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4 身体にリボン

 「プレゼント、ね……」

 「年上の男性の欲しい物って、何だろう……」


  例によって、非常階段のお昼ご飯会議を三咲と繰り広げていた。


 「何か、橋本さんの趣味とかないの?」


 「うーん、基本、ずっと料理のこと考えてるっぽいしなぁ……」


 「じゃあ料理道具とか」


 「プロ用のって、めっちゃくちゃ高いんだよ……橋本さんは橋本さんの好みがあるだろうし……」


 「バイト代の範囲でねぇ……まぁ、でも確かにあんまり高い物でも、かえって引かれるかも」


 「うーん……」


 「年上のおねぇさんズに聞いてみるってのは」 

 「おお! 確かに」


 そういえば、今年は「三河」への料理依頼を通じて年上の女性陣とたくさん知り合いになっていた。ちょっと連絡してみよう。


 ***


 「おー、杏奈、元気?」


 百瀬さくらにメッセージを送ったら、すぐ返信があったけど、時差が15時間あるから、そっちの時間で23時に、と言われた。


 「え? 今どこにいるの?」


 ホテルの一室だろうか。朝の光がまぶしく射し込んでいる。

 いや、広いな、何そのラグジュアリーな空間。


 いかにも高級そうなソファーに座り、リラックスした感じのワンピースで、多分すっぴんだけど、そのまま何かのメイキング映像に使えそうなくらい、画面の中の百瀬さくらは、かわいい。


 映画の台本に出てくるスープの味が知りたい、という依頼で「三河」に訪れた有名アイドル。依頼の流れで友達認定され、久住・ウィルヘルム・来人さんの一件では主演として協力してくれた。その後も定期的にメッセージのやりとりをしていて、今は海外にいるのだけは聞いていたけれど……。


 「シカゴよ、シカゴ。年末の番組の収録。あと、別件で映画の打ち合わせもあって。昨日今日はいいとこに泊まってんの。なんか一流芸能人みたいでしょ?」


 ひゃー。やっぱり本当、有名芸能人なんだよなぁ……。


 「忙しいときにごめん……」


 「別に年中こんなもんだから。こっちも朝の気分転換になっていいわ。で、何、プレゼントするの? 橋本さんに?」 


 「そうなの……何か、さくらだったらそういう年上の人へのプレゼントとか、詳しいかなって」 

 

 「あ、ごめん。私、もらう専門だから、送るのは専門外」


 な、なんだって……。


 「……嘘でしょう?」

 「いや、ほんと。お返しは基本マネージャーに対応してもらってるから。あ、メッセージ添えくらいはするけど」


 「な、何か仕事を掴むために、権力ある人に色々送ったりしないの?」


 「……あなた、私のことどういう目で見てるの? 最近はそういうの減ってるのよ。いや、なくはないけど」


 だめだ、世界が、存在が違いすぎた。アイドルなんだから当然か。


 「ああ、そういえば」

 「あ、何かアイディアが?」


 「先輩で、プロデューサーと付き合う前に、自分にリボンかけて箱に入って、「プレゼントはわたし」を本当にやった人いたわ」


 あわわわわわ!


 「そんなんできるわけないでしょうが!」


 「その人、それがめっちゃ受けて、結局、結婚したわ」


 「け、けけけ、けこっ……」


 「いいんじゃない、そのくらいインパクトあることやったら? 杏奈はやらなそうだし、ギャップよギャップ。男子も女子もギャップにくらっと行くものよ」


 「ぎゃ、ギャップ……」


 「なんなら、事務所の備品のリボンとか人が入れる箱とか貸してあげよっか? 橋本さんの誘導は私がやってあげるから」


 「え、ええ?」



 箱……箱に入って……。

 橋本さんを待って、か、身体にリボンを巻いて……。え、ちょっと待って、ふ、服は着るのよね? まさか……。



 「え、杏奈、今、どんな格好でリボン巻こうか考えてる? さすがに、先輩も裸じゃなかったわよ? それは変態過ぎるでしょう」


 「なっ! そ、そんなこと考えてないっ!」


 「か、考えてたでしょ、その顔……! こわっ! やっぱり、普段真面目な人ほど、いざとなると暴走するものね……さすがに、橋本さんも引くと思うからそれは止めた方が……」


 「だからやらないって! もう、そんな変なことしません!」


 真っ赤な顔の私を見て、百瀬さくらは腹を抱えてけたけた笑っている。


 「あーおもしろかった」


 くそ……結局遊ばれて終わった……。


 「まぁ、でもさ」


 にこにこした百瀬さくらがわたしを見つめた。


 「もらう側からしたら、高い安いとか、そういうのより、どれだけ考えてくれたか、気持ちが入ってるか、やっぱりそれかな。だって、ぶっちゃけお金積んで買える物は、お金さえなんとかすれば手に入るでしょ。嬉しいとしたら、それより、そのお金のためにがんばってくれたっていう、気持ちや時間の方かな。そうすると、結局、物そのものじゃなくて……一生懸命私のことを考えて用意してくれたものは、それが分かる物は、どんな物でも忘れないし、嬉しいよ」 


 あ……。


 そうか、もらう専門家の意見は、急に、やけに説得力があった。


 「どう? 参考になった?」


 百瀬さくらはウインクした。


 あー、もうファンです、ファン。

 ずっと推します。

 さすがだなぁ……。 


 「じゃ、年末までに一回「三河」にお忍びでご飯食べに行くから、美味しいのよろしく」

 「え、ほんと?……橋本さんに言っておく」

読んでいただいてありがとうございます!

もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!

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