第3話 ダミアン。
いよいよジュリエンヌが学院の高等部に入学してくる。
うちのタウンハウスから通うように言いつけておいたが、ご迷惑はおかけできないと、寮に入った。お得意の「恥ずかしいから、いやいや」かな。
「なあなあ、ダミアンの自慢の婚約者が入って来るんだろう?」
「本当にお前に聞いた通りの令嬢なら、一万ガルドやるよ。」
「アハハ!そうだな。俺もその賭けに乗るぞ?」
悪友たちがニヤニヤしながら賭けを始めるのを眺める。全部いただきだな。
入学式が終わってひと段落したあたりで、ジュリエンヌを学院内のカフェテリアに呼び出す。
「さあ、ジュリエンヌ。僕の友人たちだ。」
「まあ、初めまして。ジュリエンヌと申します。」
僕の後ろに恥ずかしそうに隠れ気味になっていた彼女を、悪友どもの前で披露する。
学院のスカートをつまんで、完璧な淑女のお辞儀をするジュリエンヌ。
長いつややかな黒髪、透き通るような白い肌…ぱっちりとした大きな目…
悪友どもは、顔を赤らめて、言葉も出ないようだな。
手を取って、椅子を勧めようとすると、寮の説明会があるので、とやんわりと断られた。
「それでは皆様、失礼いたします。ごゆっくりお過ごしください。」
にっこり笑って、お辞儀をして去っていく彼女の後姿を、呆けた悪友どもと一緒に見送る。歩き方も完璧だな。きっちり躾けておいてよかった。
「さて、じゃあ、掛け金を貰おうかな?」
*****
「あらあら、婚約者の子が出てきてるんならさあ、あんたもこんなとこに来てる場合じゃないんじゃないの?」
僕がベッドに座って脱いだシャツを羽織っていると、まだ布団に寝転がっていたアンナが呆れたように言う。
「ふん。大丈夫さ。うちのお姫様は寮暮らしだし、僕のことを疑ったりするようには躾けていないからな。それに…どうもね、結婚式の後の初夜までお預けらしいから」
「あらまあ。今時のご令嬢には珍しいこと。処女の偽装までするご時世なのにね。うふふっ。それは大変ねぇ」
そういうとアンナが寝ながら僕の腰に手を回してくる。
…まあ、いいか。今日は金がある。
僕に言い寄ってくるご令嬢は多いが、一線を越えてしまったりすると、後々面倒だ。やれ結婚しろだの慰謝料だの言われるのは避けたい。商売女を相手にするに限る。後腐れはないし、金さえ出せば何をしてもいい。
金は…小遣いだけでは当然足りなくなる。
早くジュリエンヌにその気にさせるか?それともやはり、お楽しみに取っておくか?
そんなことを考えながら、向き直ってもう一度アンナに埋まる。
*****
「ダミアン様…私を愛していると言ってくださいましたよね?」
「…ああ。家同士で決めた婚約者だからな。しかたないんだ。」
どいつもこいつも、ジュリエンヌを見てから見ると味気ない干物みたいに見えるな。
「ダミアン様、私、あなたを信じておりますわ。」
「ああ。婚約が解消出来たら、貴女の手を取ろう。」
同じ制服には見えないな。ジュリエンヌは制服の着こなしも完璧だ。
「私、貴女の婚約者に直接、婚約を諦めて下さるように言ってみますわ!まさかダミアン様、私をだましたわけではないですよね?」
おいおい。
「僕の婚約者はね…純粋で素直に僕のことを信じているんです。貴女が何を言っても信じてはもらえませんよ?」
「え?」
「ふふっ。婚約者がいるのに他の男にうつつを抜かす貴女のような尻軽じゃないんでね。」