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奈落の果ての異譚集  作者: 黒瀬雷牙
権能:チート 無敵のクロス
20/31

伝説の始まり

《10月10日 サンライズシティ》

 この日20歳になった青年、クロスは亡き両親の残した家で父ジークの妹、叔母のジーナと暮らしていた。


「クロス、そろそろ働こうとは思わないのかい?」


「やだよ。俺は何かに縛られて生きてくのは嫌なんだ」


 クロスは高校卒業後、就職をしていなかった。


「クロス、もう今日で20歳なんだから、自分の食い扶持くらいは自分で稼ぎなさい!」


「うるさいなー」


「うるさいですって!?コラー!!」


「うわわ、ごめんなさーい!!」


 クロスは家を飛び出した。


(俺にだって、やりたいことはあるんだ)


 目標はひとつ、両親が挑み続けた奈落の最深部を自分の手で確かめること。

 父と母が残した遺体も、可能であれば持ち帰りたい。


 クロスはジーナに内緒で冒険者ギルドに登録を済ませ、すぐに奈落へ向かう準備を整えた。食料や水を鞄に詰め込み、武器も用意する。倉庫の奥に眠っていた、錆びた鉄の剣を手に取った。


 奈落を目指す者はクロスだけではない。夢や希望を胸に、多くの冒険者たちが集まっていた。


 クロスは家を出て奈落へ向かう。天気は快晴。旅立ちに相応しい日だった。

 しかし、普段運動をしていないクロスにとって、奈落までの約2キロの道のりは少し堪える。


「しんどい…一休みしてから入ろう…」


 水を飲みながら奈落の淵に立つ。底は見えず、漆黒の闇が奥深く続いている。


(俺、落ちても大丈夫かな…?)


 しばらくすると別の3人組の冒険者がやって来た。


「あなたはお一人ですか?」


 クロスが「はい」と答えると、斧を背負う男と弓を持つ知的な男が睨むように見る。


「1人で来るとか、お前奈落を舐めすぎだろ」


「観光の方じゃないかな?」


「観光です、少ししたら帰ります」


 クロスは適当に言い、歩き出した。冒険者たちは奈落の奥に進むと、あっという間に姿を消した。


「奈落へはあそこから入るのか?」


 クロスは先ほどの道を覗き込み、滑り落ちる。


【奈落 第一層 遺跡エリア】


 着地した瞬間、クロスは床にぶつかるが、ほんの軽く身体を揺らす程度で立ち上がった。腕も脚も無傷だ。


 遠くで争う音が聞こえる。クロスは音のする方へ向かう。


 先ほどの3人組と別の冒険者が戦っていた。女性は血を流し倒れ、男2人も重傷を負っている。対する敵は大コウモリのモンスターと盗賊。


「な…何で人間同士で殺し合ってんだよ!?」


 クロスは後ろを振り向くと、大コウモリが迫っていた。


「うわっ!」


 反射的に錆びた鉄の剣を振るうクロス。大コウモリの動きは完全に見切られ、一撃で倒される。コウモリは悲鳴をあげて消滅した。


「…え?倒したのか…?」


 クロスは自分の剣の威力に驚く。まるで自然の流れのように振る舞っただけだった。


 盗賊団が重傷の冒険者を狙う。クロスは瞬時に動き、すべての攻撃を避け、敵を瞬殺。

 怪我人2人をジャンと共に街に運び込むと、元気を取り戻していた。


「…お前は入り口にいた奴か」


 ジャンが礼を言う。クロスは自然に「助かってよかった」と笑うだけ。自分が無敵であることには気づいていない。


 こうしてクロスの初の奈落探索は終わった。戦利品もほとんどなく、傷すら負わなかったが、奈落をほんの少しだけ知った。


 クロスは心の奥でこう思う。


(奈落…面白いかもな)


 無自覚のチートが発動していることなど、彼にはまだ分からない。

 奈落はこれから、クロスにとって「楽園」になるか、「死の地獄」になるか。それはまだ誰も知らない。


 数日後、ジャンを含む3人の冒険者は無事に退院した。


「クロス…本当に助かったよ。あんたのおかげで生き延びられた」


 ジャンは目を潤ませながら言う。


「ありがとう、クロス君」


 女性冒険者も笑顔を見せる。男の方も小さく頷いた。クロスは照れくさそうに頭をかく。


「いや、俺、別に何も…ただ戦っただけだし」


「いやいや、1人であんなに敵を片付けるとか、強すぎだろ!」


 ジャンは目を丸くしてクロスを見つめる。


「え、そうかな…?」


 クロスは首を傾げる。腕や体には一切傷はなく、戦いの疲労もほとんど感じていない。


「怪我もしてないし…一体あなたは…」


 女性冒険者が呆然とした表情で言う。


「いや、俺は普通だと思うけど…」


 クロスは本気で自分の強さに気づいていない。

 それが、彼にとっては日常のような自然なことだった。


「まさか…俺たち、命を救われただけじゃなく、戦闘も全部お前に任せっぱなしだったのか…」


 男冒険者が感慨深げに言う。


 クロスは軽く肩をすくめ、にっこりと笑う。


「いやー、敵が勝手に死んでいっただけだし」


 ジャンたちは唖然としたまま、ただクロスを見つめる。無自覚のチートがもたらす奇跡に、まだ誰も本当の意味では気づいていない。


 こうして、クロスは再び奈落への探検を心に決める。

 無敵の力を自覚せず、ただ自分の意志だけで歩む青年。その姿は、これからの数々の試練と奇跡の序章に過ぎなかった。

キャラクター紹介 No.19

【権能:チート 無敵のクロス】

 20歳の青年で、奈落を目指す冒険者。父母も伝説的冒険者であり、その意志を継ぎ、単身奈落に挑む。外見や性格はごく普通の青年だが、無自覚のまま与えられた超絶的な権能【チート】を持つ。

 その権能は戦闘、探索、回避、体力、判断力などあらゆる能力を圧倒的に向上させ、敵を一瞬で打ち倒し、危険な状況からも無傷で生還する力を秘める。本人は自分の強さに気づいておらず、すべて「偶然」と「直感」でこなしているため、周囲からは神にも等しい存在と見なされる。

 戦略や戦術に頼らず、圧倒的な力で困難を切り拓く様は、まさに「奈落の奇跡」と呼ばれる。

 無自覚チートという特殊性ゆえ、仲間を救い、敵を蹴散らしつつも、本人はあくまで平常心を保ち続ける。

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