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16.歪んだ愛情表現





ガラス張りの天井から夏の日差しが差し込む。

夏の日差しを受けて、キラキラと輝く空中庭園内にある管理された雄大な自然は、とても綺麗で美しかった。

さらにここは空調も効いている為、外とは違い、ちょうどいい気温だ。


そんな空中庭園内の奥にウィリアム様はいた。


私たちが見つけたウィリアム様は、私との約束なんて最初からなかったかのように、ハンモックの上で気持ちよさそうにすやすやと眠っていた。


…何と腹立たしいことか。

こちらは暑い中ウィリアム様を待ち、その後、疲労感を感じながらもやっとの思いで、ウィリアム様を見つけたというのに。




「ウィリアム様、起きてください」




私は寝ているウィリアム様に近づくと、容赦なくウィリアム様の肩を掴んで揺らした。

ハンモックに乗っているだけあってよく揺れる。




「…ん。レイラ?」




私に揺さぶられて、ウィリアム様はとても眠たそうにゆっくりとまぶたを開けた。

ウィリアム様の黄金の瞳が私を捉える。




「…あぁ、レイラ。おはよう」




私がいることに気がついたウィリアム様は嬉しそうに私に微笑んだ。

それから上半身だけ起こし、そっと私の髪をどこか愛おしげに優しく撫でた。

ウィリアム様の甘すぎる言動に不覚にも心臓が跳ねる。


王子様のような見た目にこんな甘い仕草なんて反則だ。




「ウィリアム様、姉さんは僕が連れて帰りますので。もう一度、お休みになってください」




ウィリアム様の言動にドキドキしていると、セオドアが私とウィリアム様の間に立ち、冷たい表情のまま、ウィリアム様にそう言った。

そんなセオドアにウィリアム様が「え?」と、どこかおかしそうに首を傾げる。




「どうしてセオドアがここにいるの?俺を探しているのはレイラでしょ?それにセオドアがレイラと一緒に帰る?一緒に帰るのは俺なんだけど」


「姉さんが探しているのですから、僕も一緒に探すのは弟として当然です。ウィリアム様はお休み中のようですし、僕が姉さんと帰ります」




ふわりと微笑んでいるが、どこか冷たいウィリアム様と、元々冷たいセオドアが睨み合っているように見えるのは、私の目がおかしいからだろうか。

一体互いに何が気に食わなくて、こんなことになっているのかいまいち原因がわからないが、いつものことなのであまり深くは考えない。


そんなことを1人で思っている間にも2人の変な口論はもちろん続いていた。




「弟だからってセオドアは少し姉さんにくっつきすぎじゃない?普通じゃないよ?」


「普通?これが僕たち家族の普通ですが。部外者は黙っていただいてよろしいですか?」


「部外者?それは君でしょ?俺は将来レイラと結婚する仲だよ?ホンモノの家族になれるのは俺だけだから」


「家族なのは僕です」


「俺だよ」




何だこれ。


私の目の前で変な口論を続ける2人に思わず呆れてしまう。




「ウィリアム様」




傍観していても終わりそうにないので、私は2人の口論に入ることにした。




「どうしたの?レイラ」


「私と一緒に帰りたいのでしたら、こんなところで寝てないできちんと約束の時間に約束の場所に来てください」




セオドアに向けるものとは違い、私に優しく微笑みかけるウィリアム様を私はギロリと睨みつける。

するとウィリアム様は全く反省していない様子で、とてもいい笑顔を私に向けた。




「ごめんね、レイラ。君に俺を探して欲しかったんだよ。俺は俺に従うしかない君を見ると安心するんだ」




何と最低な発言なのだろうか。

あの国一完璧な王子様のようなシャロン次期公爵様がまさかこんな最低発言をするとは、国中の誰もが信じられない話だろう。


未だにいい笑顔を全く崩さないウィリアム様に怪訝な顔をしていると、斜め前にいるセオドアも私と全く同じ顔をしていた。


ウィリアム様に出会った頃、ウィリアム様はサイコパスである、と伝えてもなかなか信じなかったセオドアだったが、私の隣でウィリアム様の本性を見続けた結果、セオドアは今では私のウィリアム様はサイコパス発言もしっかり信じてくれていた。


ウィリアム様に、クソ野郎。と一言言ってやりたいが、もちろん言わない。残念ながら私の身分では、そんなことをウィリアム様に言えないのだ。




「…セオドア、帰ろう」


「そうだね、姉さん」




どちらにせよ、ウィリアム様とはもう帰る気がなかったので、私はすぐ傍いるセオドアに声をかけて、ウィリアム様に背を向けた。


今の私は血の滲むような努力のおかげで完璧なこの国一のご令嬢だ。

名実ともにこの国一のご令嬢になったレイラ様の代わりである私を、全てにおいて完璧でありたいシャロン公爵家は認め、望んでいる。

アルトワ伯爵家が是が非でもウィリアム様との婚約を続けたいように、シャロン公爵家もまた私との婚約を続けたいのだ。


なので、ウィリアム様の機嫌を損ねすぎることは良くないが、こんな小さな反抗くらいなら許されていた。

6年前の私たちには圧倒的な上下関係があったが、今はほぼ対等な関係なのだ。


空中庭園の外へと向かって歩く私の後ろからセオドアの足音が聞こえる。

それと同時にもう一つの足音も遠くから聞こえてきた。




「送るよ、レイラ」




気がつけば私の隣には涼しい顔をして笑うウィリアム様がいた。





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