は厨房にずっと籠ってたのに⋯⋯。これがリア充か……。なんか悲しくなってきた⋯⋯。


 料理レクチャーから一転、完全に形勢が逆転していた。

 狼狽した俺の様子を見て、橘三咲が吹き出した。


 「ちょっとだけ冗談です。実は向こうのお姉さんから「何か告白する気みたいだけど、大丈夫?」って言われてて」

 

 なんだー。

 あーなんだー、びっくりしたー。家族が外堀を固めてるのか。それなら少し納得。

 相手の気持ち、伝聞で聞けてるのはでかいな。


 「まぁ、じゃあなんて言うか、逆に安心できていいね」


 「ええ? そうでもないですよ。サプライズ感がないじゃないですか。ドキドキが薄れちゃうのは、ちょっとマイナスですね」


 「この年の人間としては、安心感がある方が何倍も良いよ」


 「橋本さんは不安なんですか?」


 「え?」


 ん?

 

 「橋本さんも、好きな人、いるんですか?」


 「おわっ!」

 ほうじ茶を入れたコップを落としそうになって、慌てて掴みなおした。

 

 「こらこら、大人をからかうもんじゃないよ」


 なんか、前もこんなことがあったような……。


 「すみません、クリスマスも近いから、つい」


 関係あるようなないような。

 

 ……しかし、クリスマス。か……。

 

 杏奈はまだ二階に居るっぽいな。


 「そういや、さ、杏奈には結構、店を手伝ってもらっちゃってるんだけど」


 「はぁ」


 「その、普段の学校の交友関係とか、そっちには影響ないのかな。友達とか……その、まあ、例えば特に、仲の良い異性とか……あ、いや、店が負担になってないといいな、と思ってなんだけど……」


 ふと、橘三咲の目が一瞬光ったように見えた。


 ***


 私の脳裏に、杏奈の自宅である「三河」への道すがら、今日の作戦を立てていた時の記憶が流れれる。


 「とにかく、料理を教えてもらってる流れで、こないだ、杏奈が熱っぽい時に変なこと言ったって、気にしてたみたいですよって、自然に気いてみるから」


 「おお……」


 「ついでに、聞ける範囲で行けるとこまで行ってみるわ」


 「え、いや、そんなに突っ込まなくても……」


 「いや、橋本さんは難しそうだから、揺さぶっていかないと。まぁ、危険と思ったら引き返すから、杏奈は階段の影あたりで待機してて」


 「……何か、橋本さんに悪いことしてるみたいで……」


 「……表情と言葉が合ってないわよ」

 

***


 「杏奈の学校での様子とか……男子との関係、気になります?」

 「な……いや、男子って言うか……その……」

 「教えても良いですけど……個人情報だから、タダって訳にはいかないかなー」

 

 なんだと……しまった。

 今回の依頼を先に取引材料にすれば良かった。 


 「な、何か別の料理でも教える?」


 「いえ、じゃあ、私からの質問にも答えてください」


 「え、何でも答えろってのはちょっと……」


 何聞かれるか分かったもんじゃない。


 「「はい」か「いいえ」で良いですから。3つだけ。あ、嘘つくのはだめですよ」


挿絵(By みてみん)


 ……それくらいなら……。


 「分かった。いいだろう」


 その時、橘三咲の浮かべた微笑の危険さに気づかなかったことを、後から死ぬほど後悔した。

読んでいただいてありがとうございます!

週末更新中です、もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!

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