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奈落の果ての異譚集  作者: 黒瀬雷牙
冒険者は奈落で堕ちる
15/31

かつての仲間との対峙

 轟音が大地を裂き、崩壊の断末魔が響き渡る。

 クロスとアルカトラ。二人の影が、圧倒的な力でもって次々と命を刈り取っていった。

 ガイアの巨体は、クロスの一閃により胴から裂け、崩れ落ちる。

 ダリウスの咆哮は、アルカトラの短刀が心臓を貫いた瞬間に絶叫へと変わり、やがて静寂に呑まれた。


 圧倒。それは戦いと呼ぶにはあまりにも一方的で、あまりにも冷酷な蹂躙だった。


「……う、そ……」


 その光景を、フローレンスはただ呆然と見つめていた。

 

 奈落を終わらせたら、彼と結婚する。


 かつてガイアと交わした未来への約束が、崩れ落ちていくのを感じながら。


 次の瞬間、視界の端で、誰かが倒れるのが見えた。

 それが仲間だと理解した瞬間、フローレンスの思考は凍りつく。


「クロスッ!!!」


 怒りが理性を焼き払い、彼女は目の前の敵――怨恨の魔女グラージャを無視して、一直線にクロスへと刃を振り下ろす。


 それは、戦場における最悪手だった。


怨薔華葬(えんしょうかそう)


 グラージャが冷たく詠唱すると同時に、黒き薔薇が戦場一面に咲き乱れ、毒と怨念が渦を巻く。

 その波に呑まれたマーテルとマリーが、悲鳴も残さず崩れ落ちた。


 ――死。


 あまりに唐突で、あまりに無惨な現実が、フローレンスの心を引き裂く。


「ぁああああああああああッ!!!」


 次の瞬間、彼女の魔力が爆ぜた。

 怒りと悲しみが臨界を越え、フローレンスは覚醒する。


 その前に立ちふさがろうとしたアルカトラの腕を、クロスがそっと掴んだ。


「いい。……これは、俺がやる」


 その声音は静かで、しかしどこか、哀しみに満ちていた。


 失いかけた記憶の奥底に、残っている顔がある。

 今もまだ生き残っている、冒険者時代のパーティメンバー。


 せめて、その終わりだけは…この手で葬るために。


 クロスは静かに歩み出す。

 互いに、戦う未来など想像もしなかった。

 互いの未来を賭けた、最後の戦いが始まろうとしていた。


 だが、冒険者たちが一方的に蹂躙されているわけではなかった。


 同じ頃、奈落の咆哮が響き渡る戦場の別の場所では、ヒルダ・イグニス・マチルダの三人が、獣のような咆哮を上げるジェラシアと激闘を繰り広げていた。神速の脚と怪力で大地を砕く嫉妬の獣姫。その圧倒的な猛攻に幾度も追い詰められながら、三人は仲間との絆と覚悟を武器に、ついにその心臓を貫いた。


「終わりだ……ジェラシア!」


 ヒルダの最後の一閃がジェラシアをとらえた。

 絶叫と共に、獣姫が崩れ落ちる。奈落六大将の一角が、ついに沈んだ。


 そして、もう一つの戦場。

 奈落六大将の知略の中心、不安のシャスエティと対峙していたのは、ただ一人、アルガードだった。

 戦術も罠も、未来すらも読み切る男との戦いは、まさに死地そのもの。幾度も瀕死に追い込まれながら、それでもアルガードは退かなかった。己の肉体と魂を削り、最後の一撃を叩き込む。


「……終わりだ、シャスエティ!」


 血に染まった槍が、知略の怪物を貫いた。瀕死の重傷を負いながらも、アルガードは立っていた。六大将の頭脳が、ここに沈む。

 アルガードも限界を迎え、意識を手放した。


 だが、戦いはまだ終わらない。


 ヒルダたちはすぐさま態勢を立て直し、怨恨の黒薔薇・グラージャへと駆け出す。無尽蔵の魔力が嵐のように吹き荒れ、薔薇の呪詛が大地を焼く。

 そして、冒険者たちと奈落六大将の残された力が激突する。一進一退の最終決戦は、なおも続いていた。


「アルカトラ、グラージャの加勢を頼む」


「わかりました、クロス様…必ずご無事で」


 アルカトラは影に潜み、ヒーラーであるマチルダの背後を狙う。


「…止めに行かないのか?フローレンス」


 クロスの言葉に、フローレンスは一切視界を外さずに、力強く答える。


「私はみんなを信じている…だから、貴様に専念できる!」


「お見事…正確だ、後ろを向いた瞬間に殺すつもりだったからな」


 一瞬の沈黙のあと、二人の剣が激突した。

キャラクター紹介 No.15

【狂愛のアルカトラ】

 「奈落六大将」の一角にして、復讐のクロスの右腕として暗躍する影の執行者。

 生前は盗賊団・ブラッドムーンの最高幹部、七芒星の一人として名を馳せた暗殺者であり、数えきれぬほどの標的を闇へと葬ってきた。その冷徹な技と忠誠心は、今もなお一切揺らぐことはない。

 潜入・暗殺・攪乱において右に出る者はおらず、気配を完全に消し、心臓を止めるまで一切の気づきを与えない暗殺術は、影の死神と恐れられる。

 また、クロスの思考と行動を最も深く理解しており、命じられた任務を“結果”という形で必ず果たすその在り方は、まさに“影”そのもの。

 感情を排した無機質な言葉の奥にあるのは、ただ一つ…

 クロスへの絶対的な忠誠。

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