背中越しのヒミツ
ユウキはリリスと宿に到着すると、緊張で肩をすくめたまま部屋に入った。
「汚い格好してないで着替えなさい。これ!シャツ」
リリスは手際よくユウキの汚れたシャツを脱がせ、新しいシャツを手渡す。
その瞬間、ユウキの意外なほど引き締まった体が目に入る。
「……え、なに、この筋肉…」
思わず息を呑むリリス。
力強さと美しさを兼ね備えた体に、ほんの少しうっとりしてしまう。
(ちょっと、私…見とれてどうするの…でも、この子って…こんなに…!)
心の奥で、嫉妬と独占欲が少し芽生える。
(誰かに触れられたら許せない…私だけのもの…って思っちゃうかも…)
ユウキは小さくため息をつき、肌寒さに肩をすくめながら新しいシャツに袖を通す。
「……あぁ、もう、どうしてこんなことに…僕って本当にダメだな…」
自分の情けなさに落ち込みつつも、どこかでちょっと期待してしまう自分もいる。
(でも、リリスさんが…自分のために…いや、冷静に…いや、でも…あの視線…!)
先ほどの胸の感触を思い出すと、思わず体が熱くなる。不用意にも血が集まる。
水浴び用の桶に湯を張り、ユウキは体を拭いていく。
リリスは気づかぬふりをしつつも、視線は彼の背中や肩、腕の輪郭に自然と向く。
ユウキはその視線に気づき、心臓が跳ねる。
(また見られてる…!どうしよう、ドキドキが止まらない…でも…嬉しい…)
「な、何か用ですか…?」
ユウキは赤面しながら小さく尋ねる。
リリスは微笑みながら近づき、彼の肩に軽く手を置く。
「用っていうか…その…背中、流してあげる」
突然の提案にユウキは思わず固まる。
(え、背中…流してもらう…って、どういうこと…!?)
リリスは少し意地悪そうに微笑み、ユウキの背中に近づく。
「ほら、ちゃんと体洗わないと、今日のご飯までに冷えちゃうでしょ?」
ユウキは言葉が出ず、ただ頷くしかなかった。
(あぁ…この距離…手が…触れる…でも…いや、冷静に…!)
リリスの手が肩甲骨に触れると、ユウキは思わず小さく声を漏らす。
「んっ…」
(触れられてる…しかもこんなに自然に…胸がドキドキして…)
リリスは軽く笑い、背中に石鹸をつけて優しく擦る。
「ふふ…やっぱり赤くなってる…可愛いんだから」
心の奥で少し独占欲が芽生え、思わず握る手を強めそうになるのを堪える。
(他の誰にも触れさせたくない…)
ユウキは身をすくめながらも、少し安心したように肩を預ける。
(あぁ…この距離感…でも、握ってほしい気もする…いやいや、冷静に…)
リリスはその背中に耳を近づけるようにして囁く。
「もっとちゃんと洗わないと…ね?」
彼女の息遣いが背中に伝わり、ユウキは思わず顔を赤くして固まる。
「は、はい…わかりました…」
ユウキの声はかすかに震える。
リリスは少し意地悪に微笑みながら、背中を丁寧に洗い続ける。
手と手が近づき、指先がほんの少し触れるたび、二人の間に甘い緊張が走る。
「ふふ…ほんと、可愛い子ね。こうして触れても嫌がらないなんて…」
リリスの胸の奥で、独占欲と愛情が入り混じり、自然と彼を抱きしめたくなる気持ちが芽生える。
「後は自分でできるでしょ?」
ユウキは、期待を裏切られた残念な気持ちを抑えながら返事を返した。
(僕なんかの、握ってくれるわけないよな。)
古びたシャツから汗の匂いが漂い、筋肉の陰影がちらりと見えるたび、心臓が早鐘のように打つ。
(…あんなにおっきくしてなんて素直で、可愛くて…鍛えられた体も、なんでこんなに愛おしいの…)
嫉妬と独占欲が交錯し、軽く胸が締めつけられるような感覚に襲われる。
ユウキは後ろを向き、バケツの水で体を洗う。
リリスはそっとシャツの匂いを嗅ぎ、胸の奥で熱がじわじわと上がるのを感じた。
「……はぁ、こんなに可愛いなんて、もう…たまらない」
その思いを必死に押し殺しつつ、リリスはわざとらしくユウキを急かす。
「はやくしなさい。宿のご飯の時間が終わっちゃうでしょ」
ユウキは慌てて、布で身体を隠しながら着替え始める。
(やばい…見られちゃったら、この依頼も、僕の立場も…いや、でも…見てほしい…!)
内心は混乱しつつも、リリスに気づかれないよう必死に平静を装う。
リリスはその様子を見守りながら、内心で興奮と愛おしさが混ざった感情に包まれる。
(ふふ…ほんとにこの子って…ちょっとからかいたくなる…でも、誰にも触れさせたくない…私だけのもの…)
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