幻影を超えて
【奈落 第四層 古城エリア】
奈落第四層で、ついに大決戦が勃発した。
アルガード、ヒルダ、グレン、イグニスをはじめとする最強クラスの冒険者たちが、ブラッドムーンを圧倒する。その力は圧巻で、城内の廊下は戦慄に包まれた。
その時、クロスを狙う高速の弾丸が一直線に飛来する。クロスはそれを一瞬で斬り落とした。
現れたのは、ブラッドムーンの首領・リゼルグ。
「聞きしに勝る強さだな……オルテガの仇、ここで討つ!」
叫びと同時に襲いかかるリゼルグ。だが、クロスは弾丸と同じ速度で踏み込み、一閃。その首を、容赦なく刎ね飛ばした。
一瞬、冒険者たちの勝利かと思われた。しかし、突如として全員が幻覚に包まれ、仲間同士で攻撃を始める。混乱が城を支配したその時、ムラサメだけが落ち着いていた。精神力を極限まで鍛えた彼は、幻覚の影響を受けずに前へ進む。
城の奥で、盗賊団を陰で操っていた奈落六大将、悲哀の人魚姫・悲しみのペシミスティが姿を現す。ムラサメは普段愛用する刀・朧影を手にするも、さらなる力を引き出すため、使い手の命と引き換えに圧倒的な力を発揮する妖刀・新月に持ち替えた。
蒼白い肌と深海のような瞳を持つ彼女は、静かにムラサメを見据えた。
「……あなたですか。悲しいわ…あの決戦から、生きて戻れたのに、わざわざ死にに戻るなんて…」
「ペシミスティ。あの時、お前ら六大将のせいで……どれだけの仲間が死んだと思っている」
ムラサメの声は低く、怒りと憎しみを押し殺したようなものだった。ペシミスティは唇の端をわずかに吊り上げ、冷ややかに笑う。
「戦場に立つ者が死ぬのは、運命ですよ」
「なら、次に死ぬのはお前だ」
ムラサメは妖刀・新月の切っ先をゆっくりと構える。その殺気に対し、ペシミスティは一歩も退かず、ただ静かに微笑んだ。
「あなたの怒りも、憎しみも、すべて私の糧。さあ、もう一度、終焉の舞を始めましょうか。かつてと同じように」
「二度と同じ悲劇は繰り返さねぇ。今度こそ、お前を終わらせる!」
静寂を破るように、二人の間の空気が張り詰める。
かつての宿敵同士。再び、運命の刃が交わろうとしていた。
その瞬間、当たり前のように幻術を解いたクロスが、ムラサメの肩に手を置き、静かに告げる。
「その刀を使わなくても、勝てますよ」
「…どこの身の程知らずか知らないけど、この私を見下しているのかしら?」
クロスは何事もなかったかのように、悲しみのペシミスティの前に立ち、戦いの幕は再び開かれた。
ペシミスティが、静かに右手を掲げた。淡い蒼光が辺りを満たし、空気そのものがゆがみ始める。
「記憶投影――あなたたちの心、その最も脆い場所を抉ってあげる」
次の瞬間、クロスとムラサメの目の前に、あり得ない人物が姿を現した。
漆黒のコート、背に大剣を背負い、どこか不器用な笑みを浮かべた男…ジーク=ユグフォルティス。
クロスの父であり、ムラサメの親友であった男だ。
「よぉ、久しぶりだな……クロス、ムラサメ」
その声を聞いた瞬間、かつての日々が脳裏に蘇る。
だが、二人の眼差しは一切揺るがなかった。
「……くだらねぇ」
「ジークは、こんなところに出てくるような奴じゃねぇよ」
迷いも未練もなかった。鍛え抜かれた心は、幻想の呪縛を拒絶する。
次の瞬間、クロスが一閃。虚構のジークを斬り上げ、その奥に潜んでいたペシミスティの身を切り裂いた。
「がっ……!」
蒼白の肌が裂け、血飛沫が舞う。
その瞬間、ムラサメが空へと飛び上がった。怒気と殺気が混ざり合った声が、古城全体に響き渡る。
「俺の親友を、勝手に使ってんじゃねぇッ!!」
振り抜かれたのは、愛刀・朧影の最終奥義。魂すら断つとされる必殺の一撃。黒き刃閃が空を裂き、ペシミスティの身体を貫いた。
「……まさか……この私が……ここで……」
悲しみの人魚姫は断末魔の囁きを残し、深海の泡のように霧散した。彼女の消滅と同時に幻術は解け、混乱していた冒険者たちは次々と意識を取り戻す。
「……ここは……?」
「俺たち……戦ってたのか……?」
怪我人は多数出たものの、奇跡的に死者は一人もいなかった。
こうして、奈落第四層の戦いは終結した。
ブラッドムーンは壊滅し、奈落六大将の一角・ペシミスティは完全に消滅したのだ。
数日後、冒険者ギルドに戻ったアルガードが戦いの顛末を報告すると、ひとつの知らせが掲げられる。
◇ 冒険者ランキング・最新版 ◇
1位《異国の剣聖》ムラサメ
2位《復讐の剣》クロス=ユグフォルティス
3位《雷槍の騎士》アルガード=ドラコニス
4位《白銀の戦乙女》ヒルダ=グランリオナ
5位《大剣王》グレン=スカイウォード
ムラサメが十八年前に帰国した後、不動の一位であったアルガードは、ついにその座を譲ることとなった。奈落の深淵は、今まさに新たな英雄たちの時代へと移り変わろうとしていた。
キャラクター紹介 No.26
【ジーク=ユグフォルティス】
かつてその名を轟かせた伝説の冒険者にして、クロスの父。若き日のムラサメとは固い絆で結ばれた無二の親友であり、数々の死地を共に駆け抜けた。
その剣は雷光の如く速く、そして清らかで、敵味方を問わず畏怖と敬意を抱かせたという。単独でS級魔獣を討ち果たした記録も残し、さらには戦闘の采配にも優れ、彼が前線に立てば、戦局が一変するとまで言われた。




