伝説の始まり
《10月10日 サンライズシティ》
この日20歳になった青年、クロスは亡き両親の残した家で父ジークの妹、叔母のジーナと暮らしていた。
「クロス、そろそろ働こうとは思わないのかい?」
「やだよ。俺は何かに縛られて生きてくのは嫌なんだ」
クロスは高校卒業後、就職をしていなかった。
「クロス、もう今日で20歳なんだから、自分の食い扶持くらいは自分で稼ぎなさい!」
「うるさいなー」
「うるさいですって!?コラー!!」
「うわわ、ごめんなさーい!!」
クロスは家を飛び出した。
(俺にだって、やりたいことはあるんだ)
目標はひとつ、両親が挑み続けた奈落の最深部を自分の手で確かめること。
父と母が残した遺体も、可能であれば持ち帰りたい。
クロスはジーナに内緒で冒険者ギルドに登録を済ませ、すぐに奈落へ向かう準備を整えた。食料や水を鞄に詰め込み、武器も用意する。倉庫の奥に眠っていた、錆びた鉄の剣を手に取った。
奈落を目指す者はクロスだけではない。夢や希望を胸に、多くの冒険者たちが集まっていた。
クロスは家を出て奈落へ向かう。天気は快晴。旅立ちに相応しい日だった。
しかし、普段運動をしていないクロスにとって、奈落までの約2キロの道のりは少し堪える。
「しんどい…一休みしてから入ろう…」
水を飲みながら奈落の淵に立つ。底は見えず、漆黒の闇が奥深く続いている。
(俺、落ちても大丈夫かな…?)
しばらくすると別の3人組の冒険者がやって来た。
「あなたはお一人ですか?」
クロスが「はい」と答えると、斧を背負う男と弓を持つ知的な男が睨むように見る。
「1人で来るとか、お前奈落を舐めすぎだろ」
「観光の方じゃないかな?」
「観光です、少ししたら帰ります」
クロスは適当に言い、歩き出した。冒険者たちは奈落の奥に進むと、あっという間に姿を消した。
「奈落へはあそこから入るのか?」
クロスは先ほどの道を覗き込み、滑り落ちる。
【奈落 第一層 遺跡エリア】
着地した瞬間、クロスは床にぶつかるが、ほんの軽く身体を揺らす程度で立ち上がった。腕も脚も無傷だ。
遠くで争う音が聞こえる。クロスは音のする方へ向かう。
先ほどの3人組と別の冒険者が戦っていた。女性は血を流し倒れ、男2人も重傷を負っている。対する敵は大コウモリのモンスターと盗賊。
「な…何で人間同士で殺し合ってんだよ!?」
クロスは後ろを振り向くと、大コウモリが迫っていた。
「うわっ!」
反射的に錆びた鉄の剣を振るうクロス。大コウモリの動きは完全に見切られ、一撃で倒される。コウモリは悲鳴をあげて消滅した。
「…え?倒したのか…?」
クロスは自分の剣の威力に驚く。まるで自然の流れのように振る舞っただけだった。
盗賊団が重傷の冒険者を狙う。クロスは瞬時に動き、すべての攻撃を避け、敵を瞬殺。
怪我人2人をジャンと共に街に運び込むと、元気を取り戻していた。
「…お前は入り口にいた奴か」
ジャンが礼を言う。クロスは自然に「助かってよかった」と笑うだけ。自分が無敵であることには気づいていない。
こうしてクロスの初の奈落探索は終わった。戦利品もほとんどなく、傷すら負わなかったが、奈落をほんの少しだけ知った。
クロスは心の奥でこう思う。
(奈落…面白いかもな)
無自覚のチートが発動していることなど、彼にはまだ分からない。
奈落はこれから、クロスにとって「楽園」になるか、「死の地獄」になるか。それはまだ誰も知らない。
数日後、ジャンを含む3人の冒険者は無事に退院した。
「クロス…本当に助かったよ。あんたのおかげで生き延びられた」
ジャンは目を潤ませながら言う。
「ありがとう、クロス君」
女性冒険者も笑顔を見せる。男の方も小さく頷いた。クロスは照れくさそうに頭をかく。
「いや、俺、別に何も…ただ戦っただけだし」
「いやいや、1人であんなに敵を片付けるとか、強すぎだろ!」
ジャンは目を丸くしてクロスを見つめる。
「え、そうかな…?」
クロスは首を傾げる。腕や体には一切傷はなく、戦いの疲労もほとんど感じていない。
「怪我もしてないし…一体あなたは…」
女性冒険者が呆然とした表情で言う。
「いや、俺は普通だと思うけど…」
クロスは本気で自分の強さに気づいていない。
それが、彼にとっては日常のような自然なことだった。
「まさか…俺たち、命を救われただけじゃなく、戦闘も全部お前に任せっぱなしだったのか…」
男冒険者が感慨深げに言う。
クロスは軽く肩をすくめ、にっこりと笑う。
「いやー、敵が勝手に死んでいっただけだし」
ジャンたちは唖然としたまま、ただクロスを見つめる。無自覚のチートがもたらす奇跡に、まだ誰も本当の意味では気づいていない。
こうして、クロスは再び奈落への探検を心に決める。
無敵の力を自覚せず、ただ自分の意志だけで歩む青年。その姿は、これからの数々の試練と奇跡の序章に過ぎなかった。
キャラクター紹介 No.19
【権能:チート 無敵のクロス】
20歳の青年で、奈落を目指す冒険者。父母も伝説的冒険者であり、その意志を継ぎ、単身奈落に挑む。外見や性格はごく普通の青年だが、無自覚のまま与えられた超絶的な権能【チート】を持つ。
その権能は戦闘、探索、回避、体力、判断力などあらゆる能力を圧倒的に向上させ、敵を一瞬で打ち倒し、危険な状況からも無傷で生還する力を秘める。本人は自分の強さに気づいておらず、すべて「偶然」と「直感」でこなしているため、周囲からは神にも等しい存在と見なされる。
戦略や戦術に頼らず、圧倒的な力で困難を切り拓く様は、まさに「奈落の奇跡」と呼ばれる。
無自覚チートという特殊性ゆえ、仲間を救い、敵を蹴散らしつつも、本人はあくまで平常心を保ち続ける。




