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『…ああ……。それは大丈夫ですよ。どのみちもうじき来賓客の方々にも挨拶することになりますから』


今になってルデゼルータ殿下の発言を思い出す。


違和感の残る発言だったけれど…まさかこんなことを仕組んでいただなんて……。


それに気づいた時、様々な疑問や違和感も全て理解できた。


最初からこうなるように、生誕パーティーの日付も"わざと"一日違う日付で教えてきたんだわ。


話し合いの時間を取れないようにするために。


基本的に、他国や遠い土地のパーティー等に出席する場合は、前泊することが多い。ましてや、到着時間も夕方頃になることが多く、実際私達も今回は夕方頃に到着した。


だからこそ一日違う日付で教えてきても前泊するならば、パーティー当日の夜には間に合ってしまうし。


それを見越した上で念のためにも前泊を促す文章も手紙に書いていたんだわ。


話し合いを了承するというような内容の手紙も真っ赤な嘘で。


私達の予定していた通りに、パーティーの前日にきちんと前泊できていれば、話し合いの時間を設けてもらうことができたはずだけど、それを阻止するためにわざわざこんなことを仕組むだなんて……。


更に、外堀を埋めるために、私に絶対ルデゼルータ殿下からの求婚を受けさせるために、このような場で私を結婚相手として紹介して、婚姻を強行突破するつもりなのね……。


きっとこんなことになったのも、すぐに求婚を受け入れず、話し合いをしたいだなんて手紙で言ってきたお父様が、話し合いで求婚を断ろうとしていたことは、こちらにはとっくに気づかれていたということだったんだわ。


そしてこんな思惑を思い付いて実行した。


こんな思惑、無茶苦茶過ぎる。


…けれど、実際にその思惑通りになってしまった。


もうこうなってしまった以上は、私達…私に残された選択肢は一つしかなくて。


このまま皇后殿下にご紹介され、求婚を正式に受け入れるしかない。


私は静かに小さく息を吐いて目を閉じて、覚悟を決めた。



……ゾイス様、ごめんなさい。

貴方からの求婚、とても嬉しかったです。

一瞬だとしても貴方と過ごす未来を想像できて、私は幸せでした。



「行こうか」


ルデゼルータ殿下が私の手を離し、その代わりに肩を抱き寄せられた。


私は目を閉じたままそれを受け入れた。



「それではご紹介いたしますわ!……サンカリュア王国の第五…………

!!キャー!!何ですの!?」


皇后殿下が私を紹介しようとしたその瞬間、会場内の照明が全て消えた。




「キャー!!」

「どういうことだ!?」

「何が起きたの!?」


照明が全て消えてしまい、会場内が騒然となる。


私もすぐに目を開けたものの、会場内は真っ暗な闇に包まれていて目を閉じている時と変わらない景色がそこにあった。


来賓客の人々も動揺していて、事態が呑み込めず、パニックになっている。


しかし皇后殿下も悲鳴を上げていたから、これは王宮側が仕組んだことではないということ。


この事態は一体……?



「な、何が起こっている……!?……ローゼ王女殿下、貴方は俺がお守りしますから安心してください!」


ルデゼルータ殿下は私の肩を更に抱き寄せてきたけれど、その力が入りすぎていて痛く感じてしまう程だった。


「い、いた……!」


思わず声に出てしまった。

……その時だった。




「私の"大切な宝石"に触らないでいただきたい」

「えっ……?」

「!?何だ……!?」


突然誰かが囁くような声でそう言った。


私達の傍には誰も居なかったはずなのに。


そう考えていたところで、パチン、と何かの音がする。




そして……一瞬で私はその場から……"消えた"。











「!?!?ええ……っ!?ここは……!?」


突然強い浮遊感を感じて、思わず一瞬目を閉じてしまっていた。


次の瞬間、目を開けると……そこには見慣れない夜景が広がっていて、自分が外に居るのだと気がついた。


そして、私の身体は何故か宙を浮かんでいた。



「ふふ、驚かせましたか?」

「えっ!?」


誰かが、浮遊していた私の身体を優しく抱き留めて、横抱きの状態となった。


私はその状態に顔を真っ赤にしてしまったけれど、その声にどこか聞き覚えがあり、ふと視線を上げた。



私を見下ろす男性はフードマントを身に付けていて、目元だけ仮面をしているけれど、その表情は優しい微笑みを浮かべていることが分かった。


そしてその瞳を見て、私は気がついた。



「…………え、ゾイス様……?」


見覚えのあるタンザナイトのような美しい瞳の色。


優しい微笑みとその声。


何から何まで気がついてしまえば、"あの御方"と重なって見えた。



「はい、ローゼ様」


にこやかに笑って返事をした男性は、私を横抱きしたまま、片手で仮面を取り、被っていたフードも外した。


その顔は見慣れた……ゾイス様本人だった。



「ど、どうしてゾイス様が……」


「奪い返しに来たんですよ

 ……私の大切な宝石を」

「宝石……?」


宝石という単語に、"怪盗"・"ピンクダイヤモンド"という単語を思い出す。


「貴方のことですよ、ローゼ様」

「……私……?」

「ええ、そうです」


どうして宝石が私なのかという疑問よりも気になったことがある。いや、気づいたことがある。


フードマント姿に仮面を身に付け、一瞬であの会場内に現れたと思えば、また瞬時に別の場所に移動できる……それはまるで物語の中の"怪盗"のようで……。



「……もしかして、ゾイス様があの予告状を出した"怪盗ナイト"なのですか…?」


私がそう聞くと、ゾイス様はそれには答えず、静かに微笑み、口元に人差し指を当てた。


返答はなかった。

けれど、その仕草と表情がきっと"答え"だとも感じ取れた。


「どうしてこんなことを……」

「話せば少し長くなってしまいます。

 しかしこの場所ではゆっくり話すには向きません。

 恐らく私に聞きたいことが多くあるでしょうし、場所をまた移動しましょうか」

「え…?移動?」


私がそう聞き返した途端、ゾイス様は微笑みを携えながら、指をパチン、と鳴らした。


その音が鳴った瞬間、私達の身体はまたあの謎の強い浮遊感に包まれた。


先程と同じように一瞬目を閉じてしまい、トン、と何処かに着地したような感覚がし、浮遊感が無くなったところで目を開けた。


そこにはまたしても見覚えの無い空間が広がっていた。

でも先程とは違って、室内だった。


それもサンカリュア王国の王宮内の部屋と変わらないほどの…いえ、むしろ、私の部屋よりも広々としている。


アンティークな調度品が多く、華美なものは置いていない。多くの書物が入った本棚もあり、絵画や綺麗なお花も飾られている。

それがとても私好みで落ち着ける空間だと思った。


少し前までは、アニビア大帝国の王宮の会場で、とてもきらびやかで美しかったけれど、息が詰まるような思いをしていたぐらいだったのに。



「ここは……」

「ローゼ様、どうですか?

 ここは私が購入した屋敷の一室です」

「え、ここはゾイス様のお屋敷なんですか?」


私が驚きながら尋ねると、ゾイス様は微笑みながら頷いた。


「はい、そうです」

「…とても素敵なお部屋ですね」


まさか…!ゾイス様のお屋敷の一室だったなんて……!


とても素敵な空間で思わず見惚れてしまう。


「ふふ、気に入っていただけて良かったです。…この部屋はローゼ様のために用意した部屋なので」

「えっ……?」


私のために……?

こんな広々としていて、素敵なお部屋をどうして。

婚姻どころか、婚約すらもできていないのに……。


「さて……色々と聞きたいことがあるかと思われるので、お茶を飲みながら少し話をしましょうか」

「はい……あ、でも……お父様達は……」

「サンカリュア国王陛下と王妃殿下のことは大丈夫ですよ。今頃、保護されているはずですから」

「え…?保護ですか……?」

「はい。…そのことについてもこれから順を追って説明いたしますね」


お父様達のことは気がかりだけれど、ゾイス様が大丈夫だと言ってくれているのだからきっと大丈夫よね……。


今はゾイス様を信じるしかないし、とりあえずこの状況についても説明していただきたいし。


「…よろしくお願いいたします」


ゾイス様は頷いて、これまでの経緯を話し始めてくださった。



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