Episode 22 里山の春
*登場人物
・池崎正人
新入生。偏った遅刻癖で問題児となるが、持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。様々な人間関係にもまれて成長していくが。
・中川美登利
中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。並々ならないこだわりを学校に持ち、そのために周囲を振り回す。
・一ノ瀬誠
生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。
・森村拓己
正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。
・宮前仁
美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。
・錦小路紗綾
綾小路の婚約者。京都に住んでいる。美登利とも仲が良い。
「池崎くん。この長靴を使ってね」
朝食の後、森村拓己の母が持ってきた黒い長靴を見て池崎正人は首を傾げる。
(長靴?)
「タオル巻いてった方がいいぞ、汗かくからな」
(汗?)
「鍬はおじいちゃんが庭に出してくれてたから間違えないでよ」
「刃の長いヤツでしょ、見てわかるかな」
(鍬?)
「よし。行くぞ、池崎」
「どこに?」
竹林だった。ということは、これから行うのはあの重労働と名高い……。
「おっせーよ」
竹林の中から怒鳴られた。
「おらおら、さっさと掘りやがれ」
宮前仁だった。一ノ瀬誠まで来ている。
「いいか、タケノコ堀は奴らとの競争だ。そしてこの山を守る戦いだ。根性入れろよ」
「奴ら?」
「イノシシだよ。頭出てるか出てないかのまで掘り返すからさ、とにかくこっちが先に掘りつくさないと」
「競争するか? 午前中誰がいちばん数掘れるか」
「余計なことしないで丁寧にやれ。売り物にならなくなったら怒られる」
「女将さん怖いからな」
宮前は肩を竦めて作業に戻った。正人も拓己にコツを教わりながら始めた。
聞きしに勝る重労働。タケノコを探して斜面を歩き回るのも大変、傷つけないよう神経を使いながら地面を掘るのも大変、方向を見極め掘り起こすのも大変。
それでもどんどん収穫できるから、だんだんおもしろくなってきた。園芸部の手伝いをしていたときにも思ったが意外と自分にはこういう作業が向いている。
気がつけばすっかり日が高くなっていた。
「おーい、袋持ってきたよ」
「運んだら昼休憩にしよう」
中川美登利と淳史がやって来て、皆で袋に詰めたタケノコを拓己の家まで運ぶ。これがまた重労働。
おかげで昼食のおにぎりがやけに美味しかった。
「これ、おまえが握ったんじゃないよな」
「残念ながら」
「おまえの作ったものなんざ二度と口に入れないからな」
「五年に一度あるかないかの僥倖だから安心しなよ」
「自分で言うな。つうか五年たったら喉元すぎればでオレがまた食うと思ってんだろ」
「うん」
宮前と美登利が言い合いを始めると誠はいつも黙る。不思議な三人だ。
――一ノ瀬さんなんかちょっと突き放した感じがするけど。
拓己はそんなふうに言っていたけれど。
「午後は私も手伝う」
「おまえがやるのは見つけるまでだろ」
「踏み踏み要員を馬鹿にしない方がいいよ」
その通りだった。
落ち葉で隠れていて見つけるのも一苦労だったタケノコの頭を美登利が次々に発見していく。密集しているのを隙間を掘っておいてくれるから格段に作業の能率が上がった。
「よしっ」
密集していた五本を綺麗に掘り起こせて正人は満足する。
辺りを見回すとやたらと低い位置に中川美登利の頭が見えたので、ぎょっとしてそちらに寄っていく。
「足元、気をつけて」
言われなければ気づかなかった。美登利が立っている雑木林の方に向かって大きな段差ができていた。
「危ないね。目印付けておかないと」
彼女が立っているのもやっぱり斜面で、かなり下の方に車道が見えた。そっちの雑木林の方にもタケノコが頭を出しているのが見えた。
「地下茎が伸びてるのか」
遠足のレポートで調べたことを思い出した。
「うん。すごいよね、外来種って。こっちも獲っておかないとどんどん侵略されちゃう」
それで宮前が「山を守る戦い」などと言っていたのだ。
「こっちは明日にして、今日はそっちを片づけよう」
美登利が段差を登ろうとするので正人は手を差し出した。
「気が利くね。さすがカノジョがいると違うな」
「うるせ」
「ありがと」
手を握ったのは一瞬。驚くほどの軽さで美登利はとんと正人の隣に立っていた。そのまま斜面を上がっていく。
遊園地で何度か小暮綾香に同じことをした。乗り物を降りるのに手を貸すと綾香はそのたびに嬉しそうな顔をして、握った手に確かな重みと体温を感じた。
それとはまるで違う。本当に身が軽い。
(羽でも生えてるみたいに)
なんの余韻もなく離れていく背中に正人は見入っていた。
「裏山を守る会二日目だ! 今日も気合いだっ」
不必要にテンションを高くしようとしているのは自分が飽きているからに違いない。わかっていたから宮前の号令に誰も合いの手を入れなかった。
今日は朝から美登利も作業に加わる。
「今日の午後はお楽しみがあるからね」
にこにこしながら言っていた。
雑木林の中のタケノコは発見しやすいが地面を掘るのが大変だ。
また黙々と作業をしていたら、斜面の上から「げ」と拓己が吐き捨てるようにつぶやくのが聞こえた。
「拓己じゃん」
正人のすぐ脇のけもの道を地元の高校生らしい少年が歩いて来た。
「手伝ってやろうか?」
「いや、大丈夫」
ふんと鼻を鳴らして拓己から顔を逸らした少年だったが、今度は彼の方が「げ」と吐き捨てた。
「翡翠荘の女! 人のこと穴に落としやがって、よくも涼しい顔して毎年来れるな」
「なんのことだか記憶にないんだけど」
本当に覚えてなさそうな美登利の表情に拓己は苦笑する。
もちろん少年は納得しなかった。
「ちきしょう、他にも証人連れてきてやる」
ショートカットで斜面を下りようとするので正人たちは慌てた。
「馬鹿! よく見ろ、そっちは……」
言わんことではなかった。目印をしておいたにも関わらず少年は足を段差に取られて転がり落ちた。
斜面をそのまま車道まで落ちたりしたら大惨事だ。正人はとっさに少年の足に飛びついた。
片腕で彼の足を抱え込み自分も滑り落ちそうになりながら斜面の地肌から飛び出ていた枝をもう片方の手で掴む。ぱきっと敢え無く枝が折れた。
(マジかっ)
頭が真っ白になったとき、空を切る正人の手を段差から身を乗り出した美登利が掴んだ。
両手で正人の手首を掴んで踏ん張るひざ元が崩れ、彼女も落ちそうになる。
その腰を走り寄ってきた誠が抱き留めた。
「大丈夫!?」
拓己と青ざめた宮前も走ってきて、どうにかこうにか全員が引き上げられた。
すんでのところで頭が走行するトラックに届きそうになっていた少年は目を回して倒れ込んだ。
「池崎……無茶するなってホントに……」
涙目になりながら拓己が言うのに、美登利も額を押さえて首を振った。
「ほんとだよ」
「あんただって」
「私は池崎くんだから助けたの! そんな見ず知らずの奴に体張ったりしない」
「俺も」
身もふたもなく言い放つ幼馴染ふたりの横で宮前が苦笑する。
「人が良すぎだよっ」
「まあまあ、それがこいつのいいところだろ」
トラブルがあったものの、雑木林のタケノコもどうにかこうにか取りつくして、今度は翡翠荘にそれらを持って引き上げた。内庭の縁側で遅めの昼食をもらって解散になった。
「疲れた」
「ゴメンネ、あとはもうゆっくりできるからね」
「泊まらせてもらってんだし、これくらいなんでもないけど」
正人と拓己が車道から林の脇道に入ろうとしていたところを、車のクラクションが呼び止めた。ワゴン車から淳史が顔を覗かせる。
「ふたりとも、おつかれさま」
「なんだ、その恰好は」
驚いたことに後部座席には綾小路高次が乗っていた。更に横から顔を覗かせたのは、
「あんたはいつかの失礼なオトコね」
黒髪に白いワンピースの美少女、錦小路紗綾嬢だ。
また出たこのガキ、と顔を引きつらせる正人に紗綾はふんと眉をひそめてみせた。
「いらっしゃいませ」
「美登利! 元気だった?」
「元気だよ」
「たくさん遊べる?」
「もちろん。紗綾ちゃんが借し切ってくれたから逗留中は紗綾ちゃん専属です」
「あら、いい響きね。なにをして遊ぼうか」
機嫌よく部屋に向かう紗綾の後ろで美登利は綾小路を見返る。
「男どもは疲れて寝ちゃってるけどどうする?」
「急いで見たい顏でもなし、かまわない」
「ふたりですごしに来たんだもんね」
「当分、我慢してもらうことになるからな」
新学期が始まれば三年生。イベント続きの一学期が終われば受験シーズンにまっしぐらだ。
「ねえねえ、美登利。わたし海に行きたい。夕日を見たいの」
「いいよ。まだ時間が早いから少し休憩してからね」
そういうわけで夕方になってから美登利と紗綾は浜辺に出かけた。神社からの方が水平線に溶ける太陽が見えて綺麗だが、紗綾は波打ち際に行きたいと言った。
「海の匂い!」
「そうだね」
両側を磯に挟まれた小さな入り江の砂浜は波も静かで穏やかだ。
普段は人もいないそこに森村拓己と池崎正人が来ていた。
「また会っちゃった」
「まあまあ」
「美登利さん」
ちょうどよかったと拓己が駆け寄ってきた。
「さっきあいつから電話があったんです。ありがとうって」
「それはそれは」
「明日みんなで磯釣りすることになりました」
「良かったね」
「まあ、はい」
太陽が水平線に近づくとそこから段々と空がオレンジ色に変わっていく。
「あらら、やっぱり岩場の方に沈んじゃうね」
「それでもキレイ」
まぶしさに手を翳しながら夕日を見守る。
きれいにまとめた美登利の髪の間で何かが光っているのに正人は気づいた。見る角度を変えてみる。蝶の形の髪飾りがオレンジ色の光を反射していた。
「あれ見て、アゲハ蝶」
ちょうど紗綾が叫んだからびっくりした。
黒い羽根のアゲハチョウがふわりふわりと浜辺を横切り、オレンジに染まる磯の潮だまりに近づいていった。
「水を飲みに下りてきたのかな」
拓己がぽつりと言う。
「一匹だけ? 仲間は?」
その場にしゃがみ込んだ美登利を見て紗綾がくすっと笑った。
「違うわ。美登利の髪にもいるじゃない。キレイね、それ」
ああ、とそれに触れてから美登利は嬉しそうに微笑んだ。
夕食後、淳史の部屋で男だけのトランプ大会が始まった。
「もう、やだ。君らみたいな性格悪い子たちとは遊べない」
ペナルティーの点数がどんどん溜まっていくのに辟易して淳史はひっくり返った。
「四人いないとつまんないよ。ねえねえ、淳史さん」
「わかったわかった。お茶淹れるからちょっと休憩」
あぐらをかいたまま上半身を後ろにのけぞらせた宮前は「ん?」と本棚から飛び出ているクリアファイルに目を止めた。引っ張り出してみる。
「え、これ中川兄妹?」
チラシの写真に宮前は驚く。
「そうそう、お正月に拓己くんが見たいって騒いでさ、引っ張り出したんだ。仁くん見たことない?」
「ないっすよ。これ、三歳くらいか?」
「そうだな」
「うひゃあ、親とかよく言ってたけど可愛いなあ。なんでこのままでいなかったんだ」
「紗綾の方が可愛いがな」
綾小路の一言に固まってしまった宮前の横からまじまじとチラシを眺めて、誠は思い出してみる。この頃には既に悪魔の片鱗が見え始めていたように思う。高田の「ケッコン」発言が四歳か五歳の頃のことだから。
「オレ記憶にないな。木の棒持って走り回って気に入らないヤツ蹴り飛ばしてる姿しか思い出せん」
「ここの子ら穴に落としたことあったしね」
「昼間の奴が言ってたのマジっすか。まぁやるわな、それくらい」
「そう考えると大人しくなったのか? 今は」
「うんにゃ、より悪辣になった」
綾小路が言うのに宮前はにべもなく吐き捨てる。否定のしようもないから誠は黙って横になった。
「少し寝る」
「おいこら、トランプはっ」
湯船に入ると膝小僧がしみて、青あざの上に細かい擦り傷までついているのがわかって美登利はため息をついた。
「美登利はいつも傷だらけね」
紗綾が呆れて言う。
「せっかくきれいなのにもったいない」
はは、と笑ってごまかすしかない。お湯の中で伸ばした手足は確かに切り傷や擦り傷の跡だらけで。ひどいケガだったわけでもないのに意外と痕は残ってしまうのだと逆に感心する。
「処置が悪かったせいでしょう。ダメだよ、女の子なんだから」
「はい」
どちらが年上だかわからない。
「紗綾ちゃんはさ」
肩まで湯船に沈みながら美登利は訊いてみる。
「男の子に生まれたかったなあって考えることない?」
「ないわね」
きっぱり紗綾は答える。
「考えたこともないわ。だって、そしたら高次と結婚できなくなっちゃう」
「そっか」
「でもそうね、美登利が男の子だったら高次じゃなくて美登利と結婚してたかも」
「それは恐悦至極」
「でもやっぱり、女の子同士で良かったわ。ずっとお友だちでいられるでしょう」
「うん……」
「友だちは人生の宝っていうものね」
美登利はあごをお湯につけて瞬きした。六つも年下の女の子に感動させられてしまった。本当に自分は仕様がない。簡単なことにいつも気がつけない。
「お風呂を出たら見てもらいたいものがあるの。今回来た一番の目的って言ってもいいかも」
頷きながら美登利は嫌な予感を感じ始めていた。
子どもの頃は彼女と手をつなげることが嬉しかった。あたりまえだ、大好きだから。
嬉しい顔も、哀しい顔も、怒った顔も、全部見ていた。笑ったり泣いたりで毎日がすぎて、手をつないでいられることが嬉しかった。
彼女が手を放して巽のところへ行ってしまうのが寂しくて、それでも必ず振り返って自分を呼んでくれるから嬉しくて、一生懸命その手を握った。
だけどあるときから彼女は変わった。嬉しい顔も哀しい顔も怒った顔も変わらない。だけど本心を見せなくなった。
完璧な隠蔽。ときおりこぼれる本音さえ何かを隠すフェイクではないかと思わせるほど。
なにが原因かは知っている。なにを隠したいのかもわかってる。けれど……
「おら、そこの10を早く出しやがれ」
「泣いて頼むなら出してもいいよ」
「パス」
今度は7ならべが始まったらしい。部屋に戻ったのか綾小路はいない。
「くそ、負けた。もう一回」
「はいはい」
肘枕で寝そべった誠の隣で美登利が呑気にカードを切っている。
いつもいつもなにを考えているかわからない顔をして、目の端でどこか別の世界を見ている。
ふわふわと飛んで行ってしまいそうになるのをこらえようと彼女自身必死なのかもしれない。だから時々コントロールを外れた感情がまわりをかき乱す、振り回される。
そんなことにもきっと本人は気づいていない。憎たらしい。全部ぶちまけてしまいたい。
知っている。なにを隠しているのか、誰を想っているのか知っている、と。
けれどそれはしない、絶対に。
そんなことをすればあの男と同じ。彼女を壊したあの男と同じにはならない。自分は違う。
「あれ? 起きてるよ、この人」
「7ならべやるか?」
「ちょっとさ、その前に休憩。コーヒー淹れてくる」
「淳史さん休憩多すぎ!」
がちゃがちゃとなにも変わらない空気感。誰がなにを思っていても変わらないものもある。
ひょっとしたら、彼女が守りたいものは……。
「寝ぼけてる? 寝るなら隣行きなよ」
ひらめきかかったものは、美登利の冷たい指先の感触にかき消された。
「さあて、今日は観光だ! 淳史さんよろしく」
「はいはい。どこでも連れてってあげるよ」
宮前の意味のない叫びに返事をする淳史は本当にいい人だ。
クルマの準備をしていると女将の声が玄関から聞こえてきた。淳史に向かって写真がどうの、幸絵にどうのと大声で言っている。
「レースのスカートなんて久しぶりで破っちゃいそう」
「大丈夫、大丈夫」
紗綾と同じような白いワンピースを着て美登利が表に出てきた。
「仲良し姉妹みたいだな」
「これがやりたかったのよ」
「ちょっと恥ずかしい」
「大丈夫、大丈夫」
にこにこと紗綾は美登利の手を握る。
クルマが走り出してすぐ紗綾は驚いた顔で山の斜面を指差した。
「なあに、あれ? まさか藤の花?」
「そのまさかだな」
「お姫さんは藤棚でしか知らないのか」
「確かに、それなら野生の藤にはぎょっとするよね」
「春だなあ」
お目当ての菜の花畑にたどり着くと、紗綾ははしゃいで駆け出した。
「転ぶなよ」
綾小路が慌ててついていく。小柄な紗綾は菜の花に埋もれてしまいそうだ。
「僕、売店見てくるから」
淳史が行ってしまうと、あとの三人はぼんやりと菜の花の黄色を遠目に眺めた。
「来たことあるな、ここ」
「小学部のときね」
「前はこんなに観光地観光地してなかったぞ」
撮影スポットらしい中央のベンチから紗綾が手を振っている。四方を菜の花に囲まれて妖精みたいだ。
「写真撮ってあげよう」
何枚かシャッターを切ってから、そっちに行く。
花畑の中の舞台を気にしていた宮前がぼそぼそと言った。
「なあ、もしかしたらだけど、今日って……」
言い終わる前に歓声が上った。モーニングコートにウェディングドレスの新郎新婦が現れたからだ。
「あ、やっぱり?」
「素敵! 菜の花畑の結婚式ね」
予期しなかったイベントに紗綾の顔が輝く。
「いいわね、高次。こういう結婚式も」
きらきらした瞳を見開いて紗綾は舞台を見守っている。
誠はそっと美登利の表情を窺う。紗綾とは真逆の水のような表情で新郎新婦を見つめている。赤の他人が結ばれ家族になる様を見つめている。
「……っ」
風が吹いて帽子が飛ばされそうになり、美登利は慌てて抑える。
またそうなる前にと思ったのか帽子を脱いで胸に抱えた。まとめた髪の間でかんざしの蝶が青く輝いているのが見えた。
視線に気づいて美登利が誠を見る。
「覚えてる?」
尋ねられたが、とっさにはなんのことだかわからない。思い出なんていくらでもありすぎる。
美登利はただ微笑んで菜の花畑に背を向けた。




