新たなる六大将
血と鉄の匂いが沈殿する奈落。
サリヴァンとリゼルグを討ち果たし、復讐の炎を燃やし尽くしたはずのクロスは、それでも歩みを止めなかった。
「……どこへ行くつもりだ、クロス」
静寂の廊下に、アルカトラの声が響く。
クロスは振り返らず、ただ一言だけを吐き出した。
「呼ばれている」
その声には迷いも感情もなかった。ただ、決して抗えぬ何かに導かれるような冷たい響きだけがあった。
「呼ばれている……? 誰にだ」
「わからない。だが……俺は行かなければならない」
アルカトラは理解できなかった。だが、不思議とその背中から目が離せなかった。
かつては同じ理想を語り合った仲間。いまは、悪魔と呼ぶべき存在へと変貌した男。
それでも、彼の後を追わずにはいられなかった。
「……なら、私も行こう」
その決意に、クロスは何も言わなかった。ただ、ほんの一瞬だけ足を止めたようにも見えた。
こうして、二人は奈落のさらに深き場所へと消えていった。
【数年後 奈落最深部】
幾度の討伐遠征も全て壊滅した奈落の最深。そこに、ついに王国最強の討伐部隊が到達した。
総指揮官は、かつての雷槍の英雄・アルガード。
「全隊、陣形を崩すな!ここが……最後の戦場だ!」
百戦錬磨の猛者たちが大地を踏みしめる。
空は赤黒く裂け、地鳴りのような鼓動が足元から響く。奈落六大将との最終決戦、その幕が今まさに上がろうとしていた。
ここに至るまで、王国最強の精鋭部隊は幾多の死線を越えてきた。奈落六大将・怒りのアンガレドを討ち、さらに憎悪のヘティリドをも打ち倒す。
六大将は残すところ、あと三体。そう誰もが信じていた。
常に冷静沈着、失敗という概念を持たぬ知略の中心
懸念の蜘蛛・不安のシャスエティ
神速と怪力で大地を砕く嫉妬の獣姫
嫉妬の獣姫・妬みのジェラシア
無尽蔵の魔力を操る漆黒の大魔女
怨恨の黒薔薇・恨みのグラージャ
だが、最深の玉座の前に立ったとき、彼らの目の前に現れたのは、想定を超える“五体”の影だった。その六席の一角に、かつて共に戦った男の姿があった。
「まさか……クロス……!」
かつての仲間、フローレンスの声が震える。
深淵の玉座、その前に立つ影。漆黒の外套、紅く燃える双眸。もはや“人”ではなかった。
「…俺は奈落六大将・復讐のクロス」
名を呼ばれると、彼はゆっくりと顔を上げる。その瞳には、かつて仲間と過ごした日々の欠片すら残っていなかった。
その傍らに立つのは、かつて影に徹した暗殺者。
だが今は違う。狂気と愛が絡みついたような眼差しで、主の横に立つ。
六大将・狂愛のアルカトラ
彼女は静かに微笑む。愛しい人を守るためなら、どんな敵も躊躇なく殺せるという、危うい光を湛えて。
「私の全ては、クロス様のもの。この体はもちろん、血も、命も、魂すらも」
二人の前に立ちはだかるのは鉄壁の守護者・ガイア、そして龍の鞭を操る戦鬼・ダリウス。
「貴様らの行進はここまでだ。地の底に沈め、王国の犬ども!」
轟音と共に、大地が裂ける。鉄の壁が天へとそびえ立ち、龍鞭が空を裂いて襲いかかる。
クロスは片手を広げた。
その姿は、かつて仲間の一員だった“冒険者クロス”ではない。奈落そのものと同化し、怨念を宿した悪魔だった。
アルガードは槍を構え、仲間たちに叫ぶ。
「全員、気を抜くな!ここが、本当の奈落だ!!」
かつて共に笑い、戦い、夢を語り合った友。
今は、最強の敵として立ち塞がる。
アルガードは単騎でシャスエティと、
ヒルダとイグニス、そしてマチルダはジェラシアと、
マーテルとフローレンス、そしてマリーはグラージャと…
運命の最終決戦。
その火蓋が、いま静かに、落ちた。
キャラクター紹介 No.14
【復讐のクロス】
かつて冒険者として仲間と共に奈落に挑んだ男にして、今や「奈落六大将」の一角を担う存在。かつての名残を捨て、“復讐”そのものを名に冠した通り、己を裏切った世界とすべての因果に報いを下すためだけに生きている。
剣術・魔法・戦術のすべてに精通し、実戦経験と執念に裏打ちされた戦闘力は六大将の中でも群を抜く。かつての仲間たちにとって最大の脅威となる。
冷たい瞳の奥に燃えるのは、ただ一つ。
「全てを終わらせる」という決意。




