奈落二度目の挑戦
数日後。クロスは再び奈落への挑戦を考えていた。
(よし、今日はもう少し奥まで行ってみるか…)
単独で向かおうと準備をしていたところ、ギルドマスター代理のロズベルが現れた。
「クロス君、先日の件、よくやってくれたね。そこでお願いがあるんだが…」
ロズベルは手元の紙を差し出す。そこには、一人の少女の名前が書かれていた。
「この子、初心者で奈落に入るのはまだ早い。だからクロス君、彼女を連れて行ってくれないか?」
紙には「マリー=トワイライト」と書かれている。
「え…俺ですか?」
「クロス君なら大丈夫。あの時のように、危険な場面でも必ず助けてくれるはずだから」
クロスは少し考え、うなずいた。
「わかった…俺が面倒を見る」
その日、奈落の入り口で、クロスはマリーと初めて顔を合わせる。
「はじめましてやで、マリーや。あんたが噂のクロスさんか?」
彼女は元気よく挨拶した。肩には小さな治癒用の魔法書がぶら下がっている。
「うん、クロスだ。今日は一緒に探索するんだな」
「せや、ほなよろしく頼むで!」
奈落に一歩足を踏み入れると、前回よりも奥へ進むにつれ、空気がひんやりと重くなる。
「気をつけてや…この辺、モンスターもそうやけど、罠が多いんや」
マリーは小声で忠告しつつ、クロスの後ろをついてくる。
しばらく歩くと、ゴブリンが襲いかかってきた。クロスは無意識に剣を振り、ゴブリンは一瞬で倒れ、消滅する。マリーは驚きの声を上げた。
「え…?うそやろ、もう倒したん?」
「うん…大したことなかったけど…」
クロスは笑顔で答えるが、全く自覚はなかった。
さらに進むと、罠にかかって動けなくなった冒険者がいた。クロスは一瞬で罠を解除し、怪我人を抱き上げた。マリーは即座に回復魔法を唱える。
「よし、これで大丈夫や。クロスさん、あんたって強いんやな!」
「いや…偶然だと思うけど」
クロスは照れくさそうに答えた。
マリーは慎重に周囲を警戒し、回復と補助に徹する。クロスは前回同様、全く苦戦せずにモンスターや盗賊の攻撃を避け、瞬時に排除する。
探索の途中、クロスはふと考える。
(奈落って、案外ちょろい…?いや、第一層だからか?)
マリーにとっても、このペアリングは学びの場となった。クロスの超人的な行動を目の当たりにしつつも、自分の回復魔法が仲間を守る力になることを実感する。
奈落の第一層の奥まで進み、無事に探索を終えた二人は、帰路につく。
「今日は助けてもろてありがとうやで、クロスさん」
マリーは微笑む。
「いや…こちらこそ。君がいてくれたから安心だった」
二人の間に、初めて芽生えた信頼のようなものが、静かに生まれた。その背後では、クロスの権能が静かに目覚めつつある。しかし本人はまだ、それに気づくことはなかった。
奈落の深淵は、今日もまた、少年の冒険を静かに見守っている。
奈落の第一層を抜け、街の明かりが見えてきた。二人の足取りは、さほど疲れている様子もない。
「クロスくん、あんたはなんで奈落に挑むんや?」
マリーがふと尋ねる。好奇心を隠さずに聞いてきた。
「俺の両親が奈落に行ったまま帰ってこないんだ。伝説の冒険者だったから…遺体でも、せめて何か残っていればって思って」
クロスは少し俯きながらも、言葉を続ける。
「なるほどなぁ…そりゃ、えらい決意やな」
マリーは小さく息をつき、肩の魔法書を握る。
「で、あんたは?」
クロスは問い返す。
「うちの村で、謎の病が流行ってるんや。家族も友達も…せやから、奈落にあるっていう万能の秘薬、『百薬の水』を探しに来たんやで」
マリーの瞳は真剣だった。
「そっか…大事な人のために来たんだな」
クロスは小さく頷く。
「うん、せやから、お互い頑張ろうな。次に来るときも、一緒に攻略しよ」
クロスも笑顔で答えた。
「もちろんだ。俺も負けてられないし、君の力も頼りにしてる」
二人は軽く拳を合わせ、再び奈落に挑む約束を交わした。
まだ気づいていない権能・無敵のチートは、彼の中で静かに眠っている。
しかし、それは次の冒険で、少しずつ姿を現すことになるのだった。
街の夜風に混ざる、遠くの冒険者たちの声が、今日もまた二人の背中を押していた。
キャラクター紹介 No.20
【ギルドマスター代理 ロズベル】
サンライズシティ冒険者ギルドのギルドマスター不在時にその代理を務める中年の女性。冷静沈着で物腰柔らかく、ギルド内外の人望は厚い。経験豊富な冒険者としての知識を持ち、危険な奈落探索においても初心者や未熟者の安全を第一に考える。
原作での出番は非常に少なく、本作でも冒険者達に指示を出す役割に徹しているが、その判断力と洞察力は確かであり、奈落探索の手引き役として重要な存在。
「もしこの人物を知っていたなら、あなたは『奈落の果てのマニア』認定」




