20 雪の降る夜(挿絵あり⭐️)
「あーん? 何だ、あんちゃんの彼女か?」
おっさんの一人が俺を睨みつけた。
「当然だろ」
一瞬、静まりかえったクリスマスツリーの前。
おっさんが、途端に満面の笑顔になって、親指を立てる。
「いーねー! 彼氏、最高だね! ベストカップル! 何もないけど、これ、そこの店のクーポン券! くりすますぷれぜんとっ! お幸せに! メリークリスマス!」
陽気なおっさん2人組は、笑顔で騒ぎながら去っていった。
なんだ、本当に楽しい酔っぱらい、か。
それは、それとして。
「わりぃ、流れで、つい」
「あ、いえ。その……嘘でも……嬉しい嘘っていうか……」
「嘘には、したくない」
「え?」
こんなに緊張したこと、今までなかったな。
これに比べたら、どんなことも、全部、ひどく簡単に思える。
氷のような空気を吸い込んで、火が付いたような心臓を少しでも冷やして。
「俺は、杏奈が好きだ」
***
もう、頭が真っ白になって、イルミネーションの光がごちゃごちゃに視界に入ってきて、涙が止まらなくなってしまった。
「私……私は……」
初めて会ったときのこと。
小学生の時から、それからずっと橋本さんのことを探していたこと。テレビで見つけた時のこと。お店に来てくれた時のこと。料理を教えようとしてくれた時のこと。それからのこと、全部。
「私は、ずっと、橋本さんが好きでした」
私は、橋本さんに駆け寄って、抱きついた。
「ずっと、ずっと、好きだったんですから」
「ほんと?」
「ほんとです! なのに、ずっと子ども扱いして……!」
「悪かったって……最近はそんなに……してなかったろ」
橋本さんの鼓動が聞こえるくらいの距離。
橋本さんと目が合った。
その目に吸い込まれそうだった。
幸せすぎて、ぼんやりしたまま、背伸びをして、唇を寄せようとして……。
肩を掴んで止められた。
ついでにくるりと、回れ右をさせられた。
綺麗なクリスマスツリーだなー。
じゃなくて。
「は?」
え?
キスの流れじゃないの?
「いや、それはダメだ」
「え?」
「まだ付き合うとは言ってない。付き合う前にキスとか、ダメだろ」
「おお??」
おおお??
「杏奈、誕生日、いつだっけ」
「え……来年の8月……」
「じゃ、8月に。8月の誕生日に、改めて交際を申し込むから」
???
「ちゃんと、18歳になってから。順を追って、そういうのはしないと」
「えー!!! えーー!? こ、この流れでそうなります?! そんな理性的な!?! このタイミングでしないで、いつするって言うんですか!?!?」
「一点の曇りもなく、公明正大な関係でいたいだろ?」
橋本さんが、後ろから、少し耳元に顔を寄せた。
「逆に、それまで、他の男に目移りするようなことがないように。多分、普通に嫉妬するから」
え……。
橋本さん、ですよね?
ちょっと、らしからぬ発言に、驚きながら、寄りかかる様に振り向いた。
顔が赤くなっているように見える。
……悔しいけど、これはこれで……。
キスできないのは帳消しか……。
「……私のこと、本当に好きなんですね」
「……まぁ……」
「もう一回言ってください」
「な……」
「キス禁止の代わりです。言ってくれないと離れないですよ」
「こ……この……」
橋本さんがため息をついた。
「好きだよ、好き」
私は、橋本さんをもう一度抱きしめた。
「こら、ちょっと……抱きつくのも程度問題だ、ちょっとグレーゾーンだぞ!」
「そんなの知ったことじゃありません!」
橋本さんの言葉で、真っ赤に火照った頬に。
ふと、冷たい感触があった。
「……雪……」
「どうりで寒いわけだ」
私と橋本さんは、身を寄せあったまま、クリスマスツリーの前で、イルミネーションを反射して輝きながら漂う、小さな光の粒を見上げた。
***
招待状は、三河さんの手書きだった。奇跡的に関係者全員の日程が合うのが28日夜だったそうな。
官公庁も御用納めで、タイミングはぴったり。
田島警部補とともに、1時間の時間休。
年の締めくくりに、橋本さんの料理が食べられるというのは、なんとも贅沢な話。
三河さんによると、橋本さんと、どうやら上手くいったみたいだけど……。
今夜はたっぷり話を聞かせてもらわないと。
「牧島警部、そろそろ行きます?」
「そうね、もうお腹ぺこぺこ」
「お昼を抜くなんて、やりすぎですよ」
「最高の料理だもの。最高のコンディションで食べたいじゃない」
それを聞いて、田島警部補が笑った。
私は部署の入り口で、定時を待っている職員の方を振り向いた。
「今年もお疲れさまでした。良いお年を」
(おしまい)
読んでいただいてありがとうございます!楽しかったなぁ⋯⋯
大変お世話になりました!
もし良ければ評価、感想等頂けたらとっても嬉しいです⚪︎
それでは良いお年を!!




