悪魔の化身
【奈落 第四層 古城エリア】
奈落の古城は、鉄と魔力の嵐に包まれていた。
盗賊団ブラッドムーンと冒険者ギルド、双方の戦力が激突し、一進一退の攻防が繰り広げられている。
戦場の中心、ヒルダとマチルダは、七芒星のNo.3ゴリアテとNo.4アンナを撃破。
その直後、雷槍を振るうアルガードがNo.2オルテガを討ち取った。
しかし勝利の代償は大きい。
ヒルダもマチルダも、アルガードも、呼吸は荒く、傷は深い。疲労の色は隠せなかった。
一方、イグニスは相変わらず、ブラッドムーン首領リゼルグと激闘中。
矢と弾丸が交錯し、周囲の空気が歪むほどの力をぶつけ合っていた。
冒険者たちは次々と押し寄せる盗賊団を返り討ちにしていたが、サリヴァンが作り出した改造人間たちによって、多くの戦力が消耗していた。
人ならざる存在の猛攻に、ギルドの最強たちも少しずつ疲弊していく。
さらに遠くの戦場では、剣聖ムラサメと魔法使いマーテルが、奈落六大将・悲しみのペシミスティと対峙していた。
彼女の幻術によって戦況は揺さぶられ、ブラッドムーンを裏で操るペシミスティの存在が戦場全体に影を落としている。
ムラサメの手には、使用者の命を代償にする業物・妖刀新月が握られている。
その間、クロスは静かにサリヴァンを狙っていた。
血に飢えた復讐心を胸に、足取りは確かだったが、目の前に七芒星No.7、セラヴィオが立ちはだかる。
影の中から現れたセラヴィオの瞳は冷たく、刃のように鋭い。
「ここで止めるわけにはいかない!」
クロスの目の奥が赤く光る。覚醒した力が全身を駆け巡る。だがその瞬間、フローレンスとマリーが飛び出す。
二人は同時にセラヴィオを迎え撃ち、クロスの道を切り開く。
「クロス、行って!」
「ここはウチらに任せや!」
紅く燃える瞳をクロスに向け、二人は背中を預け合い、敵の七芒星を引き受ける。
これで、クロスの進路は一つに絞られた。
標的は、サリヴァン。復讐の刃は、ついにその時を迎えようとしていた。
フローレンスとマリーは、蒼夢の二つ名を持つ七芒星No.7、セラヴィオと対峙していた。
その精神干渉の術は、相手の心を揺さぶり、動きを鈍らせる危険極まりない技。
だが、フローレンスは炎の剣を握り締め、炎の剣士として全身から熱を迸らせる。
マリーは全身の魔力を解き放ち、仲間を癒す力を攻撃へ転用する。ヒーラーの潜在力を解き放った瞬間、光と炎がセラヴィオの精神攻撃を打ち破った。
「これで終わりよ!」
フローレンスの炎が剣先から迸り、セラヴィオを包み込む。マリーの魔力の光が追撃し、精神の防壁を貫いた。
蒼夢の剣士は一瞬、目を見開き、そして崩れ落ちた。フローレンスとマリーは、互いに深く息をつきながら、クロスの進む道を確保した。
クロスはそのままサリヴァンの元へ駆ける。
覚醒した力が全身を支配し、紅い瞳が闇を切り裂く。その姿はもはや人間ではなく、悪魔の化身のようだった。
「ま…まて!お、お前、仲間だろ!!」
「仲間?エリスを殺しておいて…何が仲間だ」
サリヴァンは逃げることも、魔術を準備することもできず、クロスの一撃で無惨に叩き潰される。
その瞬間、戦場で戦況を見守っていた冒険者たちは息を呑んだ。
人間の域を超えたその姿。赤く燃える瞳、異様に跳ねる筋肉、凄絶な殺意。すべてが畏怖を呼び起こした。
サリヴァンの死体が跡形もなく地面に崩れ落ちると、クロスの視線は次の標的へ向かう。
イグニスと戦うブラッドムーン首領、リゼルグだ。
戦いの余波で疲弊したリゼルグは、周囲の状況を把握し、逃走を試みる。
しかし、悪魔と化したクロスの速度は尋常ではなかった。一瞬で距離を詰め、冷たい手がリゼルグの首を捕らえる。
「逃がさない……」
そして、その手が力強く締め上げられた瞬間、リゼルグの首は引きちぎられ、凄惨な最期を迎える。
戦場には、血と衝撃の残響だけが残った。
ムラサメは悲しみのペシミスティを討ち取り、リゼルグを討った後、クロスの前に立ち尽くす。
「お前が、ジークの息子のクロス…なのか?」
その眼前には、もはやかつての仲間や冒険者ではない、完全に覚醒した、悪魔クロスの姿があった。
妖刀の代償で命を失う前に、ムラサメを嫌な予感が襲った。
古城の廊下に、悪魔の咆哮のような静寂だけが残る。これが、奈落第四層における、クロスの復讐の終焉であり、戦いの決定打であった。
戦場に残る血と破壊の残響――
クロスは一瞥もせず、無言のまま歩き出した。
フローレンスが呼びかける。
「クロス……!」
だが、クロスの耳には届かない。あるいは、聞こえていても振り返る気はない。
その背中は、復讐と力に塗り固められた者の影そのものだった。
フローレンスは一歩踏み出すも、言葉は途切れた。
胸の奥にわずかな不安と、仲間への想いを抱えたまま、クロスの姿は闇の奥へと消えていく。
そして、ただ一人、影の中から、アルカトラが静かに姿を現す。誰にも気付かれぬよう、静かに、音も立てず、クロスの後を追う。
闇に溶け込み、冷たくも確かな存在感を漂わせながら、アルカトラは歩みを合わせる。
かつて友となる可能性を見出した二人。
今、悪魔となったクロスと、影に徹するアルカトラが、奈落の奥深くへと進んでいく。
古城の廊下には、もはや誰も立ち止まらない。
ただ、赤い瞳と影の影だけが、奈落の深淵へと消えていった。
キャラクター紹介 No.13
【蒼夢のセラヴィオ】
七芒星No.7に名を連ねる盗賊団ブラッドムーンの精鋭。通称「蒼夢」の名の通り、精神干渉を得意とし、相手の恐怖や迷いを操って戦う戦術家。刃と精神攻撃を組み合わせ、戦場では一瞬で敵の意思を混乱させることができる。
冷静沈着で残忍な性格を持ち、単独行動も厭わず、対象を徹底的に追い詰める。だが、精神攻撃に頼りすぎる傾向があり、直接攻撃に対して脆弱な一面も持つ。
原作ではエリスに倒された。




