表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奈落の果ての異譚集  作者: 黒瀬雷牙
魔王の目覚めと世界の終焉
17/31

奈落最深の決戦

【奈落 第十層 神殿エリア】

 終末の大地と呼ばれるその場所は、無音だった。

 音はすべて、奈落そのものに呑み込まれ、消えている。


 天を覆うのは、星々を喰らい尽くすかのような黒雲。中心に鎮座するのは、古代より封じられし漆黒の隕石。


 そして、その前に立ちはだかる一人の男・不安のシャスエティ。


 その対岸に並び立つのは、世界が誇る十の光。


 最強の男・アルガード

 白銀の戦乙女・ヒルダ

 天弓・イグニス

 光の神に愛されし者・マチルダ

 土魔法の使い手・マーテル

 羅刹を倒した勇者・クロス

 斧勇者・ジャン

 風奏・エリス

 紅き刃・フローレンス

 光の癒し手・マリー


 彼らは、奈落攻略の果てに辿り着いた人類最強の十傑。そして、世界の命運を懸けた最終決戦が、今、幕を開けた。


「終わりにしよう、シャスエティ!」


 アルガードが雷槍を構えた瞬間、空気が震えた。


「終わり、か……。ならば、どちらの終わりか、見定めよう」


 嵐のような衝突が始まる。

 神話を超えた剣戟、天地を裂く魔法、雷鳴と炎が交錯する。しかし数の優勢にもかかわらず、シャスエティは一歩も退かなかった。


 いや、違う。退く必要がなかったのだ。


「……思っていたよりも、面白いな」


 口元に、わずかな笑みが浮かぶ。

 その表情を見て、ヒルダの眉が動いた。


(まだ余裕がある……? この状況で?)


 その刹那、シャスエティは背後の“漆黒の隕石”へと歩き出す。


「止めろォッ!!」


 クロスが雷撃を放つが、すでに遅い。

 指先が隕石に触れた瞬間、それは霧のように砕け、黒き奔流となって彼の体内へと流れ込んだ。


 だが、叫び声は、予想とは違う形で響いた。


「クク……フハハハハッ!!」


 全身を黒が駆け巡る。

 瞳は漆黒に染まり、肉体は一瞬で()を超越した存在へと変わる。しかし、それは魔王の復活ではなかった。


 脳裏に響く、異質な声。


『我は興味がないのだ、善も悪も、破壊も支配も。

 ただ、愉快であるかどうかだけだ。お前が面白い、力はくれてやろう。そのかわり、我の退屈をどうにかせよ』


 そのとき、魔王は笑っていた。


 そして、すべての力は()となったシャスエティに譲渡された。

 彼は魔王ではない。だが、魔王と同格の存在となったのだ。


「さあ、続きをしようか。ここからが本当の戦いだ」


 次の瞬間、空気が爆ぜた。


「ッ!?」


 ヒルダの剣は握った瞬間に弾かれ、イグニスの放った矢は空気の壁に阻まれた。

 アルガードの雷槍が直撃しても、彼は一歩も動かない。


「馬鹿な……この力は、神域だ……!」


「神? あれはただの()にすぎん。俺はもう、その外にいる」


 その声とともに、風が泣き、地が軋む。

 マーテルの大地の牢獄は一瞬で崩壊し、クロスの天雷は彼の指先で吸収された。

 ジャンの斧が砕け、フローレンスの炎が飲み込まれる。マリーの光は闇に触れた瞬間、逆流し、彼女自身を焼いた。


「ぐっ……あぁぁああああッ!!」


「マリー!!」


 マチルダが必死に治癒を試みるが、その癒しの力すら拒絶される。

 ()()が違う。もはや人の技は届かない。


「終わりだ、勇者たち」


 指先が軽く振られる。

 空間がひとつ、崩れた。世界の法則が破壊され、冒険者たちの肉体は耐え切れず、次々と大地へと沈んでいく。


 アルガードが、最後の力を振り絞って突撃した。


「まだだッ! まだ終わっていないッ!!」


 雷槍が閃く。世界最強と呼ばれた男の一撃。それすらも、掌で受け止められた。


「終わっていない? いいや、これは始まりだ」


 雷鳴が散り、アルガードは膝をついた。その目に、恐怖はなかった。だが、希望もまた、なかった。


 静寂が訪れる。

 神殿の空間に立っているのは、ただ一人。


 “魔王の力を宿したシャスエティ”だけ。


「さあ、退屈を紛らわすとしよう。次は、この世界全体でな」


 黒き霧が彼の背から溢れ出す。

 それは奈落を満たし、地上へと溶け込み、ゆっくりと世界を飲み込んでいった。


 世界の終焉は、静かに幕を開けた。

キャラクター紹介 No.17

【大魔王シャスエティ】

 かつて「不安のシャスエティ」と呼ばれ、奈落六大将の中枢として暗躍した男。最終決戦において漆黒の隕石と融合し、魔王の全力を託されたことで、神々すら及ばぬ存在へと進化を遂げた。

 彼は破壊でも支配でもなく、「退屈を紛らわせること」を唯一の目的として行動する。善悪の概念を超越し、己の興を満たすためだけに世界の理すら書き換えるその姿は、まさに絶対そのもの。

 指先一つで大地を崩し、意志一つで生命の進化をねじ曲げる力は、もはや創造主と呼ぶほかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ