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奈落の果ての異譚集  作者: 黒瀬雷牙
冒険者は奈落で堕ちる
13/31

悪魔の化身

【奈落 第四層 古城エリア】


 奈落の古城は、鉄と魔力の嵐に包まれていた。

 盗賊団ブラッドムーンと冒険者ギルド、双方の戦力が激突し、一進一退の攻防が繰り広げられている。


 戦場の中心、ヒルダとマチルダは、七芒星のNo.3ゴリアテとNo.4アンナを撃破。

 その直後、雷槍を振るうアルガードがNo.2オルテガを討ち取った。


 しかし勝利の代償は大きい。

 ヒルダもマチルダも、アルガードも、呼吸は荒く、傷は深い。疲労の色は隠せなかった。


 一方、イグニスは相変わらず、ブラッドムーン首領リゼルグと激闘中。

 矢と弾丸が交錯し、周囲の空気が歪むほどの力をぶつけ合っていた。


 冒険者たちは次々と押し寄せる盗賊団を返り討ちにしていたが、サリヴァンが作り出した改造人間たちによって、多くの戦力が消耗していた。

 人ならざる存在の猛攻に、ギルドの最強たちも少しずつ疲弊していく。


 さらに遠くの戦場では、剣聖ムラサメと魔法使いマーテルが、奈落六大将・悲しみのペシミスティと対峙していた。

 彼女の幻術によって戦況は揺さぶられ、ブラッドムーンを裏で操るペシミスティの存在が戦場全体に影を落としている。

 ムラサメの手には、使用者の命を代償にする業物・妖刀新月が握られている。


 その間、クロスは静かにサリヴァンを狙っていた。

 血に飢えた復讐心を胸に、足取りは確かだったが、目の前に七芒星No.7、セラヴィオが立ちはだかる。


 影の中から現れたセラヴィオの瞳は冷たく、刃のように鋭い。


「ここで止めるわけにはいかない!」


 クロスの目の奥が赤く光る。覚醒した力が全身を駆け巡る。だがその瞬間、フローレンスとマリーが飛び出す。

 二人は同時にセラヴィオを迎え撃ち、クロスの道を切り開く。


「クロス、行って!」


「ここはウチらに任せや!」


 紅く燃える瞳をクロスに向け、二人は背中を預け合い、敵の七芒星を引き受ける。


 これで、クロスの進路は一つに絞られた。

 標的は、サリヴァン。復讐の刃は、ついにその時を迎えようとしていた。


 フローレンスとマリーは、蒼夢の二つ名を持つ七芒星No.7、セラヴィオと対峙していた。

 その精神干渉の術は、相手の心を揺さぶり、動きを鈍らせる危険極まりない技。


 だが、フローレンスは炎の剣を握り締め、炎の剣士として全身から熱を迸らせる。

 マリーは全身の魔力を解き放ち、仲間を癒す力を攻撃へ転用する。ヒーラーの潜在力を解き放った瞬間、光と炎がセラヴィオの精神攻撃を打ち破った。


「これで終わりよ!」


 フローレンスの炎が剣先から迸り、セラヴィオを包み込む。マリーの魔力の光が追撃し、精神の防壁を貫いた。


 蒼夢の剣士は一瞬、目を見開き、そして崩れ落ちた。フローレンスとマリーは、互いに深く息をつきながら、クロスの進む道を確保した。


 クロスはそのままサリヴァンの元へ駆ける。

 覚醒した力が全身を支配し、紅い瞳が闇を切り裂く。その姿はもはや人間ではなく、悪魔の化身のようだった。


「ま…まて!お、お前、仲間だろ!!」


「仲間?エリスを殺しておいて…何が仲間だ」


 サリヴァンは逃げることも、魔術を準備することもできず、クロスの一撃で無惨に叩き潰される。

 その瞬間、戦場で戦況を見守っていた冒険者たちは息を呑んだ。

 人間の域を超えたその姿。赤く燃える瞳、異様に跳ねる筋肉、凄絶な殺意。すべてが畏怖を呼び起こした。


 サリヴァンの死体が跡形もなく地面に崩れ落ちると、クロスの視線は次の標的へ向かう。

 イグニスと戦うブラッドムーン首領、リゼルグだ。


 戦いの余波で疲弊したリゼルグは、周囲の状況を把握し、逃走を試みる。

 しかし、悪魔と化したクロスの速度は尋常ではなかった。一瞬で距離を詰め、冷たい手がリゼルグの首を捕らえる。


「逃がさない……」


 そして、その手が力強く締め上げられた瞬間、リゼルグの首は引きちぎられ、凄惨な最期を迎える。

 戦場には、血と衝撃の残響だけが残った。


 ムラサメは悲しみのペシミスティを討ち取り、リゼルグを討った後、クロスの前に立ち尽くす。


「お前が、ジークの息子のクロス…なのか?」


 その眼前には、もはやかつての仲間や冒険者ではない、完全に覚醒した、悪魔クロスの姿があった。

 妖刀の代償で命を失う前に、ムラサメを嫌な予感が襲った。


 古城の廊下に、悪魔の咆哮のような静寂だけが残る。これが、奈落第四層における、クロスの復讐の終焉であり、戦いの決定打であった。


 戦場に残る血と破壊の残響――

 クロスは一瞥もせず、無言のまま歩き出した。


 フローレンスが呼びかける。


「クロス……!」


 だが、クロスの耳には届かない。あるいは、聞こえていても振り返る気はない。

 その背中は、復讐と力に塗り固められた者の影そのものだった。


 フローレンスは一歩踏み出すも、言葉は途切れた。

 胸の奥にわずかな不安と、仲間への想いを抱えたまま、クロスの姿は闇の奥へと消えていく。


 そして、ただ一人、影の中から、アルカトラが静かに姿を現す。誰にも気付かれぬよう、静かに、音も立てず、クロスの後を追う。


 闇に溶け込み、冷たくも確かな存在感を漂わせながら、アルカトラは歩みを合わせる。


 かつて友となる可能性を見出した二人。


 今、悪魔となったクロスと、影に徹するアルカトラが、奈落の奥深くへと進んでいく。


 古城の廊下には、もはや誰も立ち止まらない。

 ただ、赤い瞳と影の影だけが、奈落の深淵へと消えていった。

キャラクター紹介 No.13

【蒼夢のセラヴィオ】

七芒星No.7に名を連ねる盗賊団ブラッドムーンの精鋭。通称「蒼夢(そうむ)」の名の通り、精神干渉を得意とし、相手の恐怖や迷いを操って戦う戦術家。刃と精神攻撃を組み合わせ、戦場では一瞬で敵の意思を混乱させることができる。

冷静沈着で残忍な性格を持ち、単独行動も厭わず、対象を徹底的に追い詰める。だが、精神攻撃に頼りすぎる傾向があり、直接攻撃に対して脆弱な一面も持つ。

原作ではエリスに倒された。

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