12 なんなの
日本酒は、酔いが回るのが、早い。
「だって、もしかしたら、俺のことを……とか、思っちゃうじゃないですか。マフラーとか、熱……おでこに触らせたりとか……」
20分後には、一通りしゃべっていた。
取調室で落とされた被疑者の気分だ。
「……くそ……だから、捜査技術を悪用するなって……」
「いや、自分は何もしてないですよ」
相づちを打ちながら、ずっっとにやにやしている。
「私にできるのは、馬を川の近くに連れて行くことだけ。しゃべりたいことがある人を、止めることはできないもんです」
絶対に、何か相手にしゃべらせる技術を悪用してるに違いない。
「で、橋本さんはどうなんです?」
「俺のことは、いいんです」
「あきらめちゃって、良いんですか?」
「未成年に手を出して、田島さんに捕まりたくないんで、かえってよかったんです、これで」
「……本当に、そんな人、いるんですかねぇ。橋本さん以外で、小学生の頃からの関係で、好きな人、なんて」
「え?」
「例えば、同じ小学校で、高校が同じになった、とかですか?」
「そうじゃないですか?」
「三河さんのお友達は、橋本さんに、わざわざその情報を耳打ちしてきたんですよね」
「そうですよ」
「何のために?」
「え? ……それは、俺が交友関係とか、聞いたからじゃないですか?」
「でも、ちょっと質問とずれてますよね。交友関係とは、直接つながらないような。すると、そのお友達の発言には、別の意図があった、と推察するのが自然です」
「別の意図?」
田島警部補が硬直した。
「……え、まだわかんねーんですか? 料理以外、ほんとポンコツですね」
「あ! 今バカにした! もう絶対田島さんに料理食わせないから!」
「なっ……なんですか! その子供みたいな嫌がらせ! ていうか、分かるでしょ!」
「分かんないっす」
えー、とあきれたような田島さんの声がもれた。
「三河さんと、その友達が共謀してたとします」
「は?」
共謀?
「橋本さんが、三河さんのことをどう思ってるか、お友達を通じて確認したい、と」
「え、何で?」
「ひっぱたいて良いですか?」
「普通に傷害罪ですよ」
「……だから、二人が共犯関係だったら、全部すっきり理解できるんです」
「な……あの二人……何か犯罪を……」
「本当に面倒くさくなってきた……だから、二人の目的が、橋本さんの気持ちを確認すること、そして、その友達は、三河さんのアシストをしたいと思っている、そうだとしたら、最期の、「小学生の頃から好きな人」っていう話も、そのアシストですよ」
「……どういうこと?」
「……牧島警部がいたら、普通にビンタされてますよ……」
田島警部補がため息をついた。
「導かれる結論は一つでしょ。だから、初恋の相手は、橋本さんだってことです」
毛細血管が何本か切れた音がした。
「いやいやいやいや、そんな……」
「じゃ、もう聞いてみたらいいんじゃないですか?」
「え?」
「だって、どうせ外れてたら、今の状態と変わらないので、失うものないじゃないですか。でも万一、橋本さんイコール初恋の人だったら、一発逆転ですよ。メリットしかない賭です。普通、やるでしょ」
え? え?
いや、確かに、そんな気がしてきたけど……。
だめだ、焼酎、ハイボール、日本酒の温燗、熱燗、熱燗がだいぶ効いてる……。
「ま、前も言いましたけど、お二人は、お似合いだと思いますけどね」
***
「任務、終了しましたので、帰宅します。明日、午前休で」
「大変お疲れさまでした。で、どう?」
「牧島警部の読み通り、完全にとんちんかんな解釈をしてました。他に初恋の人がいるんだろうと」
「軌道修正は?」
「できるかぎりやっときました。ていうか、かなり直接的に示唆しました。じゃないと、分かんないんで」
「……お疲れさまでした……」
***
その後、しばらく飲んでいた気がするが、次に目が覚めた時は、自宅のベットだった。
ズキズキする頭を抑えながら起きあがる。
じゃ、もう聞いてみたらいんじゃないですか。
確かに。そうかも知れない。
仮にフラれても……。
一緒に料理づくりを続けてくれるなら、俺はそれで十分。
多分……。
***
12月17日。
何だかんだ、あと一週間でクリスマスイブ。
マフラーはほぼほぼ、編み終わったけど……。
問題は、こないだの三咲の暴走であり、非常階段で審議をすることとした。
「最期、何してくれてんの……」
「だ、だって……。もういっそ聞き出せそうと思って……杏奈だって止めなかったじゃん」
う、それは……。
「……それに、絶対、橋本さんは気付いてないと思う。何なら、初恋のくだりは、杏奈に他に好きな人がいるって思った顔だった」
「え! 誤解されるのも困る……!」
「じゃあ、言っちゃう? 初恋の人は橋本さんですって」
「それじゃ、もう、それ告白じゃないの!」
「気付いたか……!」
「ちょっと! 三咲、遊んでるでしょ! 私と橋本さんで!」
「ばれたか……! いや、応援してるだけだから……」
「こらっ! 待てっ!」
バスケ部の足は速い。
えー、でも、それって……。
昨日の橋本さん、少しぼんやりしてた。
私に、他に好きな人がいるか、気にして?
……そんな、都合の良いこと、ないよね。
片思い、のはず。
私がずっと、一方的に。
***
17日夜の営業終了後、お母さんが先に休んだ後、橋本さんが紙袋からごそごそと何かを取り出した。
「何ですか?」
「ああ、お菓子なんだけど、知り合いからもらって、さ。杏奈と女将さんも食べるかと思って」
何で、まかない食べたこのタイミングで、お菓子?
そのお菓子の名前に、私は目を疑った。
読んでいただいてありがとうございます!
年末が近づきますね、、、もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!




