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トロフィーの “導き”

「私は課金者のあなたとパーティを組みたいんです!」


 ツナコがまっすぐ俺を見つめてそう言うと、シランが間に割って入ってきた。


「ちょ、ちょっと待て、お前、ツナコとか言ったか…?さっきから滅茶苦茶じゃないか!」


「いきなり襲ってきたかと思えば、パーティを組みたいだとか、物事には順序ってものがあるだろう!?」


 シランの言うことは最もだが、ツナコは明らかに常識の外の存在であり、今更正論を説くのも無意味に感じた。


 ツナコはシランに構わずに話を続ける。


「ウヅキさん、トロフィーの取得状況を確認して下さい。きっと変化があるはずですから」


「変化……?まあ確認するぐらいは構わないが…」


 トロフィーの取得状況を確認するのは簡単なことだ。まずはこう発声する、


「ホーム!!」


 次に目の前で起きていることを一旦すべて忘れるために目を閉じ、意識を現実から引き離す。そして、現実から引き離した意識をトロフィーに集中させる。

 そうすると確認できるのだ。取得済み、および未取得のトロフィー、ならびにそれらのトロフィーの情報が。


 トロフィーを確認した俺はあることに気が付いた。


「未取得のトロフィーが大量に追加されている……!!」


「はい、そうなんです。私もウヅキさんと出会ったタイミングで未取得のトロフィーが大量に追加されました。」


「ツナコ、つまりこれは……」


「はい、間違いないでしょう……」


「 “雲叡(うんえい)” によるアップデートが入りました」


 ――


 雲叡。誰に教えられたでもないその存在は、心を無に近づけた状態でのみ、うっすらと感じ取ることができる。

 雲叡はこの世界の(ことわり)に縛られることのない、はるか高次元の存在であるように感じる。

 俺がトロフィーという概念を知覚できるのは、恐らくこの雲叡という存在が干渉しているからだろう。

 はるか遠く、それこそ()の上のような所から一方的に()()を授けるような存在であるそれを、俺達は無意識のうちに「雲叡」として知覚していた。


 ――


「ふむ、やはりツナコ、お前も雲叡の干渉を受けていたか」


「はい。そしてその雲叡の干渉によって、先ほど我々に未取得のトロフィーが大量に追加されました」


「ウヅキさん、これまで雲叡の干渉を受けてきたあなたになら、この意味が分かるはずです」


「このトロフィーの追加は、 “導き” であると……!」


 ツナコがそういった直後、シランが何かに気づいたような表情をしながら柄だけになった聖剣を構えた。


「お前達、武器を構えろ、囲まれている」


 シランにそう言われ、周囲を見渡すと、我々は100匹ほどの魔物に囲まれていた。

 この魔物はヘルハウンドと呼ばれる、(たち)の悪い野犬のような存在であり、集団で狩りをする。

 通常、人前に姿を現すことはそうそうない魔物だが、魔物達の視線から察するに、どうやらツナコの冷凍マグロの匂いに誘われてやってきたようであった。


「なるほど、どうして魚に関連したトロフィーがあるのか疑問でしたが、こういう展開に導くためだったんですね」


 ツナコはそういうと冷凍マグロを鞘からだし、構えて見せた。

 ツナコは喋り方こそ余裕ぶっていたが、焦りが表情から伝わった。

 ツナコの顔や手には汗がしたたっており、強く握った冷凍マグロのグリップは、汗と混ざって半解凍の状態だった。


「呑気なことを言っている場合ではないだろ、尋常ではない数だ」


 剣士の(さが)か、もはや武器としての能力が完全に喪失したであろう聖剣であっても、シランはそれを握り、決して諦めないという覚悟に満ちた目をしていた。


 本来なら真剣な命のやり取りとなるであろうこの状況も俺からすれば日常の延長だった。

 戦闘不可避の臨戦態勢という状況で、俺はやれやれといった表情で髪の毛を片手でくしゃっと潰しながら唱えた。


「超低級火炎魔法 弱フレイム」


 直後、俺達を囲んでいた魔物はすべて消し炭になった。

 あまりにもあっけないその戦闘にツナコとシランは愕然としていた。


「ウヅキさん、強いのは分かっていましたがまさかここまでだったとは」

「今のはなんだウヅキ、お前…何をしたんだ……!?」


 2人の畏敬あるいは畏怖の念に満ちた視線を一身に浴びる俺は、振り返って言った。


「何って、普通に魔法を使っただけだが?」


 弱フレイムによって燃えた周囲の木々が、俺の背後からの光源となり、2人から見た俺は逆光効果でとても神々しく見えていることだろう。


「ありえない、弱フレイムは焚火の火種に使うようなごくごく小さな火だ。言うなれば非戦闘系の魔法……!!」

「だが、お前の今の魔法は明らかに桁違いの威力じゃないか!!」


「ウヅキさんがある程度強いことは分かっていましたが、今の魔法の威力は尋常ではありません。」

「後学のために、教えていただけませんか、その威力の秘訣を」


 2人の疑問に何か気の利いた答えでも用意できればいいところだったが、生憎(あいにく)俺が提供できるのは、面白みのない事実だけだった。


「秘訣?そんなものは特にないな」

「まあでも強いて言うなら、俺は魔王を倒してからの2年間、

“ずっとレベル上げ(レベリング)をしていた ”ってことぐらいか」


「……」


 しばらくの沈黙が続いた後、シランが怪訝(けげん)な面持ちで尋ねる。


「ウヅキ、お前……レベルいくつなんだ……?」


「さあな」


 俺は少し遠い目をし、燃えている周囲の木々からあがる白い煙に目をやった。

 煙はまるで狼煙(のろし)のようにあがり、遠くにいる誰かを呼ぶかのように高々と空に広がっていた。


「そこのお前達」


 狼煙に呼ばれたのか、厳つい男達が俺達の前に現れた。

 男達の数は10名ほど。その胸には「森林管理組合」とかかれたワッペンを付けていた。

 男達の中でも特に大柄な者が俺達を指差し、ドスの利いた声で話し出した。


「森林において、その産物を許可なく伐採、採取したものは森林窃盗とし、懲役5年または金貨100枚の罰金に処する」


 法学に疎い俺にも、これが法律の条文を読み上げているであろうことはなんとなくわかった。

 そして今の俺達は、その森林窃盗とやらの容疑者になっているであろう状況も同時に把握した。


 大柄な男は条文を読み上げた後、先ほどより少しだけ優しい声で話を続けた。


「察するに、やむにやまれぬ事情があったのかと」

「事情を聴取する必要がありますので、全員、捜査機関への出頭を願います」


 魔王を倒した功績により、顔が知れている俺とシランは、下手に逃げて指名手配されるわけにもいかないので、おとなしく出頭要請に応じるしかなかった。


「ふむ、皆さんが出頭要請に応じるというのであれば、私も応じるとしましょう。運命共同体として」


 そう言うツナコは、今回の騒動の元凶である。

 俺はいざとなったらこいつに懲役に行ってもらおうと考えていた。 



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