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それから約2ヶ月後。

気づけば出発日の前夜となった。

明日はいよいよ隣国のアニビア大帝国に出発する。


アニビア大帝国までは馬車で1ヶ月はかかるそう。

もう必要なものはほとんど用意してあるから、後は明日身支度を整えて行くだけだ。


私は湯浴みも済ませて、自室の机で読書をしていた。


いつもならベッドの上で読んでいるものの、今夜は明日からのことで少し不安や緊張もあるのか、まだベッドに横になる気にはなれなかった。


読書に集中していると、コンコン、とノックの音がして反射的に体を震わせてしまった。

少し集中し過ぎてしまっていたわ……。


「ローゼ様、メアリーです」

「あら、メアリー。どうしたの?中へ入ってちょうだい」


扉を開いてメアリーを室内へと招き入れた。


「ローゼ様、お休みのところ申し訳ございません」

「いいのよ、気にしないで。それよりもどうかしたの?」

「ありがとうございます。…ええ。実は…今回ローゼ様方がご出席なされるご予定のアニビア大帝国の皇后殿下の生誕パーティーなんですが、この度あの怪盗ナイトから予告状が届いたようなのです…!!」

「まぁ…あの怪盗が…?」


メアリーの口から聞くまですっかり忘れかけていた存在だった。

私としては見たこともないし、結局フランお姉様の婚約パーティーにも現れなかったから、お伽噺のような存在と変わりなかったけれど…。


それがまさか、本当に自身が関わるところで現れるかもしれないなんて。



「今まではこのサンカリュア国内でしか盗みをしてこなかったはずの怪盗が、今回初めて他国のアニビア大帝国で盗むと宣言したんですよ!

 しかも、今回の予告状の内容はいつもと少し違っているんだそうです!

 いつもなら、"新緑の涙"や"海の奇跡"や"黄金の天使"等、少々抽象的な表現ばかりで一見分かりにくいものばかりだったんですよ。

 でも、今回は何故か、

『王妃様の生誕パーティーの夜に、世界で一番美しく輝く"ピンクダイヤモンド"を必ず奪いに参ります』というような、やけに具体的な内容だったそうなんですよ!」

「"ピンクダイヤモンド"?」

「ええ。

 アニビア大帝国の皇后殿下はピンク色の物がとても好きなようで、宝飾やドレス等、全身ピンクに身を包んでいるそうなんです。

 中でも、皇后殿下がいつも身につけていらっしゃるという首飾りの宝石は世界でもトップクラスの輝きと大きさを持つピンクダイヤモンドだそうで。

寝ている間以外は常に身に付けていて、寝ている間も厳重に金庫で管理されているようです。

 ……ですから、恐らくその予告状の"ピンクダイヤモンド"というのは皇后殿下の首飾りのことに違いないという話で持ちきりだそうです!!」

「そうなの……。でも、そんなに皇后殿下が大切になさっている宝飾なら、本当に盗めるとは考えにくいけれど…」

「そうなんですよねぇ。ただ、今まで怪盗が予告状を出して盗みを宣言した物は全て盗まれてしまっているそうなんです…!

 だからこそ、アニビア大帝国でも大変警戒されているようで、警備の見直しもされるようなんです」

「予告状を出した物は全て盗み出しているだなんて…。本当に怪盗なのね……」

「それから、予告状の内容で、今までのものとは、もう一点違った箇所があったそうで……

 これまでなら『~を頂戴しに参ります』と締められていた文章が、

今回の予告状では『~必ず奪いに参ります』となっていたそうなんです!

 だからこそ、今までと様子の違う怪盗の予告状により一層注意しているようなんですよ!」

「それはそうなるのも無理のない話かもしれないわね……」


そこまで話し合ってふと気づく。


もしも本当に怪盗が現れたとしたら会場内はパニックになるわよね。

万が一にでも、皇后殿下の首飾りが盗まれてしまったら尚更。


その場合、きっと私との婚姻のことについての話し合いなんて、とてもじゃないけれどできる空気ではなくなってしまうわ……。


どうにか当日は、怪盗が現れる前に話し合いを済ませなければ……。


「メアリー、その話を聞けて良かったわ。ありがとうね」

「ローゼ様のお役に立てたなら光栄です。私は今回のアニビア大帝国には着いていけませんから…」

「ええ。お父様方にもそのお話をして、当日の動きを決め直すわ」


「……ローゼ様、ご無理なさらなきでくださいね。

 今回の件も応援しています…!

 私達はいつでもローゼ様の味方ですから」


メアリー達には私からは何も話せてないけれど、きっとお父様やお母様方がメアリー達にも事情を話してくれていたんだと思う。


「…ええ。ありがとう、メアリー」

「はい。…では、遅くに申し訳ございませんでした。これで失礼させていただきます。…お休みなさいませ、ローゼ様」

「メアリー、お休みなさい」


メアリーが部屋を去った後は、読書していた本は片付けて就寝することにした。


……どうか、何事も問題なくアニビア大帝国の国王様方と話し合いができますように……。




それからあっという間に2週間が経った。

長い長い道のりをかけて馬車でアニビア大帝国までやって来た。


私達の馬車に気がつくと、城の門番が中まで案内してくださり、馬車を停めて私達は城に降り立った。


そして、私達は愕然としてしまう。




それは……もう既に皇后殿下の生誕パーティーは開始してしまっていたからだ。


王宮の会場内や外からも聞こえてくる音楽や人々の楽しげな声の数々。


お父様によると、手紙に書かれていたパーティーの日付は明日の日付で間違いないとのこと。

ましてや、長旅で疲れているだろうからと、前泊するように書かれていたので、一日早く、本日の夕方頃に到着したというのに。


「これは一体……」


私達が困惑していると、そのまま従者に城内を案内される。


広い城内を歩いていき、一つの大きな部屋の扉の前で立ち止まった。


従者がその扉を開けると、中にはアニビア皇帝陛下らしき御方と…皇太子殿下のアンディーテ様がいらっしゃった。


「いやいや、これはこれは。はるばるサンカリュア王国からよくぞ来てくれた!」


「サンカリュア国王陛下、王妃殿下、それにローゼ王女殿下お久し振りですね」


にこやかに招かれて、席に着くよう促される。

私達は困惑しながらも取り敢えず促されるまま席に着いた。


「今、従者やメイドが来ますので。来たらそれぞれのお部屋まで案内させますから。パーティーはもう始まっているので、部屋ですぐに礼装に着替えて、パーティーに参加していただきたい」


「え、え……っと、申し訳ありませんが、アニビア皇帝陛下。招待状にはパーティーは明日の日付が書かれていましたが……?」


「ああ、そうだったそうだった!

すまないね、急遽日付を変更して、一日前倒しになったんだ。

サンカリュア王国にもそのように手紙を書くつもりだったのだが、すっかりと忘れていたよ」


はっはっはっと、悪びれもなく笑いながらそう告げるアニビア皇帝陛下。

皇太子も「お父上、それはサンカリュア国王方も困られますよ」と言いながらも口元は笑みを浮かべている。


「まぁまぁ良いじゃないか。無事に間に合ったことだし。すぐに着替えを済ませれば生誕パーティーには参加できる。パーティーの本番も夜からだしな!」


随分と一方的な発言ばかりで、私達は呆気に取られてしまい。

こんな状況ではとても話し合いのことなど……と考えていたところで。


お父様は何とかこの状況下でも話し合いをしてくれようと再度口を開いた。


「…パーティーの日付の件は承知しました。…ところで、アニビア皇帝陛下。第二皇子ルデゼルータ殿下と娘のローゼの婚姻についての話し合いですが……」


「ああ!その話し合いは後でじっくりすることにしよう!

 我が息子の第二皇子ルデゼルータは長らく女遊びばかりで妃選びを渋っていたが、ようやく妃を決めてくれて私達も安堵しているんだ!

 それもサンカリュア王国の第五王女ローゼ殿下なら言うことはない!

 本日初めてお会いしたが息子達が言ってた通りの聡明そうな美しい!ルデゼルータにぴったりの女性だ!

 具体的な婚約や嫁入りの日程を色々と話さなければならないが、

まずは我が正妃の生誕を祝ってやってくれ!」


「し、しかし…!」


アニビア皇帝陛下がお父様の口の挟む隙も与えないほど話し続け、お父様も圧倒されてしまっている。


それでも何とか話を続けようとするお父様を遮るように、室内にノックの音が響き渡った。


「皇帝陛下。お部屋の支度が整いました」


「おお!ほら、丁度、部屋の用意が終わったようだから、従者とメイドも来ているぞ!部屋まで案内してもらってくれ!」


従者とメイド達が入室し、私達に一礼すると、「お部屋までご案内いたします」と言い、私達に着いてくるよう促してくる。


「まだ、お話は…!」

「話し合いは後でいくらでもさせていただく。さあさ、早く!着替えて来てくれたまえ!」


これ以上の話は聞く耳を持たないとばかりに、微笑みは変わらず浮かべているのに、その視線は鋭く感じた。


それを見たお父様は、これ以上は今は話をすべきではないと判断したようで、一瞬顔に悔しさを滲ませた後、すぐに切り替えていた。


「……承知しました。それではお言葉に甘えて着替えて参ります」

「ああ、楽しみにしている」


私達は、皇帝陛下方に見送られ、部屋を後にした。



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