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奈落の果ての異譚集  作者: 黒瀬雷牙
主人公のジーナ
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一騎当千

 ギルド本部に、重苦しい空気が漂っていた。

 訓練場の隅々にまで貼り出された注意喚起の文書。その一枚一枚に記された名は、いずれも冒険者たちにとって忌まわしい存在だった。


『極悪盗賊集団・盗賊団ブラッドムーンによる襲撃が急増中。討伐班、壊滅。生還者ゼロの事例多数』


 報告の中でも、特に赤字で強調された項目があった。


 七名の幹部。通称・七芒星(セブンスター)


 リーダーである百中のリゼルグ。

 冷徹無比、戦場を愉しむ狂人であり、愛銃を手に数多の冒険者を葬ってきた最悪の首魁。


 No.2 騎士狩りのオルテガ。元王国近衛騎士にして、騎士団最強の盾と呼ばれた男。重装備と高い戦術眼で数十人単位の冒険者を屠る。


 No.3ゴリアテと、No.4アンナ。

 常にペアで行動し、前衛・後衛の隙のない連携で討伐隊を殲滅する凶悪コンビ。


 さらにNo.5影縫いのアルカトラ

 No.6サリヴァン、No.7セラヴィオ


 どれもが一騎当千の実力者であり、彼らを単独で相手取った冒険者は、誰一人として戻っていない。


「七芒星に狙われたら終わりだ……」


「隊を組んでも勝てるかどうか分からん。あれはもうただの盗賊じゃねえ」


 ギルド内の声は、恐怖と緊張で震えていた。


 そんな空気を裂くようにガラガラ、と音を立てて、重い扉が開く。


 誰もが息を呑んだ。そこに立っていたのは、血まみれのイグニスだった。


「……イグニス!? おい、どうした!」


 ヒルダが駆け寄る。しかし、返ってきたのはかすれた笑みだけだった。


「へっ……ちょっと、やられちまってな……」


 その体はボロ布のようだった。背中から腹へと貫かれた銃創。止まる気配のない出血。全身が震え、今にも崩れ落ちそうだ。


「ブラッドムーン……第四層で遭遇した……」


 イグニスは呻くように言葉を紡ぐ。


「サリヴァンとセラヴィオを……討伐した……だが…あいつが、いたんだ……リゼルグが……!」


 イグニスは今回、熟練者のパーティで盗賊団の調査を行っていた。七芒星2人を討ち取るもその代償は大きく、イグニス以外は全滅した。


「リゼルグ本人と!? 馬鹿な、まだ表には出てこないはずじゃ……!」


「油断……した……前方に気を取られてたら、背中から……撃たれた……」


 イグニスは自らの胸に触れた。そこには、黒く焼け焦げたような痕が残っている。


 ギルド内が凍りついた。


「カーズドバレット……!」


 ジーナが低く呟く。


 それは、リゼルグの愛銃・灰燼ノ眼(カタストロファ)に宿る最悪の呪い。被弾者の治癒能力を完全に破壊し、どんな回復魔法や霊薬も無力化する絶望の弾丸だった。呪いを解くには、使用者を倒すしかない。


「……あいつは追ってこなかった。わざとだ。逃げても、ここで死ぬって……分かってるから……」


 イグニスの口元に血が滲む。視界が霞む中、彼は最後の力を振り絞って言葉を残した。


「……伝えろ……あいつらは……ただの盗賊じゃ、ねぇ……」


「イグニス! しっかりしろ! おい、目を開けろ!!」


 ヒルダの叫びも虚しく、イグニスの身体から力が抜けていく。最後の息と共に、冒険者仲間の魂は奈落へと還った。


 ――沈黙。


 ギルドの空気が、音を立てて切り替わる。

 恐怖は怒りへ、怯えは憎悪へと姿を変えた。


「……リゼルグ」


 ジーナの声は、氷のように冷たかった。

 握り締めた拳から血が滲み、足元の石床が軋む。


「許さない……絶対に、許さない」


「待て、ジーナ! 今行くのは無謀だ!」


 ヒルダが腕を掴む。しかし、その瞳には止められぬ決意が宿っていた。


「イグニスは、もう帰ってこない。あの時と同じだ……! また、仲間を奪われた……!」


「だからこそ冷静になれ! あいつらは七芒星だ、突っ込んでも――」


「それでも行く!」


 怒りのままに、ジーナは大剣を背に叩きつけ、ギルドを飛び出す。

 向かう先は、第四層・古城エリア。盗賊団ブラッドムーンの根城だ。


「……まったく」


 ヒルダは苦笑を漏らし、剣を腰に差す。


「放っておけるわけがないじゃないか…」


 そして彼女もまた、ジーナの背を追って駆け出した。


 奈落の第四層。

 かつて王国の栄華を誇った城が崩れ落ち、盗賊どもが巣食う無法の地。


 その暗黒の中へ、ジーナとヒルダがたった2人で足を踏み入れようとしていた。


 復讐の炎は、今まさに燃え盛ろうとしていた。


【奈落 第四層 古城エリア】


 そこには、まるで時間が止まったかのような静寂が広がっていた。崩れかけた石壁、苔むした回廊。空気さえ淀み、生命の気配は一切ない。


 だが、それは罠だった。


 影縫いのアルカトラが、音も気配も殺し、ジーナとヒルダの背後へと忍び寄る。

 呼吸を止め、刃を抜き放ち、二人の頸椎を断ち切らんと腕を振り上げた――その瞬間。


 「――遅い」


 ジーナは一度も振り返らず、ただ右手の剣を逆手に掲げた。

 乾いた音とともに刃はまっすぐ上方へ突き上がり、アルカトラの頭蓋を貫通する。影の暗殺者は、目を見開いたまま音もなく崩れ落ちた。


 「な、なに今の……気づいてたの?」


 ヒルダは背後の死体を見て、ぞっとした声を漏らす。彼女自身、気配すら感じ取れなかったのだ。


 それを合図にしたかのように、周囲の瓦礫や崩れた階段の影から、盗賊団が一斉に飛び出す。

 十数名の盗賊が雄叫びを上げ、二人に殺到。


 「邪魔だな」


 ジーナが呟いた瞬間、周囲は一瞬で灼熱地獄と化した。


 「エクスプロード・サークル!」


 轟音とともに紅蓮の炎が爆ぜ、盗賊たちは悲鳴すらあげる間もなく焼き尽くされる。焦げた鉄の匂いが漂い、瓦礫の上に灰だけが舞い散った。


 「おっと、こいつは思ってた以上にヤバい奴だな」


 低く唸る声とともに、二つの影が現れる。


 巨躯の戦士・ゴリアテ。その横には女魔術師・アンナ。


 「行くわよ、ゴリアテ!」


 「おうよ!」


 アンナが詠唱し、空間が歪む。ジーナの身体が突然鈍く重くなった。


 「ディレイ!」


 「砕け散れッ!」


 ゴリアテが地を割る勢いで拳を振り下ろす。だが…


 「……ふん。子供騙しね」


 ジーナの瞳がわずかに光り、術式の鎖が音を立てて弾け飛ぶ。彼女はディレイを瞬時に解除すると、迫る拳を易々とかわし、逆に一閃。


 「ぐ……あああああああっ!!」


 巨体が膝をつき、胴から血を噴き出して崩れ落ちる。


 「次は、あなたよ」


 ジーナの指先がアンナを向く。


 「ライトニング・ランス!」


 稲妻が空間を裂き、逃げる暇もなくアンナを直撃。

 絶叫とともに彼女の身体は弓なりに反り返り、そのまま灰と化して崩れ落ちた。


 ――戦闘、開始からわずか二十秒。


 「……あ、あんた、何者?」


 ヒルダは思わず一歩、ジーナから距離を取る。

 長らくパーティを組んできた仲間が、今は別格の存在に見えた。


 「何って、私はジーナ。長い付き合いじゃないの」


 ジーナは涼しい顔で、燃え残った灰を払い落とすように手を振った。


 「行きましょ。時間がもったいないわ」


 彼女の歩みは一切乱れず、ただ深淵の奥へと進んでいく。ヒルダは無意識のうちに喉を鳴らし、その背中を追うしかなかった。

キャラクター紹介 No.7

【百中のリゼルグ】

奈落の盗賊団ブラッドムーンの頂点に君臨する、七芒星のNo.1。

冷静かつ残忍な戦術家であり、その狙撃術は一撃必殺の精度を誇り、遠距離から敵を確実に仕留めることで知られている。

愛銃・灰燼ノ眼(カタストロファ)から放たれる呪いの弾丸は、被弾者の治癒能力を完全に破壊し、どんな回復魔法や霊薬も無力化する絶望の弾丸。呪いを解くには、リゼルグを倒すしかない。

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