奈落最深の決戦
【奈落 第十層 神殿エリア】
終末の大地と呼ばれるその場所は、無音だった。
音はすべて、奈落そのものに呑み込まれ、消えている。
天を覆うのは、星々を喰らい尽くすかのような黒雲。中心に鎮座するのは、古代より封じられし漆黒の隕石。
そして、その前に立ちはだかる一人の男・不安のシャスエティ。
その対岸に並び立つのは、世界が誇る十の光。
最強の男・アルガード
白銀の戦乙女・ヒルダ
天弓・イグニス
光の神に愛されし者・マチルダ
土魔法の使い手・マーテル
羅刹を倒した勇者・クロス
斧勇者・ジャン
風奏・エリス
紅き刃・フローレンス
光の癒し手・マリー
彼らは、奈落攻略の果てに辿り着いた人類最強の十傑。そして、世界の命運を懸けた最終決戦が、今、幕を開けた。
「終わりにしよう、シャスエティ!」
アルガードが雷槍を構えた瞬間、空気が震えた。
「終わり、か……。ならば、どちらの終わりか、見定めよう」
嵐のような衝突が始まる。
神話を超えた剣戟、天地を裂く魔法、雷鳴と炎が交錯する。しかし数の優勢にもかかわらず、シャスエティは一歩も退かなかった。
いや、違う。退く必要がなかったのだ。
「……思っていたよりも、面白いな」
口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
その表情を見て、ヒルダの眉が動いた。
(まだ余裕がある……? この状況で?)
その刹那、シャスエティは背後の“漆黒の隕石”へと歩き出す。
「止めろォッ!!」
クロスが雷撃を放つが、すでに遅い。
指先が隕石に触れた瞬間、それは霧のように砕け、黒き奔流となって彼の体内へと流れ込んだ。
だが、叫び声は、予想とは違う形で響いた。
「クク……フハハハハッ!!」
全身を黒が駆け巡る。
瞳は漆黒に染まり、肉体は一瞬で理を超越した存在へと変わる。しかし、それは魔王の復活ではなかった。
脳裏に響く、異質な声。
『我は興味がないのだ、善も悪も、破壊も支配も。
ただ、愉快であるかどうかだけだ。お前が面白い、力はくれてやろう。そのかわり、我の退屈をどうにかせよ』
そのとき、魔王は笑っていた。
そして、すべての力は器となったシャスエティに譲渡された。
彼は魔王ではない。だが、魔王と同格の存在となったのだ。
「さあ、続きをしようか。ここからが本当の戦いだ」
次の瞬間、空気が爆ぜた。
「ッ!?」
ヒルダの剣は握った瞬間に弾かれ、イグニスの放った矢は空気の壁に阻まれた。
アルガードの雷槍が直撃しても、彼は一歩も動かない。
「馬鹿な……この力は、神域だ……!」
「神? あれはただの線にすぎん。俺はもう、その外にいる」
その声とともに、風が泣き、地が軋む。
マーテルの大地の牢獄は一瞬で崩壊し、クロスの天雷は彼の指先で吸収された。
ジャンの斧が砕け、フローレンスの炎が飲み込まれる。マリーの光は闇に触れた瞬間、逆流し、彼女自身を焼いた。
「ぐっ……あぁぁああああッ!!」
「マリー!!」
マチルダが必死に治癒を試みるが、その癒しの力すら拒絶される。
概念が違う。もはや人の技は届かない。
「終わりだ、勇者たち」
指先が軽く振られる。
空間がひとつ、崩れた。世界の法則が破壊され、冒険者たちの肉体は耐え切れず、次々と大地へと沈んでいく。
アルガードが、最後の力を振り絞って突撃した。
「まだだッ! まだ終わっていないッ!!」
雷槍が閃く。世界最強と呼ばれた男の一撃。それすらも、掌で受け止められた。
「終わっていない? いいや、これは始まりだ」
雷鳴が散り、アルガードは膝をついた。その目に、恐怖はなかった。だが、希望もまた、なかった。
静寂が訪れる。
神殿の空間に立っているのは、ただ一人。
“魔王の力を宿したシャスエティ”だけ。
「さあ、退屈を紛らわすとしよう。次は、この世界全体でな」
黒き霧が彼の背から溢れ出す。
それは奈落を満たし、地上へと溶け込み、ゆっくりと世界を飲み込んでいった。
世界の終焉は、静かに幕を開けた。
キャラクター紹介 No.17
【大魔王シャスエティ】
かつて「不安のシャスエティ」と呼ばれ、奈落六大将の中枢として暗躍した男。最終決戦において漆黒の隕石と融合し、魔王の全力を託されたことで、神々すら及ばぬ存在へと進化を遂げた。
彼は破壊でも支配でもなく、「退屈を紛らわせること」を唯一の目的として行動する。善悪の概念を超越し、己の興を満たすためだけに世界の理すら書き換えるその姿は、まさに絶対そのもの。
指先一つで大地を崩し、意志一つで生命の進化をねじ曲げる力は、もはや創造主と呼ぶほかない。




