表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/20

10 三咲との戦い(後編)

 「俺なんかに、何を聞きたいのさ」


 「じゃあ、1つ目です。こないだ、杏奈が熱っぽくて、橋本さんに何か変なこと言っちゃったって言ってたんですけど、それ、嫌でした?」

 

 「がはっ」

 

 空気だけでむせた。


 「……え?」

 「いえ、質問1です。何を杏奈が言ったのかは聞いてないですけど、何か気にしてたみたいなんで、嫌だったか嫌じゃなかったかだけ、教えてください。そしたら、それだけ伝えておきます」

 

 ……。

 やばい。

 やばい話に乗っちまった。


 のっけからこれで、俺は後2問も耐えられるのか?

 ……だが、この子からの情報は貴重……。


 「……嫌じゃない。別に、大したことは言ってなかったと思う。もし気にしてたようなら、そう伝えてくれ」


 っていうか別に自分で言っても良いけど……。 



 ー橋本さんなら、全然触ってもらって良いです。

 っていうこないだの話、嫌じゃなかったよ。あはははー


 

 「馬鹿かー!!!」

 「ひっ! な、何ですかいきなり……」

「あ、すまない。何でもない、こっちの話だ……」


 な、なんだこれ。


 そんなこと直接言えるもんか、変態か。


 

 「だ、大丈夫ですか? 2問目行って」

 「大丈夫だ! さあ、来い!」


 気を取り直した橘三咲が不適な笑みを浮かべた。

 くそ……負けるものか……。


 「じゃあ、2問目です。橋本さんは、今、好きな女性がいますか?」


 「それはさっき、からかうなって!」

 「それはこの話が始まる前ですよね? あ、降ります?」

 

 ……!

 強い……!

 

 「はい、か、いいえ、ですよー」

  

 ……どうしてこうなった……。

 だが……。


 考えてもみろ、一般的、抽象的な質問じゃないか。


 例えば、醤油味が好きですか、味噌味が好きですか。


 私は醤油味が好きです。


 パクチーは好きですか?

 私は好きです。


 ほら普通。超自然。この程度の話。


 ていうか、誰だって、好きな人がいたりいなかったりは当たり前のことで。

 

 あ、そうだ、何か変な展開になったら「いや、好きって言っても、あれだ、家族・友人的な? 広い意味での好きだから、って言って逃げりゃいいや。


 「まぁ、いるかな」


 がたん、と階段の方で何か音がした気がした。 気のせいか? 女将さんは今日定期検査だし……。


 「まぁ、橋本さん、モテそうですしねー」

 「はは、大人をからかうもんじゃないよ」


 何か、余裕が出てきたわ。何てことない、個人を特定しない質問じゃないか。

 むしろ、ちゃんと好きな異性がいる大人。かっこいいみたいな。」


 「じゃあ、最期。その人は私の知ってる人ですか?」


 ……。

 

 静まりかえった「三河」の店内に、置き時計の秒針の音だけが微かに聞こえる。


 え、ちょっと待て?

 

 何だ、この質問。


 橘三咲の、やや吊目がちな瞳が、何か期待の色を込めて俺を見つめている。


 橘三咲の知っている人。

 

 いいえ、と言えば嘘になる。


 嘘はついてはいけないルール。


 しかし、はいと言ったらどうだ。


 橘三咲が知っているということを俺が知っている人。

 

 それは、一人に特定されるんじゃないか?


 え?


 「……タイム」

 「はい?」

 「ちょっと、良く検討してるんだが、質問、変じゃないか?」

 「え? そうですか? どの辺が?」

 

 え? 俺が間違ってる?

 いや、どうせ、「はい」か「いいえ」でしかないんだから……。


 ちらりと、橘三咲の表情を盗み見た。


 一瞬。

 悪魔のような笑みが口元に浮かび、それが瞬時に消えて、「何か?」とでも言うように橘三咲は首を傾げた。

 

 罠だ!

 絶対これ、罠だ!


 「これ、単なる2択じゃねーだろ! 騙されんぞ! ええい、まだトマトリゾットの仕上げの処理を教えていないが、もし教えて欲しければ、この問いは取り下げたまえ」

 「なっ! ひ、卑怯な!」

 「どっちが卑怯だ!」

 

 がるるるる。

 臨戦態勢の俺を横目に、橘三咲がどこかに目配せしたように見えた。

 「……分かりました……こちらも行きすぎた質問をしました……取り下げます、教えてください」

 「ふぅ。分かればよろしい。では、最期のチーズの処理を教えよう……」

 

 危なかった。さすが大人。何とか切り抜けた⋯⋯。

 あれ、何か忘れてるような……。


 橘三咲が、こそこそと近づいてきた。


 「杏奈、仲の良い異性なんていませんよ」

 「!」

 「眼鏡外すと、変な奴が寄ってくるから、外さないようにさせてますから」

 「何でそんなことを……」


 「だって、杏奈、小学校の頃からずっと好きな人がいますから。その人とまた出会えたから。他の人に言い寄られても、邪魔なだけでしょ?」


 え?

  

 「ただいまー、あれ? お客さん? 杏奈? 橋本さんもいる? あ、三咲ちゃんか」

 

 女将さんは、いつも絶妙なタイミングで帰ってくるよな、と思う。

読んでいただいてありがとうございます!

毎週末更新してます、もしよければ評価・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ