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11.花咲く場所で





今日のウィリアム様との予定はシャロン公爵邸内にあるガラスドームの園庭内を共に散策する、というものだった。




「やぁ、レイラ」




今日も今日とて嫌々ウィリアム様の前に現れた私に、ウィリアム様はとても嬉しそうに柔らかく微笑む。


…本当に意味がわからない。

私のことが嫌いなはずなのにどうしてそんな顔ができるのだろうか。




「こんにちは、ウィリアム様」


「こんにちは、レイラ。今日は散策にうってつけの日だね」


「そうですね」




ウィリアム様がガラス越しの空にほんの少しだけ視線を向けたので、私も同じように空に視線を向ける。


ここは園庭とはいえ、ガラスドームの中なので、外の天気の影響を一切受けない。

外がどんなに寒くてもここだけは暖かいのだ。


しかし温度の影響は受けないが、園庭内の美しさについては違った。

晴れている方が、園庭内に太陽の光が降り注ぎ、この園庭をより一層美しく輝かせるのだ。


今日の天気は晴れだった。

園庭を輝かせる太陽の光が降り注ぐ今日はウィリアム様の言う通り、散策するにはうってつけの日なのだ。


簡単な挨拶を済ませた私たちはいつものように他愛のない会話をしながら、園庭内の散策を始めた。




「今日のスタイリングも全部セオドアが?」


「はい、そうです」


「ふふ、相変わらず仲のいい姉弟だね」


「…まぁ、はい。たった1人の弟ですし」


「でも実際に血は繋がっていないよね?」


「…私とはそうですね」




クスクスとどこか楽しそうに笑うウィリアム様に気まずくて曖昧な返事をしてしまう。

ウィリアム様はこうしてたまにレイラ様としてではなく、私を私として扱う時がある。

そしてここにいる私はいつでもレイラ様だったので、その度に私は戸惑った。


苦笑いを浮かべる私と優しい微笑みを浮かべるウィリアム様。

表向きは一応、にこやかな私たちだが、もちろん私の心はにこやかなものではなかった。


ウィリアム様はいつも何かしらの嫌がらせを突然してくる。今日も私に何をしてくるかわからない。

警戒するに越したことはない。




「レイラ、こっち」




心の中でウィリアム様のことをずっと警戒していると、ウィリアム様はそんな私の手を引き、狭い木々の隙間を歩き始めた。


ウィリアム様が進む方向には人1人分のスペースしかなく、複雑に変わる方向によって、自分が今歩いてきた道でさえもよくわからなくなる。

そんな道なき道をウィリアム様と歩き続けること数分。

突然、私たちの目の前に開けた場所が現れた。




「わぁ…!」




その開けた場所のあまりの美しさに、思わずレイラ様としてではなく、私、リリーとして感嘆の声をあげる。


私たちの目の前に広がる開けた場所には、見たことのない色とりどりの花が咲いており、その花の周りには数匹の蝶々がふわふわと舞っていた。

さらにそこに太陽の光が差し込まれ、キラキラと輝くことによって、今は冬だというのに、そこだけはまるで春のような暖かさのある場所になっていた。


あまりにも暖かく、美しい景色に見惚れていると、隣にいたウィリアム様が私に優しく微笑んできた。




「ここは俺のお気に入りの秘密の場所だよ。レイラをここへ連れて来たのは初めてだね?」




ふわりと笑うウィリアム様に私は思う。

レイラとはどちらのレイラのことを言っているのだろうか、と。

ホンモノのレイラ様も含めてなのか、ニセモノである私になのか。

…全くわからない。


考えてもわからないことを考えても時間の無駄だ。

私は早々にウィリアム様の言った言葉の真意について考えることをやめ、改めて美しい景色へと視線を向けた。




「綺麗ですね…」




ふらふらとウィリアム様から離れて、花を潰さないようにその場に腰を落とす。

それから目に付いた一輪にそっと触れてみた。


とても美しく愛らしい花だ。

おまけに太陽の光の影響か輝いているようにも見える。




「ここの花には特別な魔法が使われていてね。太陽の光を浴びると輝くようにされているんだよ」


「そうなんですね」




頭の上から聞こえてくるウィリアム様の説明を受け、改めて花のことをじっと見つめる。

この不思議な輝きは太陽ではなく、魔法によるものなのか。




「ふふ」




ふと、頭の上からウィリアム様の楽しそうな笑い声が聞こえる。

どうしたのかと顔をあげれば、美しいウィリアム様の黄金の瞳と目が合った。




「…何か面白いものでもありましたか?」




おそらく私を見て笑っているウィリアム様に私はそう質問してみる。

すると、ウィリアム様はその瞳をスッと細めた。




「そうだね。あったね」




クスクスと笑いながらこちらを何故か愛おしげに見つめるウィリアム様に訳がわからず首を傾げる。

何がそんなに面白いのか。

そして何故、そのような慈愛に満ちた瞳を私に向けるのか。


よくわからなかったが、私はまた考えることをやめた。




ーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーー


ーーーー




花の周りをふわふわと舞う蝶々もどこか特別な感じがする。

普通の蝶々とは違う輝きを感じるのは、ここの花の蜜で生きているからなのだろうか。

それとも太陽の光を浴びて輝いているのか、単に花の輝きを受けて輝いて見えるのか。


夢中になってここの観察を続けて数分。

私はずっと1人でただただこの幻想的な景色を楽しんでいた。


正直、ウィリアム様に絡まれず、この景色をただただ楽しめる今の状況は有り難すぎるし、楽しすぎる。

ウィリアム様の顔色を伺わなくていいとはなんて気が楽なのだろう。


だが、そこまで考えて私はふと思った。

その気を使うべき相手は今どこにいるのだろう、と。


先ほどまですぐ後ろに感じていたウィリアム様の気配が今はもうない。

つまりウィリアム様はここから離れたどこかにいるということだ。


そう思った私は座っていたが一度立って、周りを見渡した。

見渡す限り美しい景色。開けた場所の周りは木々に囲まれており、その先が全く見えない。

どこかにウィリアム様がいるはずだ、といろいろな場所へと視線を向けるが、その姿はどこにも見当たらない。


この自然の中でゆっくり寝ているからこちらからは見えない、とか?




「ウィリアム様!どこにいるんですか!」




私は見えない場所にいるウィリアム様を探す為に、その場で目一杯叫んでみた。

だが、ウィリアム様から返事はない。




「ウィリアム様!ウィリアム様!」




なので、私は今度はその場から駆け出して、この開けた場所中を探してみることにした。

だが、やはりどこにもウィリアム様の姿はない。


…嘘でしょ?


ここまで複雑な道をウィリアム様と共に来た。

木と木の間を縫うように歩いてきた為、当然帰り道なんて覚えていない。


今日の嫌がらせはこれなの?




「…はぁ」




1人で帰れる気がしないが、ここにいても仕方がない。

私は大きなため息を吐いてから、ウィリアム様と共に最初に来た場所へと戻った。


そこから道なき道を何となく勘と薄れすぎている記憶を頼りに突き進んだ結果、約1時間後、私は何とか知っている道に辿り着いた。

ウィリアム様と一緒だった時はたった数分しかかからなかったのに。

やはりウィリアム様の嫌がらせはかつてのセオドアとはまた違った方向で最悪だ。





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