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婚約パーティーから3日が経った。

特に今までと変わりのない日々を過ごしている。


本日も変わらない日になるだろうなと、読書をしながらぼんやりと考えていたところ、自室にノックの音が響き渡った。


「ローゼ様、国王様がお呼びでございます。至急執務室まで来るようにとのことです」

「お父様が…?分かったわ、すぐに行くから」


軽く身だしなみを整えて、執事と共に執務室へと向かった。


こんな風に呼び出されたのは、あのダイエットの時以来だった。


今回は本当に呼び出される理由が思い付かないけど、どんな要件かしら。


執務室にノックして入室すると、そこにはお父様とお母様とジェイクお兄様がいらっしゃった。


ただ、いつもと雰囲気が違うような気がした。

……気がしたというよりも、明らかに雰囲気も表情も違う。


お父様やジェイクお兄様は怒っているような感じがするし、お母様は不安そうな悲しそうな表情を浮かべている。


一体どうしたというの……?



「ローゼ、わざわざ呼び出してすまなかったな。そこに座ってくれ」

「はい、お父様」


お父様とお母様の向かい、ジェイクお兄様の隣のソファに座った。


「ローゼ、落ち着いて聞いてほしい。……お前に求婚の申し込みが来ている」

「えっ……?」


全く予想していなかったことを言われ、頭が真っ白になってしまった。


「それも一通ではなく、二通来ている」

「わ、私に……?今まで一通も無かったのに……」


困惑する私を労うように、お父様は頷く。


……デビュタント以降、今まで一度も求婚状は届いていなかったのに。


それにもしそうなら、どうしてお父様達はこんな表情をしているの?



「ああ。……それでだな、昨日届いたんだが…一通目の相手はラーリッシュ公爵家の三男のゾイス君だ」

「……えっ!?」


ゾイス様が……!?

嘘……!そんな、どうして私なんかと……!


再び頭が真っ白になりかけるものの、心のどこかで嬉しいとも思ってしまっている。


内心喜びかけたところで、お母様が先程以上に悲しそうな表情をしているのが視界に入って、それが不思議で少し冷静さを取り戻した。


ゾイス様との話をした時には、お母様も嬉しそうにしてくださって、私よりもずっと乙女のように楽しそうに話を聞いてくれていたのに。



『それも一通ではなく、二通来ている』

ふと、お父様の先程のお言葉を思い出した。

もしかしたら、二通目に何か問題が……?


「それでなんだが……二通目は今朝届いたものだ。二通目の相手は……アニビア大帝国の第二皇子ルデゼルータ殿下だ」

「えっ……」


嘘……?

まさか本当に私のことを……?


婚約パーティーの時のお二方の言動には違和感を覚えたけれど、まさか本当に私に求婚してくるだなんて……。


しかもルデゼルータ様なら、妾とか側妃でもなく、正妃ということ…?


突然の情報量にクラクラし、目眩がしてくる。


「大丈夫?ローゼ」

「大丈夫か?」


心配そうに見つめてくるお母様やジェイクお兄様にかろうじて頷いて見せた。


「正直、どちらも断りがたい相手からではあるが……まず、ローゼ、お前に本心を聞きたい。お前はこのお二方の内どちらかと結婚したいか?それともまだ結婚したくはないか?」


お父様は先程の怒りの表情とは打って変わって、お母様やジェイクお兄様のように私のことを心配そうに見つめながらも、私の気持ちを真剣に聞いてくれようとしていることが伝わった。


私の本心……。


そんなこと今まで一度も考えたことはなかった。


五番目の子どもとはいえ、国王の娘であること、王女であることには変わりはないし。

必ずいつかは誰かしら貴族の方と結婚しなければならないことは理解していたつもりだったし。


お父様もお母様も、私達の幸せを第一に考えてくれていて、できる限り恋愛結婚をしてほしいと言ってくれていたのも本心からだとは分かっていたものの。


肝心な私自身が、私自身に期待なんてしていなくて。


自分の気持ちは二の次で結婚すれば良いと思っていた。


ましてや、誰かを好きになるなんて想像もつかなかったから……。



「私は……」

「ねぇ、ローゼ。こんなこと私が言うのもどうかとは思うんだけれどね。貴方……ゾイス様のことが気になっているんでしょう?」


考え込む私に、お母様は優しく微笑みかけながらそう聞いてきた。


私はゾイス様のことを……?


そんな手の届かないような遠い存在だと思っていた御方を?


でも、確かに……私は先程ゾイス様と結婚できるかもしれないとなった時、とても驚いたし、私とゾイス様では釣り合わないとも思った。


けれど……もし結婚できるのならすごく嬉しいと思ってしまった。


誰かを好きになったことのない私だけれど、これがきっと私の答えなんだと思う。


「……はい、お母様。私は……どうやらゾイス様のことを好きになってしまったようなのです…」


「……そう。そうなのね、ローゼ」



私が素直に頷くと、お母様は慈愛に満ちた瞳で私を見つめてくれていた。


「そうか……。いや実は、私や王妃(フィオナ)もゾイス君との婚姻を薦めたかったんだ。きっと彼ならお前を幸せにしてくれると思ってだな…。…しかし、アニビア大帝国からの求婚状もさすがに無視することはできない。……ただ、私達の幸せは、お前達子どもと国民の幸せだから、どうにかしてでも断りたいと思う」

「お父様……!……でも、アニビア大帝国からすればこの国はどうにでもできてしまいます。だからこそこの求婚を断ってしまえばきっと……」


お父様もお母様もジェイクお兄様もその顔に苦悩を滲ませている。


「……ああ。分かっているさ。……でも、どう考えてみても大帝国に嫁いだお前が幸せになる未来が想像つかないんだ。…それに何よりも、せっかくローゼがゾイス君を好きになったんだ。親としては、娘には好きな相手と幸せになってもらいたいんだ…」

「……お父様…」


お父様の言葉に涙が零れてしまった。

私よりも私のことを想ってくれている。

それだけで私は何よりもの果報者だと思う。


「…本題はここからなんだが、近々アニビア大帝国で皇后殿下の生誕パーティーを開かれるそうなんだ。招待状も送られてきている。招待相手は私達夫妻とローゼ、お前だ。だからそこでルデゼルータ殿下からの求婚についての話し合いを直接しようと思っている。…ローゼ、出席してくれるか?」


皇后殿下の生誕パーティー……。


確かに直接話し合うならその場しかないかもしれない。

私も招待していただけているなら尚更のこと。


「はい、もちろんです」

「必ずその場でどうにか話を付けて、求婚状を取り下げてもらう。…それまでの間はローゼには少し辛い思いをさせてしまうかもしれないが…」

「いいえ、お父様。むしろそこまで私のことを考えてくださっていたとは知らず、私は本当に幸せ者です。ありがとうございます」

「ローゼ……」


悲痛そうな表情を浮かべるお父様、お母様、ジェイクお兄様を安心させるように笑顔を見せた。


……たとえ、どれだけお父様方が頑張ってくださっても、大帝国に嫁がなければいけないかもしれない。


それでも、お父様方がここまで考えてくださっているのだから、私も自分のできることは最大限やり遂げたいと思う。


「俺も何かできることはないか探してみるよ」

「ええ、私も」


ジェイクお兄様もお母様も、私に笑いかけながらそう言ってくれた。


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