表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/20

12 なんなの

 日本酒は、酔いが回るのが、早い。


 「だって、もしかしたら、俺のことを……とか、思っちゃうじゃないですか。マフラーとか、熱……おでこに触らせたりとか……」


 20分後には、一通りしゃべっていた。

 取調室で落とされた被疑者の気分だ。


 「……くそ……だから、捜査技術を悪用するなって……」


 「いや、自分は何もしてないですよ」


 相づちを打ちながら、ずっっとにやにやしている。


 「私にできるのは、馬を川の近くに連れて行くことだけ。しゃべりたいことがある人を、止めることはできないもんです」


 絶対に、何か相手にしゃべらせる技術を悪用してるに違いない。


 「で、橋本さんはどうなんです?」


 「俺のことは、いいんです」


 「あきらめちゃって、良いんですか?」


 「未成年に手を出して、田島さんに捕まりたくないんで、かえってよかったんです、これで」


 「……本当に、そんな人、いるんですかねぇ。橋本さん以外で、小学生の頃からの関係で、好きな人、なんて」


 「え?」


 「例えば、同じ小学校で、高校が同じになった、とかですか?」


 「そうじゃないですか?」


 「三河さんのお友達は、橋本さんに、わざわざその情報を耳打ちしてきたんですよね」


 「そうですよ」


 「何のために?」


 「え? ……それは、俺が交友関係とか、聞いたからじゃないですか?」


 「でも、ちょっと質問とずれてますよね。交友関係とは、直接つながらないような。すると、そのお友達の発言には、別の意図があった、と推察するのが自然です」


 「別の意図?」


 田島警部補が硬直した。


 「……え、まだわかんねーんですか? 料理以外、ほんとポンコツですね」


 「あ! 今バカにした! もう絶対田島さんに料理食わせないから!」


 「なっ……なんですか! その子供みたいな嫌がらせ! ていうか、分かるでしょ!」


 「分かんないっす」


 えー、とあきれたような田島さんの声がもれた。


 「三河さんと、その友達が共謀してたとします」


 「は?」


 共謀?


 「橋本さんが、三河さんのことをどう思ってるか、お友達を通じて確認したい、と」


 「え、何で?」


 「ひっぱたいて良いですか?」


 「普通に傷害罪ですよ」


 「……だから、二人が共犯関係だったら、全部すっきり理解できるんです」


 「な……あの二人……何か犯罪を……」


 「本当に面倒くさくなってきた……だから、二人の目的が、橋本さんの気持ちを確認すること、そして、その友達は、三河さんのアシストをしたいと思っている、そうだとしたら、最期の、「小学生の頃から好きな人」っていう話も、そのアシストですよ」


 「……どういうこと?」


 「……牧島警部がいたら、普通にビンタされてますよ……」


 田島警部補がため息をついた。



 「導かれる結論は一つでしょ。だから、初恋の相手は、橋本さんだってことです」


 毛細血管が何本か切れた音がした。


 「いやいやいやいや、そんな……」


 「じゃ、もう聞いてみたらいいんじゃないですか?」


 「え?」


 「だって、どうせ外れてたら、今の状態と変わらないので、失うものないじゃないですか。でも万一、橋本さんイコール初恋の人だったら、一発逆転ですよ。メリットしかない賭です。普通、やるでしょ」


 え? え?


 いや、確かに、そんな気がしてきたけど……。

 だめだ、焼酎、ハイボール、日本酒の温燗、熱燗、熱燗がだいぶ効いてる……。

 「ま、前も言いましたけど、お二人は、お似合いだと思いますけどね」


 ***


 「任務、終了しましたので、帰宅します。明日、午前休で」


 「大変お疲れさまでした。で、どう?」


 「牧島警部の読み通り、完全にとんちんかんな解釈をしてました。他に初恋の人がいるんだろうと」


 「軌道修正は?」


 「できるかぎりやっときました。ていうか、かなり直接的に示唆しました。じゃないと、分かんないんで」


 「……お疲れさまでした……」


***


 その後、しばらく飲んでいた気がするが、次に目が覚めた時は、自宅のベットだった。

 ズキズキする頭を抑えながら起きあがる。

 

 じゃ、もう聞いてみたらいんじゃないですか。

 確かに。そうかも知れない。


 仮にフラれても……。

 一緒に料理づくりを続けてくれるなら、俺はそれで十分。

 

 多分……。


***


 12月17日。


 何だかんだ、あと一週間でクリスマスイブ。


 マフラーはほぼほぼ、編み終わったけど……。

 問題は、こないだの三咲の暴走であり、非常階段で審議をすることとした。


 「最期、何してくれてんの……」


 「だ、だって……。もういっそ聞き出せそうと思って……杏奈だって止めなかったじゃん」

 う、それは……。


 「……それに、絶対、橋本さんは気付いてないと思う。何なら、初恋のくだりは、杏奈に他に好きな人がいるって思った顔だった」


 「え! 誤解されるのも困る……!」


 「じゃあ、言っちゃう? 初恋の人は橋本さんですって」


 「それじゃ、もう、それ告白じゃないの!」


 「気付いたか……!」


 「ちょっと! 三咲、遊んでるでしょ! 私と橋本さんで!」


 「ばれたか……! いや、応援してるだけだから……」


 「こらっ! 待てっ!」

 バスケ部の足は速い。

 

 えー、でも、それって……。

 

 昨日の橋本さん、少しぼんやりしてた。

 

 私に、他に好きな人がいるか、気にして?

 

 ……そんな、都合の良いこと、ないよね。


 片思い、のはず。

 私がずっと、一方的に。


 ***


 17日夜の営業終了後、お母さんが先に休んだ後、橋本さんが紙袋からごそごそと何かを取り出した。

 「何ですか?」

 「ああ、お菓子なんだけど、知り合いからもらって、さ。杏奈と女将さんも食べるかと思って」

 

 何で、まかない食べたこのタイミングで、お菓子?


 そのお菓子の名前に、私は目を疑った。

読んでいただいてありがとうございます!

年末が近づきますね、、、もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ