第三層踏破
【奈落 第三層 迷宮エリア】
生きる迷宮と呼ばれるこのエリアは、その名の通り内部構造は挑戦のたびに姿を変え、熟練の冒険者でさえ迷い、命を落とす場所だ。
だが、その迷宮の奥へ向かって進む三つの影は、一切の迷いを見せなかった。
「……こっちだ」
クロスが前を歩くたび、複雑怪奇な通路はまるで彼の意思を読み取ったかのように最短で繋がっていく。
「お、おかしい……! この層は地図も役に立たないはずなのに」
エリスが目を丸くする中、フローレンスも口を開けたまま、ただクロスの背を追い続ける。
そして、最奥へと辿り着いた三人の前に、漆黒の瘴気を纏う存在が現れた。
それは第三層の主、【メイズシャドー】。
“絶対に遭遇してはならない”と恐れられる存在であり、対峙した者の記憶から「過去に戦った中で最強の敵」の姿を再現するという。
「……まずいわね。あれが“生きる迷宮”の守護者。過去、討伐例はゼロよ」
エリスが冷や汗を流しながら解説する。
そして、瘴気が形を変え始める。現れたのは、巨大な戦斧を携えた筋骨隆々の男。
かつて伝説の英雄と呼ばれた【アレクシオ=リオンドール】その人だった。そのアレクシオでさえ、メイズシャドー討伐を諦め、第三層を駆け抜けたという。
「まさか……よりによって、アレクシオ様!?」
「勝てるわけがない……あの人は、国家級の怪物よ……!」
その絶望の中、クロスは静かに前へと踏み出した。
「…どけ。時間の無駄にするつもりはない」
次の瞬間、閃光が走った。金属と金属がぶつかる轟音、衝撃波、そして空気を裂く一閃。
……沈黙。
斧を振り上げる暇さえなく、伝説の英雄は、影ごと断ち斬られていた。
「う、うそ……」
「……本当に、倒しちゃったの……?」
目の前の光景に、エリスもフローレンスも言葉を失った。“絶対に倒せない”とされた迷宮の主・メイズシャドーが、今、クロスの刃によって歴史から消えたのだ。
こうして三人は、奈落第三層の踏破に加え、メイズシャドー討伐という前人未到の偉業を成し遂げる。
その報は瞬く間に大陸中へと広がり、クロスの名は、冒険者ランキング第5位として刻まれることになるのだった。
【サンライズシティ 冒険者ギルド】
メイズシャドー討伐という歴史的快挙を果たしてから数日後。
ギルドはいつになく緊張感に包まれていた。広いホールには歴戦の冒険者たちが顔を揃え、装備の最終確認や地図の共有など、慌ただしい準備が進められている。
「……何かあったのか?」
クロスが眉をひそめると、受付前で指示を出していたロズベルがこちらへ歩み寄った。
「お帰りなさい。ちょうど今、盗賊団・ブラッドムーンの掃討作戦についての会議が始まるところです」
ブラッドムーン。近ごろ急速に勢力を拡大し、奈落に挑む冒険者達を次々と襲撃している盗賊団。その暴虐は、冒険者たちの間でも最大級の脅威とされていた。
ギルドはついに、彼らを根絶するための大規模作戦に踏み切ろうとしていたのだ。
集まった者たちの中でも、とりわけ人々の視線を集めている人物が二人いた。
一人は、東の島国から戻った伝説の剣士、ムラサメ。
そしてもう一人は、フローレンスの先輩にして、現王国最強の騎士と称される男、アルガードだった。
「やあ、君がクロス君か。話は聞いているよ。第三層の主を討伐したとか」
堂々たる佇まいで近づいてきたアルガードは、柔らかな笑みを浮かべながら声をかける。その姿には、王国の象徴たる騎士としての威厳と風格があった。
「アルガード様……お噂はかねがね伺っております」
クロスもフローレンスも、自然と背筋を伸ばし、礼を尽くして応じた。
「ふふ、そんなに畏まらなくていい。私も現場に出る身の一人だ。共に戦えるなら心強いよ」
アルガードは穏やかに笑い、二人の肩に手を置いた。
「……はい。ぜひ、自分もこの作戦に参加させてください」
「私も同行いたします。全力で任務を果たします」
クロスとフローレンスは深く頭を下げ、参加の意思を示す。
一方、エリスだけは静かに視線を伏せ、口を開いた。
「……ごめんなさい。私は今回は参加しません。今の私では、皆さんの足を引っ張るだけですから」
その声には迷いはなく、冷静な自己判断がにじんでいた。
それぞれが己の役割と決意を胸に刻む。
こうして、盗賊団・ブラッドムーン討伐作戦…冒険者たちの新たな戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。
キャラクター紹介 No.25
【伝説の英雄 アレクシオ=リオンドール】
かつて奈落六大将と呼ばれる最強の六体の敵を、たった一人で相手にし、壊滅寸前まで追い込んだ伝説の冒険者。圧倒的な技量と戦術眼を兼ね備え、歴史上最強と称される。
その戦技や戦歴は、アレクシオの愛弟子でありジャンの祖父でもあるエルドが受け継ぎ、現在もアルバトロス家に教本や口伝として残されている。




