17 2人きりのクリスマスイブ
12月23日の夜。
手芸店で買ってきたラッピングを整えた。
だいぶ苦労したけど、マフラーを2本編み終えた。
明日はお母さんと3人だし、渡すのは25日の、お店の短縮営業が終わってからにしようと決めていた。
お母さんと3人だと、思っていたのだけど……。
***
「本当にどうしてこのタイミングなのか……」
お母さんがげんなりした顔で、ため息をついていた。
静岡に、長年交流の無かった親戚の叔母さんがいるのは知っていた。私も本当に小さい頃に会ったきりで、言われて思い出したくらいだったけど……。
その叔母さんが急に入院することになって、様子が思わしくないので、来てほしい、と。叔母さんの友人に当たる人から連絡が入った。何でも、叔母さんには子供がおらず、お母さんにも相続が発生するかも知れないとのことで……。
時間は、午後3時。これからケーキを取りに行って、お母さんが作った簡単なオードブルを並べて……何やら、メインディッシュは橋本さんが作るらしく、冷蔵庫に具材がそろっているようだけど……。
「杏奈は家で待ってて」
「え?」
「向こう行ってもなーんにもやることないから。それにね、前にもあったんだけど……以外とけろりと持ち直すのよ、この人。橋本さんにも悪いから、二人でケーキ食べてて」
お?
え?
「二人で?」
「え?」
え、お母さん?
「あ、私も食べたかったけど……まぁ、年が明けたら、橋本さんに栗きんとんでも作ってもらいましょ」
え、良いの?
娘が……その……クリスマスイブに男性と二人きりですけど……。
「なんか本当に、最後の最後まで、1年中、杏奈のお守りを橋本さんにお願いした感じだったわね……」
お守り……、
こ、子供扱いして……子供だけど……。
すっと、お母さんが近づいてきた。
「でも、私、橋本さんだったら息子でも良いと思ってるのよ。良いと思っているというか、理想的じゃない?」
~~~!!!!!
「だからと言って、物事の順序や道理は、きちんとしてもらいたいと思ってるけど」
~~~!!!!!
「お、おか……おかあさ……な、何を言って……」
「何を言ってるかは、分かるでしょ? こっちは産まれた時からずっと見てるんだから」
え……。
本当に、これ、急な用事で出かけるんだよね……?
わざとじゃないよね……?
***
女将さんからメッセージがあった。
今日はすみません。急な用事で出かけるので、杏奈をよろしくお願いします。
橋本さんなら、クリスマスに二人きりとはいえ、全く問題ないと信じています。
……。
これほど破壊力のあるメッセージを受け取ったのは、初めてだった。
全く問題ない、という重しも絶妙だった。
***
「……すみません、お母さんが……」
「ああ、連絡もらった……」
お店の奥の小上がりは、クリスマスツリーを立てて、雪の結晶やらサンタさんやらの小物飾りをぶら下げて、ちょっとしたパーティスペースとなっていた。
店のスピーカーに、橋本さんがスマホを繋いで、クリスマスっぽいbumを流すと、いよいよパーティ感が高まった。
しかし、3人で談笑、のはずが……。
まさか二人きりとは……。
「あ、こないだの服」
「そうなんです、これ、本当は今日着ようと思って……あ、何か滅茶苦茶気合い入れて準備したみたいですよね」
「ま、俺も楽しみにしてたから」
手提げに、細いボトルが2本。
「大人用の赤ワインと、子ども用のスパークリングアップルジュース」
「あ! またそうやって……私、飲めるようになったら絶対強いですからね。お母さんも強いから」
「一緒に飲めるようになるのを、楽しみにしとく」
橋本さんはそう言って笑った。
それから、最初に食事かケーキかを話し合い、結局先にケーキ、後でゆっくり食事、という話になった。大きめに切り分けて、お母さんの分も残して、それは冷蔵庫へ。
橋本さんはワインを開けて、私はジュースをグラスに注いで。それからはまた、たわいのない話。
この一年のこと、最初に料理を教わった時のこと、社長さんから急に依頼があったこと、鎌倉に行って後をつけられた時のこと、社長さんのつながりで、牧島警部と田島警部補と色々調べたこと、ひったくりを捕まえたこともありましたっけ、アイドルの百瀬さくらに依頼を受けたこと、そう言えば、結局、あの依頼が大きなヒントになったんでした。
そうやって振り返ると、一つ一つのことは、全部今につながっていて、また未来に結びついていく。
一緒に飲めるようになるのを、楽しみにしとく。
それは、来年も、再来年も、一緒にいてくれるってことだよね。
橋本さんと話して、笑っているうちに、悲しくもなんともないのに、ぽろりと涙が出てしまった。
「なんだ? どうした?」
「いえ、何でもないです……あはは。ジュースで酔っぱらったかも」
「え、これアルコール入ってないよな?! 牧島・田島に捕まる……! 女将さんに怒られる……」
慌てて橋本さんがアップルジュースのラベルを調べ始める。
その様子を見て、私は、今どうしても気持ちを伝えたいと思った。
読んでいただいてありがとうございます!
クリスマスも佳境です、、、残り数話ですが、もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!




