後編
私の知っている街と少し違っている
知っているお店もあるが、知らないお店もある
よくわからないけど、とりあえず大きくは変わっていない
私の記憶が正しければ、待ち合わせはあの駅だった
でも、ちょっと待って…
あの日は職場から行ったから駅に待ち合わせたけど、今は家からだからあの駅に行くより直接会場に行ったほうがいい
というか反対方向だから駅に行ったら間に合わない
でもあの日は確か彼から遅れるって連絡があって、打ち上げに間に合うギリギリまで待って…
そこからやっぱり行けないって連絡があったんだっけ…
今回は駅に間に合うように向かってくれてる
これはやっぱり駅に向かったほうがいいの…
夢の中の話が蘇る
ちょっとしたすれ違いが大きく結果を変える…
わからないよ
あの日の私は駅に行ったけど、彼は来ない
今回も駅に行ったらやっぱり彼は来ない?でも彼は既に向かってる
それが前とは違う
恐い、もう二度とこないかも知れない機会を逃さない為の選択
一度決まった未来を知っていると、逆にこんなに重圧がかかるものなんだ…
結局変わらなかったらどうしようという気持ちが働いてしまう
あっ、そうだ
そもそも花火大会って今日あるの?もし本当に未来だとしたら同じ日付にやるものなの?
スマホ使える?
花火大会を検索してみると、日付が違う日程が出てくる
今日じゃないじゃん…
あー、もういい
やれることをやろう
「先に行ってるね」
私はそう送信すると、自分の信じる道を突き進むことにした
これはもうほぼ夢の中
そう思ってから私は駆け巡った
「ごめん、すぐ追いつく」
彼からの返信、大丈夫だ
きっと会える、必ず会える
一緒に花火を観る
呪文のように繰り返し、ひたすら走った
やばいそろそろ打ち上げ時間だ
確かあの日は動画を撮って送ったんだ
とりあえず今回も送っておこう
「残業頑張れ~!たーまーやー!」
やばい、動き過ぎて頭が回らない
文章もそのままで送っちゃったけど、今の状況じゃ意味がわからないよね
あともう少しであの時の会場に着くはずなんだけど、こんなに暗かったんだ
出店もないから明かりが何も無い
暗闇と疲労が不安を煽ってくる
確かこの河川敷だったはず
何か光ってる?人がいる…?!
ピロン♪
「ありがとう 花火綺麗だね 一緒に隣で観たかったな」
私は祈るように通話ボタンを押した
光のほうへ近づいていく
「もしもし…」
彼の声だった
僅かな沈黙のあとに私は一言、涙ぐんだ声で返事をした
「遅いよ…」
私はあっという間に思えた3年程が急に長く感じていた
「ごめん…」
「ううん、そうじゃなくて…」
「えっ?…」
「後ろ…振り返ってみて」
振り返った彼は明らかに焦った表情と仕草をしていた
それも懐かしい
彼は確かに歳を取っていたが、私はそれよりも元気な彼を見て安心した
彼は私の容姿に驚いていたけど、普通に変わらないねと受け入れそうだったのがとても面白かった
それがツボに入って私は声を出して大笑いした
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
笑っている彼女を見ていたら俺は急に思い出した
そうだ、俺は植物状態から奇跡的に回復したんだ
なんでそんな重大なことを忘れていたんだろう
なぜか周りもそのことを一切話さなかった
大変なことは忘れてしまえということなのだろうか
今彼女に会う前までは、別れた原因も俺の親と価値観が合わないという理由だったとなぜか思い込んでいたが、そうじゃないことをはっきり思い出した
「ごめん、なんか俺色々忘れてた…でも今日会えて良かった」
「ううん、私もずっと会いたかった…話したかった…」
「ありがとう、子どもは元気?」
「えっ?子ども?誰の?」
「えっ?子ども2人いるんじゃないの?」
「はっ??」
「えっ??」
俺は彼女から説明されても理解するのに時間がかかった
というより理解はできていなかった
俺に起きた不思議なことを話しても結局二人して理解することはできなかった
「じゃあ過去から来たってこと?」
「多分…」
「じゃあ俺のスマホのメッセージは…?」
「途中からは私が送ったけど、その前は過去の私から…?」
「「???」」
「そんなことよりこれ!」
彼女が、大量に何か入ってるコンビニの袋を出した
「なにそれ?」
「花火!」
袋には手持ち花火がいっぱい入っていた
「花火大会だもんな」
「うん!しよう!」
俺達は時間を忘れるくらい夢中になって花火をした
花火をしながら色々な話をした
「じゃあこっちの私結構幸せになってる感じなんだ…」
「うん、聞いた話だけどそうだと思うよ」
「ふーん…まっそういう世界線ってことね」
花火をしながら俺達は色々と受け入れるようになっていた
長い花火大会も最後の花火になった
「最後はこれだね」
彼女が線香花火を取り出す
「これってすぐ消えちゃうよな」
「そう?下手くそなんじゃない?」
そういいながら彼女は火をつける
「ねぇ消えるまでに願い事しようよ」
「線香花火ってそういうのあったっけ?流れ星じゃね?」
「細かいことはいいから」
彼女の提案に、願い事を考える
そうだな…なんとなく目を瞑る
もし色々な世界線があるのなら…
もし生まれ変わりがあるんだったら…
その世界線では…
また人に生まれ変わったら…
なつきと…
ふゆきと…
「「ずっと一緒に居たい」」
なんてね…
願い事を終えると光の塊が落ち、暗闇になる
「何を願ったんだ…よ…」
隣にいたはずの彼女の姿は無かった
また、久しぶりに夢をみたんだ
それはとても心地よいものだった
いつもは夢をみてもすぐ忘れてしまうのだけれど
その夢を忘れることはなかった
でも俺はこの物語を夢で終わらせたくはないんだ
そう思わせてくれた人を忘れない為に
完