嫉妬の獣姫
【奈落 第七層 樹海エリア 獣人の集落・夜】
篝火が焚かれ、獣人たちが円になって食事をしていた。肉を炙る香ばしい匂いと、樹海特有の湿った空気が混じり合う。
ジーナたち六人の冒険者は、集落の中心に設けられた円卓に座し、互いの存在を意識しながらも静かに食事を取っていた。
「しかし……」
沈黙を破ったのはイグニスだった。串に刺さった肉をかじりながら、にやりと笑う。
「ランキング上位の連中が、こんなとこで鉢合わせとはな。偶然にしちゃできすぎだぜ?」
グレンが落ち着いた声で答える。
「偶然ではない。この樹海の奥に“異変”がある。だからこそ、我らも調査に来た」
その言葉に、ジーナは眉をひそめた。
「異変……?」
ソラールが槍の石突を地面に軽く突きながら口を開く。
「獣人たちの話では、ここ数日、森の奥で“樹が呻く声”が聞こえるらしい。さらに森に住むはずの魔獣たちが、姿を消している」
「魔獣が……消えた?」
ヒルダの瞳が細く鋭くなる。
バッシュが双剣を弄びながら、不敵に笑った。
「代わりに現れたのが“人喰いの影”ってやつだ。夜ごと獣人をさらい、肉も骨も残さず喰らう……まぁ、ただの怪談かもしれねぇがな」
獣人たちの顔に怯えの色が浮かぶ。彼らにとって、それはただの噂ではなく現実の脅威なのだ。
ジーナは静かに立ち上がり、夜風を受けながら闇に沈む森を見やった。
「……なら、確かめるしかないわね」
その声に、グレンもまた立ち上がる。
「同感だ。無限樹海を進むなら、この異変を無視するわけにはいかぬ」
互いに目を合わせ、短い沈黙。
やがてジーナとグレン、二人のリーダーが同時に頷いた。
「今夜は合同で動く」
その決定に、ヒルダとイグニス、バッシュとソラールも即座に応じる。
六人の視線が交わった瞬間、獣人たちの間に張り詰めていた不安がわずかに和らいだ。
【奈落 第七層 樹海エリア 深夜】
闇が濃くなる森の中。
六人の冒険者は音もなく進む。葉擦れの音すら、異様な静けさに飲み込まれていく。
――ゴゥゥゥ……
突如、森の奥から低く響く唸り声が聞こえた。地鳴りのようであり、呻きのようでもある。
次の瞬間、木々の間から黒い靄が立ち昇り、地を這うように広がってきた。
「これが……人喰いの影……?」
ヒルダが剣に手をかけ、瞳を鋭く光らせる。
黒い靄の中から、無数の手が伸びる。骨ばった腕、獣の爪、そして人間の指。形が定まらないまま、冒険者たちに襲いかかる。
「くそっ、気味悪ぃな!」
イグニスが矢を放ち、黒い腕を貫く。しかし、矢は空気に溶けるように霧散した。
バッシュが双剣を振るい、ソラールが槍を突き出すも、どれも影に吸い込まれていく。
「物理攻撃は効かない……!」
ジーナが咄嗟に杖を構え、魔力を練り上げた。
「光裂の矢…レイ・アロー!」
眩い閃光が放たれ、影の手を次々と焼き払う。黒い靄が悲鳴のように揺らぎ、森に反響した。
その瞬間、グレンが吼える。
「光属性なら効く! ジーナ、貴様が突破口だ!」
ジーナは力強く頷き、再び魔力を解き放つ。
魔法使いは、属性を一つしか操れない者が多い。二つ扱える者は天才と言われる。しかし、ユグフォルティスの血による天雷の力は、光と雷の属性を与え、更には産まれながらに炎属性にも恵まれたジーナは、三つもの属性魔法を操る。
「なら、私が道を切り拓く!」
光の矢が夜闇を裂き、黒き影を穿つ。
その光の中で、六人の冒険者が一斉に駆け出した。
無限樹海の闇を切り裂く、連携の第一歩――。
彼らの戦いは、まだ始まったばかりだった。
影を切り裂きながら進む冒険者たちの前に、笑い声が響いた。
低く、獣の唸りを帯びた女の声。
「ふん……ここまで辿り着くとはな。俺を退屈させるなよ」
闇の中から現れたのは、一人の女。
しなやかな肢体に黒い布を纏い、黄金の双眸が森を射抜く。
その眼は嫉妬の炎を宿しながらも、獲物を狙う獣の冷たさを宿していた。
「名乗ってやろう。俺の名はジェラシア――奈落六大将、嫉妬の獣姫だ」
その一言と同時に、瘴気が爆ぜ、樹々が悲鳴をあげる。
女は一瞬で姿を掻き消し、次に現れたのはヒルダの背後。
鋭い爪が閃き、鋼の鎧を裂いた。
「速い……!」
ヒルダが血を滲ませながら後退する。
イグニスの矢が飛ぶが、ジェラシアは体をひねり、紙一重で回避。返す手は爪の一閃。空気を切り裂く音だけが森に残る。
「その程度か? 俺の“獣王鋼裂斬”にかかれば、鋼も骨も同じ紙切れだ」
黄金の眼がぎらりと光り、次々と連撃が繰り出される。
獰猛でありながら、しなやかな動き。
一撃一撃が命を奪う速度と威力を秘めていた。
「速すぎる……!」
ソラールが歯を食いしばる。
バッシュが双剣で必死に受け流すが、爪の余波だけで腕に痺れが走った。
だが、冒険者たちも徐々に連携を整え、動きを読み始めていく。
ジーナの光魔法が影を裂き、グレンの大剣が進路を塞ぎ、仲間の一撃一撃がジェラシアを追い詰めていく。
黄金の眼が細まり、女の口元に獰猛な笑みが浮かんだ。
「……面白ぇ。だが――遊びはここまでだ」
瘴気が渦巻き、女の身体が筋肉の塊へと変貌していく。
華奢な姿は砕け、現れたのは筋骨隆々の獣王。
裂ける筋肉、獣じみた牙、そして黄金に輝く双眸。
「グォォォォォオオオオオッ!!!」
嫉妬の獣姫・ジェラシア。
その真の姿は、爪一撃で大地を裂き、鋼をも断つ獣王だった。
「さあ、俺を楽しませろ。命を懸けてな!」
獣王の咆哮と共に、瘴気に沈む森が揺れ動いた。
キャラクター紹介 No.5
【グレン=スカイウォード】
豪胆にして豪放、仲間を鼓舞する戦場の闘志。
大剣を豪快に振るうその姿は、敵にとって脅威であり、仲間にとっては心強い背中となる。
感情に正直で時に無鉄砲だが、その熱き心は仲間を奮い立たせ、道を切り開く原動力となる。
強さの本質は、仲間と共に戦うことへの揺るぎなき信念にあり、己が盾となってでも守り抜く覚悟を宿す。




