表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/20

17 2人きりのクリスマスイブ

 12月23日の夜。

 手芸店で買ってきたラッピングを整えた。

 だいぶ苦労したけど、マフラーを2本編み終えた。

 明日はお母さんと3人だし、渡すのは25日の、お店の短縮営業が終わってからにしようと決めていた。

 お母さんと3人だと、思っていたのだけど……。

 

 ***


 「本当にどうしてこのタイミングなのか……」

 お母さんがげんなりした顔で、ため息をついていた。


 静岡に、長年交流の無かった親戚の叔母さんがいるのは知っていた。私も本当に小さい頃に会ったきりで、言われて思い出したくらいだったけど……。


 その叔母さんが急に入院することになって、様子が思わしくないので、来てほしい、と。叔母さんの友人に当たる人から連絡が入った。何でも、叔母さんには子供がおらず、お母さんにも相続が発生するかも知れないとのことで……。


 時間は、午後3時。これからケーキを取りに行って、お母さんが作った簡単なオードブルを並べて……何やら、メインディッシュは橋本さんが作るらしく、冷蔵庫に具材がそろっているようだけど……。


 「杏奈は家で待ってて」

 「え?」


 「向こう行ってもなーんにもやることないから。それにね、前にもあったんだけど……以外とけろりと持ち直すのよ、この人。橋本さんにも悪いから、二人でケーキ食べてて」

 

 お?

 え?


 「二人で?」

 「え?」


 え、お母さん?


 「あ、私も食べたかったけど……まぁ、年が明けたら、橋本さんに栗きんとんでも作ってもらいましょ」

 

 え、良いの?

 娘が……その……クリスマスイブに男性と二人きりですけど……。

 

 「なんか本当に、最後の最後まで、1年中、杏奈のお守りを橋本さんにお願いした感じだったわね……」

 

 お守り……、

 こ、子供扱いして……子供だけど……。

 

 すっと、お母さんが近づいてきた。


 「でも、私、橋本さんだったら息子でも良いと思ってるのよ。良いと思っているというか、理想的じゃない?」


 

 ~~~!!!!!

 


 「だからと言って、物事の順序や道理は、きちんとしてもらいたいと思ってるけど」 


 

 ~~~!!!!!


 「お、おか……おかあさ……な、何を言って……」


 

 「何を言ってるかは、分かるでしょ? こっちは産まれた時からずっと見てるんだから」


 

 え……。

 本当に、これ、急な用事で出かけるんだよね……?

 わざとじゃないよね……?


 ***


 女将さんからメッセージがあった。

 

 今日はすみません。急な用事で出かけるので、杏奈をよろしくお願いします。


 橋本さんなら、クリスマスに二人きりとはいえ、全く問題ないと信じています。


 ……。

 これほど破壊力のあるメッセージを受け取ったのは、初めてだった。

 

 全く問題ない、という重しも絶妙だった。

 

 ***


 「……すみません、お母さんが……」

 「ああ、連絡もらった……」


 お店の奥の小上がりは、クリスマスツリーを立てて、雪の結晶やらサンタさんやらの小物飾りをぶら下げて、ちょっとしたパーティスペースとなっていた。

 店のスピーカーに、橋本さんがスマホを繋いで、クリスマスっぽいbumを流すと、いよいよパーティ感が高まった。

 

 しかし、3人で談笑、のはずが……。

 まさか二人きりとは……。


 「あ、こないだの服」

 「そうなんです、これ、本当は今日着ようと思って……あ、何か滅茶苦茶気合い入れて準備したみたいですよね」


 「ま、俺も楽しみにしてたから」


 手提げに、細いボトルが2本。


 「大人用の赤ワインと、子ども用のスパークリングアップルジュース」


 「あ! またそうやって……私、飲めるようになったら絶対強いですからね。お母さんも強いから」


 「一緒に飲めるようになるのを、楽しみにしとく」

 橋本さんはそう言って笑った。

 

 それから、最初に食事かケーキかを話し合い、結局先にケーキ、後でゆっくり食事、という話になった。大きめに切り分けて、お母さんの分も残して、それは冷蔵庫へ。

 

 橋本さんはワインを開けて、私はジュースをグラスに注いで。それからはまた、たわいのない話。

 この一年のこと、最初に料理を教わった時のこと、社長さんから急に依頼があったこと、鎌倉に行って後をつけられた時のこと、社長さんのつながりで、牧島警部と田島警部補と色々調べたこと、ひったくりを捕まえたこともありましたっけ、アイドルの百瀬さくらに依頼を受けたこと、そう言えば、結局、あの依頼が大きなヒントになったんでした。


 そうやって振り返ると、一つ一つのことは、全部今につながっていて、また未来に結びついていく。

 


 一緒に飲めるようになるのを、楽しみにしとく。

 


 それは、来年も、再来年も、一緒にいてくれるってことだよね。



 橋本さんと話して、笑っているうちに、悲しくもなんともないのに、ぽろりと涙が出てしまった。

 


 「なんだ? どうした?」


 「いえ、何でもないです……あはは。ジュースで酔っぱらったかも」


 「え、これアルコール入ってないよな?! 牧島・田島に捕まる……! 女将さんに怒られる……」


 慌てて橋本さんがアップルジュースのラベルを調べ始める。


 その様子を見て、私は、今どうしても気持ちを伝えたいと思った。

読んでいただいてありがとうございます!

クリスマスも佳境です、、、残り数話ですが、もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ