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奈落の果ての異譚集  作者: 黒瀬雷牙
主人公のジーナ
8/31

騎士狩りのオルテガ

 瓦礫と灰の舞う回廊を、二人の足音だけが刻んでいた。どこかで鉄が軋む音がしたかと思えば、すぐにまた沈黙が戻る。敵の気配はない。だが、それが不気味だった。


「……妙だな」


 ヒルダが眉をひそめる。


「これだけ暴れりゃ、もっと大勢が来てもおかしくないのに」


「来るわよ。きっと、あの男がね」


 ジーナが足を止めると同時に、回廊の奥で轟音が響いた。崩れた天井が砕け落ち、土煙の中から、巨大な影が姿を現す。


 全身を覆う黒鉄の鎧、鈍色に輝く巨大な戦槌。

 かつて王国最強と謳われた盾、そして今は盗賊団の守護神。


「七芒星No.2、騎士狩りのオルテガ、推参だ」


 地を揺るがす声が広間に響き渡る。

 戦槌の先端を石床に叩きつけるたび、床石が砕け、空気が震えた。


「……来たか」


 ジーナは剣の柄に手をかけ、静かに息を整える。


「女二人でこの奥まで来るとはな。褒めてやろう。だがここが終点だ」


 オルテガが一歩踏み出した瞬間、空気が圧縮されたような重圧が襲いかかる。

 戦場を渡り歩いた歴戦の猛者。その存在だけで、空間そのものが圧し潰されそうだった。


「やれるもんならやってみなさいよ、騎士狩り」


「ほう……面白い」


 次の瞬間、地面が爆ぜた。オルテガが巨躯に似合わぬ速度で飛び出し、戦槌を横薙ぎに振り抜く。


 「――ッ!」


 衝撃波が石壁を粉砕し、風圧だけでヒルダが吹き飛ばされた。ジーナは紙一重でかわすも、地面に叩きつけられた槌が衝撃で床を陥没させる。


「ふはははは! 軽い、軽いぞ! そんな動きで俺を止められると思ったか!」


 オルテガは笑いながら、戦槌を再び持ち上げた。

 その動きに、かつての王国近衛騎士としての洗練が宿っている。


「ならば見せてやろう、爆炎崩砕(イラプト・クラッシュ)!」


 地響きが鳴り、床下から紅蓮の光が迸る。

 次の瞬間、戦槌が叩きつけられると同時に、地面そのものが爆発した。


「――くっ!」


 ジーナは咄嗟に防御魔法を展開するも、爆風で吹き飛ばされ、柱に叩きつけられる。

 視界が揺れ、耳鳴りがする。熱風が肌を焼いた。


「ジーナッ!」


 ヒルダが駆け寄ろうとするが、その前に戦槌が振り下ろされる。


「どけぇぇぇぇぇ!!」


 ヒルダは剣で受け止めた。しかし、衝撃のあまり両膝が石床にめり込む。

 まるで山そのものが押し潰してくるような重さだった。


「……重てぇっ、こいつ、化け物かよ……!」


「無駄だ」


 オルテガが押し込みながら嘲笑する。


「お前たちのような雑兵は、何百人殺してきたと思っている!」


 ギギギ……と剣が軋む音が響いたその時――


 「雑兵、ね」


 低く冷たい声が割って入った。

 爆煙の向こう、ジーナがゆらりと立ち上がる。衣服は裂け、血が滲んでいる。それでも、瞳は氷のように冴えていた。


「なら、雑兵に敗れた最強の盾の名は、今日で地に落ちるわね」


「ほざけ!!」


 怒号とともに、オルテガが再び爆炎崩砕を構える。

 床が鳴動し、赤熱の魔力が戦槌へと集中していく。


 「その技、二度は通じない」


 ジーナが剣を構えた。

 瞬間、空気が震え、視界が歪む。まるで彼女自身が空間と同化したような感覚。


 閃光が走った。


 オルテガが戦槌を振り下ろすよりも早く、ジーナの剣閃が鎧を貫き、胸を裂く。

 巨躯が一瞬止まり、鈍い音とともに膝をつく。


「ぐ……ふ、馬鹿な……この俺が……」


「時代は、終わったのよ」


 ジーナの囁きとともに、再び一閃。

 オルテガの巨体が崩れ落ち、地響きを立てて沈黙した。


 七芒星、No.2 騎士狩り オルテガ、討伐。


 静寂が戻る。

 ヒルダは膝に手をつき、荒い呼吸のまま、信じられないという顔でジーナを見つめていた。


「……一人で、ここまで……」


「まだ終わってないわ」


 ジーナは血に濡れた剣を払い、奥の扉を見据える。


 「残るは、リゼルグだけよ」


 奈落の空気が、さらに冷たくなる。憎しみと怒りが渦巻く古城の奥深く、七芒星の頂が待ち受けていた。


キャラクター紹介 No.8

【騎士狩りのオルテガ】

かつて王国近衛騎士団の中でも「最強の盾」と呼ばれた重装戦士。

だが、王マルセリウス=グランドリオンが盗賊団や他国と手を結び、国民から搾取を繰り返す腐敗政治を目の当たりにし、祖国そのものを見限って反旗を翻した。

裏切りの末に多くの同胞を葬ったことで「騎士狩り」の異名を得た彼は、今やブラッドムーンの切り札として数多の討伐隊を屠っている。

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