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Episode 23  春の嵐

*登場人物

・池崎正人

偏った遅刻癖の問題児。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。様々な人間関係にもまれて成長していくが。


・中川美登利

中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。並々ならないこだわりを学校に持ち、そのために周囲を振り回す。


・一ノ瀬誠

生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。


・綾小路高次

風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?


・坂野今日子

中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。洞察力に長け、容赦なく相手を攻撃したりもする。


・船岡和美

中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。明るい性格だが、今日子と同じく洞察力にすぐれるゆえ人間関係に疑問を持つこともある。


・澤村祐也

文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。


・安西史弘

体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。


・森村拓己

正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。


・片瀬修一

正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。


・小暮綾香

正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。恋愛に積極的で入学早々に「開校始まって以来のプレイボーイ」佐伯裕二と付き合うが。


・須藤恵

綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。

 春が来た。桜の花びらが舞い落ちる。

(一年、経ったんだ)

 体育館で入学式の椅子の片づけをしながら池崎正人は思う。

 この度二年生に進級した。寮にも新入生が入ってきて先輩と呼ばれた。少し嬉しい。

 作業の後、進路指導室前の廊下に張り出された各大学合格者の名簿を見に行った。

「佐伯先輩K大受かってる」

「やればできるタイプの人だもん」

「今年はT大合格者が少ないって教頭が話してたな」

「そうか、来年はどうだろう。一ノ瀬さんと綾小路さんと杉原先輩あたり確実として……」

「風紀委員長はK大じゃないか?」

「ああ。そうか」

 目を上向けて唇をかみしめてから、森村拓己が恐る恐るという感じに口を開く。

「美登利さんはどうするんだろう」

「さてな」

 頭の後ろで手を組んで片瀬修一がうーんと伸びをする。すぐ後ろに人がいたのに気がついてびくりと振り返った。

「なんだ?」

 正人と拓己も後ろを見る。徽章リボンを胸に付けた男子生徒。とても背が高い。

「きみ、一年生だろ? まだ帰ってなかったの?」

 拓己が問うのに無言で頭を下げ、その一年生は昇降口の方へと向かった。

「ヘンな奴」

 小声で片瀬がつぶやいた。


「へええ、綾の字と官房長が仲良くなるとはねえ」

「武道に限らず多種多様に交流していこうって話を進めてるって」

「やるのう、綾の字も」

「うちの代では形にならないかもしれないけど」

「後進に託すってか」

 ベンチの背にもたれて中川美登利は微笑んだ。

「そうだね」

 屋上庭園の花壇ではチューリップが色とりどりに咲いている。ちょうちょが飛んできたりして、なんとものどかだ。

 だが、そうそうのんびりもしていられない。また忙しい日々が始まる。

「去年の一年見たときはさ、いろんな意味で小粒だなあって思ったけど、今年は一人でっかい子がいたね」

 船岡和美が言うのに坂野今日子が名簿を繰りながら答えた。

「平山和明。市内第四中学出身です」

「ふーん、まずはバスケ部バレー部あたりに目をつけられそう。背が高い男は二割増しって言うしな。佐伯先輩の後釜狙えるかな」

「二割増しですか」

「雰囲気、雰囲気。ねえ美登利さん」

「見下ろされるのはキライ」

「ああ、うん。そうだね……」

「和美さんが男子の話するなんて珍しい」

「だってさ、女子がパッとしないんだもん。去年は須藤っち小暮っちと豊作だったからな」

「高校デビューはこれからでしょう」

「いいなあ、楽しいだろうなあ、やつらは今」

 はあっと和美は息をつく。

「高一と高三とじゃ、こんなに違うものなんだね」

 美登利も今日子も沈黙することでその感慨に同意した。



 翌日の生徒会入会式で事件は起きた。件の新入生、平山和明が委員会説明のため壇上に立った中央委員会委員長に向かって叫んだ。

「中川美登利! オレはあんたが好きだ! 付き合ってくれっ!!」

 しんと恐ろしいほどの沈黙が下りた後、一年生たちがどっとやんやの歓声をあげた。彼らと同じ新入生が早速かましてくれたのである。内進組で三大巨頭の恐怖を知る者も、だからこその勇敢な行動に拍手を送る。

 その場にいた数少ない上級生たちはといえば、凍りついたり、呆れたり、にやにや笑ったりしながら中央委員長のアクションを待った。

 しかし彼女が動くより先に、放送席の船岡和美がマイクを取った。

「相手を選んで言えよ、馬鹿野郎! おとといきやがれってんだ、このすっとこどっこい!!」

 キーンと残響が響く体育館内で一年生たちが固まる。

 そして上級生たちはといえば。ある者は空を仰ぎ、ある者は肩を震わせ笑いをこらえていた。


「すみません、本当にごめんなさい」

「まったく」

 肩をすぼめる和美に綾小路が腕組をしてため息を落とす。それはまだいい。我慢ならないのはその横で笑い転げているふたりである。

「和美さん最高っ。もう、だめ、おなかいたい……」

「ひさびさに……こんなに笑った……」

 一ノ瀬誠などむせながらまだ笑っている。このバカップルが、と和美は殺気を覚えそうになる。当事者はあんたらだろうが。

「ああ、ほっぺたが痛い……」

 頬をさする美登利に今日子がお茶を差し出しながら問う。

「どうしましょうかね? あの馬鹿な一年生。なんなら私が」

「いいよいいよ、放っておきなよ。また来るなら追い返すからさ。おとといきやがれって」

「やめろって……」

 彼女の肩を掴んで誠が腹を抱える。今度は今日子まで一緒になって笑いだすのにカチンときて和美は中央委員会室を飛び出した。

 怒りのままにずかずかと歩いていると三階の渡り廊下で文化部長澤村祐也と行き会った。

「ああ、船岡さん。さっきはすごかったね」

「お願いだから忘れてください」

 今ほど穴があったら入りたいと思ったことはない。

「どうして? かっこよかったよ」

 にこにこと澤村は和美を褒める。

「気分がよかった。ほんとだよ」

「う、うん……。えと、澤村くんは部活?」

「うん、ほら。楽器のできる子たちが入学してきたからさ、音楽部、形になりそうだよ。文化祭まで頑張らないと」

「最後だもんね」

「……うん」

 少し寂しそうな微笑み方が中川美登利のそれと同じで。何かふたりだけに共通するものを感じ取って和美は胸が痛くなる。

 幼馴染の歴史の中で、一ノ瀬誠とも宮前仁とも違うものを彼は彼で持っているのだ。

(ずるいよ)

 どうしたって和美は思ってしまう。自分だって、もっと早く出会っていたかった。



「何年かに一度はああいうバカが出てくるんだ」

 屋上でおにぎりを食べながら拓己はぷりぷりと話す。

「慣れっこだから大丈夫だろうけどさ。腹立つよ、やっぱり」

「怒りながら食べると消化に悪いよ」

 須藤恵に言われて拓己はふっと肩の力を抜く。

「そうだね、ごめんね」

 ふるふると恵は首を横に振る。

 拓己は別のベンチで昼食を食べている正人と小暮綾香の方を見た。おにぎりを頬張る正人の顔を見て綾香が笑っている。

「うまくいってるよね」

 恵が拓己に訊く。

「うん……」

 頷きながら拓己は別のことを考える。

 平山和明は、おそらく美登利本人に切り捨てられて終わりだろう。好きだ好きだとわめいたところであの冷たい笑顔で「私は違う」と言われればそれまでだ。

 それでも食い下がって彼女が眉をひそめようものなら、坂野今日子が容赦なく叩き潰す。誠が出てくることはまず考えられない。だけど宮前は、

 ――やめさせろよ、絶対に。

 あんなに正人を心配していた。

(どうして)

 思い返せば最初からそうなのだ。最初から美登利は正人を気にかけていた。それで誰もかれもが正人に注視して一目置いて。

 今では、宮前が案じるくらい脅威を与えている?

(まさかね)

 拓己は自分の考えに自分で嗤ってみる。

「いいお天気だねえ」

 恵がお茶を飲んで花壇を眺める。

「ちょうちょだ。かわいい」

「モンキチョウだね」

 パンジーに留まっていたのを両手で掬い上げる。恵の横で手を広げるとふわふわとまた花壇の方へと飛んで行った。

「あれ、アゲハチョウまで飛んで来た」

 ひらひらと拓己たちの前を通りすぎてチューリップの花壇の方へ行く。

 恵がおもしろがって綾香に教えに行く。

 紫色のチューリップに留まった大きな翅を正人がひょいと掴んで捕まえた。本当に、あまりにも無造作に。

 女子ふたりに何か言われて正人はすぐに蝶を放した。ひらひらと花壇に戻っていく。

 その様子を見ていた拓己の口から思わず言葉がこぼれていた。

「ぼく、本当はあいつが嫌いだ」

「え……」

 戻ってきた恵が聞きとがめてぎょっとする。

「……」

 ――だからって、自分までくだらない人間みたいになっちゃうのは、違うんじゃない?

 誰かのせいなんかじゃない、自分自身の問題。

 ふうっと息を吐いて拓己はにこりと顔を上げる。

「なんでもないよ。そろそろ部活行った方がよくない?」

「そうだね。綾香ちゃん!」

 荷物をまとめてペントハウスに向かうと、ちょうど船岡和美が出てきた。

「池崎くん、ちょっといい?」

「おれっすか?」

「うん」

 それで拓己たちは先に行ってしまった。

 和美はベンチに座らずにジャケットのポケットに手を入れてフェンス際に寄る。その背後に正人はなんとなく後ろで手を組んで立つ。

「あたしさ、澤村くんが好きなんだ」

 へえーと適当に相槌を打ちそうになって正人は声を飲み込む。

「でも澤村くんは美登利さんが好きで、かわいそうなくらいそーっと美登利さんを想っててさ。その人にあんなふうに無神経に告白するやつが許せなくて、暴走しちゃった」

 はは、と乾いた笑いを落として和美は正人を振り返った。

「あたしはさ、外部入学組だからあのヒトたちとはそこまで付き合い長いわけじゃないのよ」

「……」

「澤村くんには入学してすぐ一目ぼれでさ、もうすべてが好みで、好き好きって思っちゃって。告白したけど好きな人がいるからって振られて。その相手があれでしょう? もうなにも言えなかったね」

 でもさ、と和美はくちびるを尖らせる。

「様子見てたらなんともイライラもやもやしちゃって。付き合ってるわけでもないのになんであんな空気出しちゃってるのって、無責任じゃないのって。それで文句言いに行ったんだ、あたし」

 すごいでしょ、と苦く笑う。

『あのさ、あんたに言いたいことがあるんだけど』

 きょとんと和美を見上げる美登利の横で今日子がじろりと和美を睨む。

『ちょっとさ、ひどいんじゃないの? 澤村くんのこと』

『あなたなに言って……』

『うるさい。あたしはこの人に言ってるの! 何様なのホント、彼氏いるくせに自分に気のある男に思わせぶりな態度で引っ張りまわして。女王様ですか、あんたは』

 目を丸くして和美が罵るのを聞いていた美登利は開口一番こう言った。

『あなた声がきれい』

「なんなの、この人って絶句だったよ」

『話もとても上手。ねえ、放送部やらない?』

『は、あんたなに言って……』

『澤村くんを好きなら私のそばにいた方がいいよ』

『……』

『そう思わない?』

「なんていうか、もう恐怖? それしか感じなかったよ、あのときは」

 打算で妥協して自分に協力しろと堂々と脅されたのだ。そんなに澤村を好きならば。

「でもさ、あたしも計算はできる方だから、それもいいかなって思っちゃった。近くにいて陥れる機会があるならそれもいいかもって。なのに気がついたら、あたしの方がハマっちゃってた」

 泣き笑いのような表情になって和美はまたフェンスの方を見る。

「あんなに美人なのに男前で、怖いけど優しくて、狡くて強くて、賢いのに抜けててさ。やること滅茶苦茶で意味わかんなくて、一緒にいると楽しくて。でも時々憎たらしい。あたしはやっぱり澤村くんが好きだから」

 ふうーと息をついて和美は空を仰いだ。

「でも今となっては美登利さんを責める気にもなれなくてさ、それで一ノ瀬くんに嫌がらせしてやるんだけど、あの男がまた強くて強くて。まったく動じないんだ、これが。腹が据わってるというか、覚悟が決まってるというか」

「……」

「もう正直あたしにはあのヒトたちのことはわからんわ。美登利さんにしたって、本当のところ誰を好きなのって思うときあるし」

 正人はもう相槌も打てなくなっていた。あまりの情報量に混乱してしまって。

 澤村は美登利を好きで、それは見ていればわかった。美登利も澤村を好きなのかと正人は思っていたのだが。

 ふと目線を下げて正人はつぶやく。

「噂をすればですよ」

「え」

 三階の渡り廊下、窓越しに一ノ瀬誠と澤村祐也がかち合うのが見えた。見るからに和やかに談笑している。

「笑ってるっすね」

「ああ、もう訳わかんない」

「なんでおれに、こんな話したんすか?」

「……池崎くんは、違うよね?」

 は? と正人は目を瞠る。

「違うよね?」

「なにが」

「美登利さんを好きじゃないよね?」

「ば……っ」

 泡を食う勢いで正人は叫ぶ。

「決まってるだろ、そんなのっ」

「好きじゃないんだね」

「決まってるだろ……」

「よかった。あんな人好きになっても、いいことないからね」

 歩き出しながら和美は言った。

「せっかく可愛いカノジョがいるんだから大事にしなよ」

 言い捨てて、すたすたとペントハウスを抜け階段を下りていく。

 ――中川先輩、誰と乗ったのかな。

(誰って……)

「そんなの、関係ないし」

 ひとりごちて、正人はぐっとこぶしを握った。



 翌朝。

「やあやあ、中川委員長。相談があるんだがね」

 体育部長安西史弘に呼び止められて、中川美登利は眉をひそめる。大体が安西の相談はろくなことがない。

 やっぱりな内容に美登利はため息をついたが、仕方がないと頷いた。

 昼休み。ピロティーに人だかりができている。パックのお茶を飲みながら池崎正人は拓己とふたりで近づいてみる。

 中心には中川美登利がいた。今日子と並んでその後ろに控えた片瀬が正人たちに向かって目くばせする。ぴくっと拓己が反応した。

 後ろからやって来たのは安西と尾上貞敏だ。ふたりに引っ張られて一年生の平山和明が連れてこられた。

「やあやあ、お集まりの諸君」

 おもむろに日の丸の扇子を開いて安西が声を張り上げた。

「ご存知のようにわが校は、祭りの時期を迎えようとしている。諸君が心置きなく準備に集中できるよう、皆の懸念事項をひとつこの場で取り除いておこうと思う。さあ、平山くん!」

 閉じた扇子で中央委員長を差して安西はにやりと笑う。

「舞台は上々、思いの丈をぶつけてくれたまえ」

 まわりの観衆から頭一つ突き出た平山和明が中川美登利の前に立つ。

「昨日はすみませんでした」

 長い体を折って頭を下げる。

「改めて言います。オレと付き合ってください!」

「いいよ」

 ざわめきと共に和明が「は?」と顔を上げる。

「私に勝ったらね」

「そんなの……あんたはケンカだって強いし」

「そう、だからじゃんけんで勝負しましょう」

 こぶしを目の前に翳しながら美登利はにこりと笑う。

「じゃんけんは平等だからね。あなたが勝ったらお付き合いしましょう。ただし、あなたが負けたらそのときは、下僕になってもらうよ」

 正人と拓己はこっそりと視線を交わし合う。

「いいぜ。じゃんけん勝負で」

 和明の返事に美登利は満足そうに微笑む。

「これはもう、美登利さんの必勝パターンだね」

 小声で拓己が言う。

「でもじゃんけんだろ、勝率百パーセントってわけには……」

「持ってくんだよ、勝率百パーセントに」

 小声でつぶやく正人の後ろからやっぱり小声で一ノ瀬誠が会話に入ってきたから、ふたりはびくっと飛び上がった。気配なく後ろに立つのはやめてほしい。

「最初はグーでいくよ。いいかい?」

 安西が進行するのを遮って美登利が言った。

「そしたらね、私はパーを出す」

 目の前でパーの手を出して笑う。あからさまに和明が動揺した。

「……じゃあ、いくよ。最初はグー、じゃんけんぽん」

 和明はパー、美登利はチョキ。

「あら、勝っちゃった。あなたはチョキを出すだろうからあいこかと思ったのに」

 チョキの指を上げたままにこっとする美登利を和明は呆然と見る。

「勝負あったね」

 安西が声をかけたが返事がない。美登利が偉そうに腰に手をあて提案した。

「納得してないみたいだからもう一回やる?」

 こっくり頷いて和明は拳を上げた。

「オレはグーを出す!」

「ふうん。それなら私はパーを出すよ」

 まさかの宣言返しにただただ絶句する。

「いくよ、最初はグー、じゃんけんぽん」

 和明はパー、美登利はチョキ。

「あら、また勝っちゃった。グーを出すって言ったくせに」

 もはやその笑顔は悪魔にしか見えない。

「もう一回」

「いいよ」

 こうして何度も何度も対戦が繰り返されたが、和明はあいこどころかただ負け続ける。

「ね、言っただろ。じゃんけんは心理戦だからさ、ああなったら終わりだね。彼は絶対に勝てないよ。なにしろあいつは、とびきり性格が悪いから」

 小声で言いながら誠は安西に目線を送る。安西は肩を竦めて扇子を仰いだ。

「さあさあ、これで納得したかい? じゃんけん勝負は中川委員長の勝ち。これで終了!」

 体育部長の宣言に野次馬たちはばらけて行った。

「そういうわけで、あなたは下僕だね。平山くん」

「やあやあ良かった! 君のことは体育部会で迎えたいと思ってたんだ」

 安西の言葉に副職の尾上ががっしりと和明の腕を取る。

「まずは体育祭で応援団をこなしてもらう。頼んだぞ」

「ええ!」

「安西の下僕として頑張って」

 にんまり笑う中央委員長をただただ見つめて平山和明は引きずられていく。

 その光景を屋上から眺めていた澤村祐也が隣の和美に向かって言った。

「ね。結局みどちゃんは自分でどうにかしちゃっただろう。いつもそうなんだ。僕がしてあげれることなんて、もういくらもないんだ。あとはそう、みどちゃんが望む通りの最後になるのを見届けるだけ」

 それしかできないんだ。寂しそうに笑う彼に、和美もやっぱりなにもできない。

 みんなが誰かを想っていて、寂しくて、優しくて。

 なのにどうしてこんなに、みんなが切ないのだろう。涙が出るんだろう。苦しいのだろう。

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