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1 クリスマスのご予定は(⭐️挿絵あり)

 にへら、にへら


 「……あのさ、杏奈」


 「ん?」

 「ちょっと最近しまりがないんじゃない?」

 「え、そ、そうかな?」

 11月も最終週。

 例によって、私は、親友にしてバスケ部エースの橘三咲を連れて、校舎はずれの非常階段で昼食を食べていた。

 すっと、取り出したのは、家にあった曲げわっぱの弁当箱。

 に、敷き詰められた、橋本さん手作りのお弁当……!

 「……涎、出てるわよ……」

 「はっ!」

 いかん、本当に……。

 本当に、良いのだろうか、こんなに幸せで……。

 ふと見ると、三咲がしらっとした目でこちらを見ている。

 「良いわねぇ、好きな人が家に来る日が増えて、なんなら週2でお弁当も作ってくれる? この……!」

 「ち、ちょっと! 三咲! 止めてって! ひゃひゃひゃひゃ」

 脇に手を突っ込んでくすぐってくる三咲から何とか逃げ出す。


 「ん? なんだ、橘と三河か? あんまり非常階段で騒ぐなよ?」

 「あ、はい、すみません……」

 通りがかった先生にたしなめられた。

 先生が去ると、すぐさま三咲はニヤニヤし始めた。まったく……。


挿絵(By みてみん)


 そう、あれこれあって、橋本さんが「三河」に戻ってきた、だけでなく……。なんと、橋本さんはうちで働く時間帯を増やしてくれたのだ。今働いている警備の会社は、すぐ辞めると迷惑がかかるから、ということで、会社と話して少しずつ日数を減らしていって、火、木は朝から「三河」に来て、お昼の弁当営業をすることになった。

 なので、その日は……。

 

 「なんだ、良い弁当箱あるじゃん。杏奈の分も詰めてやろうか? あ、学校のパンの方がいいか?」

 

 そんなわけないじゃないですか!


 飛び上がる勢いで否定して、先週の火、木、今週の火、そして今日の木曜日と、人生史上最高のお昼ご飯を私は堪能していた。


 こんなに幸せで大丈夫だろうか。事故にでも遭うんじゃないか。いや、これもいろいろ頑張ったご褒美か。


 「……しかし、毎回毎回、美味しそうね……」 今日は和風で、玉子と挽き肉のそぼろご飯に砕いた梅が散らしてあって、おかずには塩サバ、椎茸の煮物、小松菜に鰹節、彩りも味付けも……。

 また、お米も、どうやってるのか分からないけど、冷めて食べることを想定しているようで、ひんやりしているのにふんわりしていて……。わっぱ弁当箱だから、特にそうなるんだ、と言ってたけど。


 「はい、一口」

 「む……では許そう」

 「あれ、箸、長さ違くない?」

 「あ、これね、こないだ上の方、片方折れちゃったのよね」

 「それぐらい買えばいいのに」

 「まぁ、まだ使えるから⋯⋯」

 「ま、とりあえず、いただき! うまー」

 という感じで、なんだかんだ三咲も橋本さん弁当を分けてもらうのを楽しみにしていた。


 「まぁ……とにかく今、幸せなのは、よく分かった」


 「? 急になに?」


 「で、来月はどうするつもりなの?」


 「うっ」


 そう、まさにそれをちょうど、悩んでいた。


 「……こ、今年、クリスマスイブは普通に平日の水曜日だし……橋本さんは仕事だと思うから……木曜日は、夜22時までお店開けるし」


 「そんなんで良いの? まだ聞いてないんでしょ? 予定」


 「……うん……」


 「ちゃんと聞いた方が良いよ! 仕事ないかも知れないし、お店の後、22時から夜の街にデートでも出掛ければいいじゃん!」


 「で、デートって! 別に付き合ってないし……」


 「そうよ、それが問題よ! 告白するんじゃなかったっけ?!」


 「あ、いや……その……」


 「ええい、いつまで引っ張るのだ! ていうか、隙をついてキスしたんでしょ!」


 「ち、ちが……あれは何かちょっと間違って……橋本さんも何か気付いてないっていうか、頬だと思ってるし!」


 「いや、そんなことある?! 絶対気付いてるって! いろいろ! ファーストキスをうやむやにするとか、狂気の沙汰。それに……戻ってきてから、何か前より一層優しいんでしょ? なら、もう迷う理由もないでしょ! 行け! 行ってしまえ!」


 「ちょっと、そ、そんな……だって、告白して振られたら……働きずらいし⋯⋯」

 「まだそんなこと言ってんの?! それ、言い訳でしょ! 橋本さんだって若い男なんだし、どこで女と繋がるか分かんないよ!」

 「と、とりあえず、クリスマス! クリスマスの予定聞いて……それから色々考える……」

 

 ***


 夕方、玄関のベルを鳴らして、そっと玄関の引き戸を開ける。

 鍵は開いていて、ふくよかなコンソメの香りが私を包み込んだ。

 

 「おかえり」

 

 ああ、もう、これはやっぱりちょっと贅沢が過ぎるなぁ。

 カウンター越しに、ひょっこりと顔を出したのは、お母さん……ではなくて、橋本さんだった。 火、木は日中の弁当販売をして、休憩して、夕方には夜の営業の準備を始める。

 なので、朝から晩まで橋本さんが家にいる。

 要するに、初恋の、片思いの人がずっと家にいいて、おかえりなどと言ってくれるわけで。

 少々、心臓に悪い。


 「た、ただいま……です」


 「何だそりゃ。あ、弁当美味かった?」


 「もちろんですよ!」


 「そりゃ良かった。今日はちょっと渋めの弁当だったからな。次は、なんかポップな感じにするか」


 ああ、ダメだ。このままでも十分幸せだけどな……。

 

 いや、まって。


 こんなマメで優しい、料理のできる人が……。

 本当に、クリスマス、予定がないってことはあるのだろうか?


 あれ?


 そうだ。


 勝手に色々盛り上がっていたけど。

 

 ***


 「橋本さん、クリスマスのご予定は?」

 「あ、イブは、先約があってさ。ちょっとレストランで、二人きりで、ね。ま、杏奈も大人になったら、店を紹介してやるよ。ははは」


 ***

 

 みたいな。

 どこかの美人と、食事して、ケーキ食べて……そ、それから……。

 それから……。

 「……杏奈? どうした? 玄関、寒いだろ?  とりあえず着替えたら?」


 玄関先で制服で立ち尽くす私を、橋本さんが訝しげな目で見ている。

 ……いや、何にせよ……避けては通れない……。 

 

 「は、橋本……さん……」

 「ん?」

 

 「そ、その……く……くり……クリス……」

 頑張れ、聞くんだ……。

 「ああ、何だ。全く……その話か」

 ふと、橋本さんが口元に笑みを浮かべる。

 「今日の夜まで待ってくれ。ちゃんと準備してたんだから。俺だって、色々考えてるんだぜ」

 え……? 準備?

 何? クリスマスの……計画?

読んでいただいてありがとうございます!

本編の少し後なので、もしよければ本編の方も、、、へへ!


これは2万字くらいの見込みです、多分。


評価・ブクマ等いただけたらとっても嬉しいです!

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